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【最新医療】「高分子ミセル」抗がん剤でがん細胞だけを攻撃

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公開日:2015年10月30日

いくつものバリアを潜り抜けてがん細胞へ

 ナノテクノロジーを駆使して極小のカプセルに入った抗がん剤をがん細胞にピンポイントで送り込む投薬システムの臨床応用が現実味を帯びてきました。東京大学大学院工学系研究科(片岡一則教授)などが医療の世界での活用を目指して研究を進めている「ナノマシン」はインフルエンザウイルスよりも小さな「武器」を使って、がん細胞だけを狙い撃ちする技術です。

抗がん剤にはがん細胞の増殖を妨げ、死滅を促す働きがあることは周知の事実です。抗がん剤は、体内をめぐって目的のがん細胞に届きますが、それは成分全体の0.5%にすぎないと言われています。しかし、わずかな量でも抗がん剤をがん細胞に送り込むことができればがん細胞の増殖を抑制し、場合によっては消失できる可能性が高くなります。抗がん剤にはそれほど強力な攻撃力があります。

一方で、残りの抗がん剤は体外に排出されたり、正常な細胞に影響を与えたりします。正常細胞への影響は、髪が抜けたり、唾液が出にくくなったりするなどの副作用として現れます。そこで、正常な細胞には影響を与えず、がん細胞だけに薬を送り込むことが非常に重要になってきますが、体内にはさまざまな障害物があり、それを克服する必要があります。

たとえば、抗がん剤が静脈内に投与されると、血中に入った薬剤はまず異物として排除されないようにしなければなりません。そして血管内で生き延びたあとは、血管の外に出てがん細胞に辿り着かなければならず、がん細胞にたどり着いたらがん細胞内の核に抗がん剤を撃ち込まなくてはなりません。

また、経口薬の場合、抗がん剤は食道から胃を通って、小腸に移動していきます。胃は強い酸性を示し、小腸に移動するにつれて中性、弱アリカリ性に変わっていきます。小腸で薬が吸収されないと、あとは大腸を通過して体外に排泄されてしまいます。こうした消化管内の環境の変化や障壁を乗り越えて、最終目標のがん細胞に届いたときに溶けるように設計することが重要になります。薬の投与方法を工夫して、必要な時、必要な場所に、必要な量だけを作用させることで、薬の効果を最大限に発揮させる方法をドラッグデリバリーシステム(DDS)といいます。

がんの血管の大きな隙間から侵入

 「ナノマシン」には「高分子ミセル」という、抗がん剤をがん細胞だけに送り込むカプセルが使われます。水に溶けやすい親水性の部分と水に溶けにくい疎水性部分がつながったひも状の高分子化合物の、水に溶けにくい部分の末端に抗がん剤を結合させ、これが水や血液に入ると、抗がん剤が内部に閉じ込められ凝集して微粒子を形成します。これが高分子ミセルです。

ナノマシンのナノは長さを表す単位、ナノメートル(nm)のことです。1nmは1mmの1000分の1(1マイクロメートルµm)のさらに1000分の1の大きさです。光学顕微鏡で見える限界が細菌の大きさ1µm(1000nm)で、それより小さいインフルエンザウイルスは100nmです。

ドラッグデリバリーシステム製剤の多くは、数10nm~400nmの範囲で大きさが設計されます。それには理由があります。薬は分子サイズが10nm以下のものが多く、この大きさだと腎臓から排出されやすいので、体内に長くとどまることができません。400nm以上になると、免疫が異物と認識してすぐ排除されてしまいます。

一般的な抗がん剤は血管壁のごく小さな隙間を通ってがん細胞に到達しますが、がん細胞だけでなく正常な細胞にまで影響を与えてしまいます。一方、ナノマシンは正常な血管の隙間は通れず、がん細胞の周囲にある血管の隙間は通れる大きさになっています。

というのも、がん細胞は急激に成長するため血液から栄養をたくさん取りこむ必要があり、正常な血管に比べて作りが粗く、血管壁には大きな隙間がたくさんあるのです。そのため、正常な組織の隙間は通り抜けずにがん組織の近くで血管の外に出て、がん細胞に集まったナノマシンから抗がん剤が放出されるようになっています。

ナノマシンの実用化が現実になってきました。パクリタキセルなどを搭載したナノマシンの臨床試験が行われ、承認も近づいているといわれています。ナノマシン、DDSの可能性はさらに広がっています。ナノマシンが体内を24時間365日巡回し、再発・転移がんなどを検出、診断、さらに治療まで行ってくれる「体内病院」の研究開発も進められています。1日も早く実用化されることが期待されます。