【最新医療】がん薬物療法専門医の認定数1,000人を突破

公開日:2015年07月31日

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10年前の薬物療法専門医制度発足時の認定医師は47人

 化学療法はがん治療では欠かせない治療法のひとつです。新しい抗がん剤が次々に開発されており、がん種によっては、乳がんなどのように治療薬が多く選択の幅が広がっています。また一般的に、化学療法は複数の薬を組み合わせて使用されます。

こうした状況で安心してがん化学療法を受けたいという患者さんの希望をかなえるために、日本臨床腫瘍学会は2005年に薬物療法専門医制度をつくり、専門医認定試験に合格した医師をがん薬物療法専門医に認定してきました。がん薬物療法専門医には以下の要件が求められます。

・臨床腫瘍学を中心に、がんの基礎医学、臨床薬理学、緩和医療学を修得する
・臓器横断的にがん薬物療法を修得したうえで、患者の病態や社会背景にも配慮した質の高いがん医療を実践する
・診療科・職種横断的チームのなかでリーダーシップを発揮する
・がん治療に関するコンサルテーションやセカンドオピニオンに適切に対応する
・科学的な研究手法と論理的な思考を学んだうえで積極的に臨床試験を立案、推進、実践する
・人材育成と教育環境の整備に取り組むことにより、臨床腫瘍学の発展に貢献する
(日本臨床腫瘍学会ホームページ「がん薬物療法専門医像」より)

第1回認定試験に47名が合格し、翌2006年4月1日付けでがん薬物療法専門医として初めて認定されました。認定数は今年1,000人に達し、7月22日現在、1,032名が登録されています。

がん薬物療法専門医とがん治療認定医の違い

 がん薬物療法専門医とは別にがん治療認定医という資格もあります。これは、日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会などの代表で構成される日本がん治療認定医機構が2008年につくった資格制度で、薬物療法に限らず手術、放射線療法などを含むがん診療の基本を学んだ医師に資格が与えられます。がん治療認定医には次の要件が求められます。

・がん治療の全相(初期診断から終末期医療まで)における標準的な医療内容に関して説明責任が果たせる
・外科治療、薬物療法、放射線療法など各々の専門領域において、その標準的治療に対し、指導医・専門医との連携のもとに適正医療の継続に協力できる医師と認定するに必要不可欠な知識、医療経験を有する
・外科治療、薬物療法、放射線療法など各々の専門領域において、先端医療(臨床開発研究)の内容が理解できる
(日本がん治療認定医機構ホームページ「がん治療認定医とは」より)

がん治療認定医は2015年4月1日現在、14,011名が認定されています。がん薬物療法専門医はがん化学療法、分子標的療法、内分泌療法などの薬物療法の専門医であり、基礎的な知識と技術を備えているだけでなく、薬物療法に関する十分な経験と各がん種の生物学的理解、および標準的な薬物療法や緩和医療を含む支持療法の実践が期待されます。

がん薬物療法専門医とがん治療認定医の違いは、簡単にいえばがん薬物療法専門医は責任をもってがん薬物療法が実践できる医師であり、がん治療認定医はがん診療の基本を学び、その先の目標としてがん薬物療法専門医を目指す医師ともいえます。

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日本臨床腫瘍学会学術集会で記念シンポジウム

 7月16日から18日まで、札幌市で開かれた第13回日本臨床腫瘍学会学術集会ではがん薬物療法専門医1,000人達成を記念してシンポジウム「がん薬物療法専門医に望む」が開かれました。5人のシンポジストがそれぞれの立場でがん薬物療法専門医への期待、要望などについて発言しました。

同学会専門医制度委員会委員長の南博信氏(神戸大学大学院医学研究科腫瘍血液内科)は、「臓器横断的にがん薬物療法を習得し、豊かな学識と高度な臨床技能を備えた専門医ががん薬物療法を実践することが重要。また、がん薬物療法専門医は、患者支援のコーディネーターとしての役割が期待される」と述べました。

日本の専門医制度は、現在変革期にあり、多くの学会が加盟している日本専門医制評価・認定機構は、患者さんの視点に立った専門医制度を確立する方向で動いています。高知大学医学部附属病院血液呼吸器内科の横山彰仁氏は「腫瘍専門医として、病気ではなく患者を治療するうえで十分な一般内科の知識、技能がきわめて重要。専門医制度は医師ではなく国民のためのもの」と強調しました。

また、日本対がん協会常務理事の関原健夫氏は、がん経験者の視点から、「化学療法についてわかりやすくていねいな説明を求める。効果のある抗がん剤が開発されるようになったが、固形がんの場合は治癒することは期待できない。そう思いつつも、効果がなかったときの落胆は大きい。死を免れない患者と向き合うことの多い腫瘍内科医には人間力が必要」と指摘しました。

さらに、北星学園大学文学部心理・応用コミュニケーション学科の大島寿美子氏は患者支援者団体の観点から、「がん薬物療法専門医に望むことは、患者さんと一緒に意思決定をする姿勢(shared decision making)を保ち続けてほしい。また、副作用、後遺症への対処の支援なども重要。今後はがんかかりつけ医が必要になる」と述べました。

がん対策推進基本計画では「がんによる死亡者の減少」「すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上」「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」という3つの全体目標を掲げられており、国はその達成に向け、総合的かつ計画的に取り組んでいます。厚生労働省健康局がん対策・健康増進課がん対策推進官の江副聡氏は「がん予防の促進、治療計画の推進による死亡者数減少、がんとの共生とその支援を推し進めていく」とまとめました。

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がん患者さんの病状に対して最も有効ながん化学療法を行うと同時に、精神的・身体的苦痛に向き合ってその解決法を探るがん薬物療法専門医の存在は、積極的に治療を受けようという患者さんにとって心強い存在といえます。今後、さらにがん薬物療法専門医が増えていくことが望まれます。

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