【最新医療 I 】分子標的薬トラスツズマブの適応拡大 〜進行・再発胃がんにも適応が拡大されたトラスツズマブの治療における役割

公開日:2014年06月30日

目次

進行・再発胃がんにおいてトラスツズマブが適応拡大になった経緯

 2011年3月、HER2陽性で治癒切除不能な進行・再発の胃がんに、トラスツズマブの効能・効果が追加承認され、進行・再発胃がんにおける治療が大きく変わりました。HER2陽性とは、がん細胞の増殖に関わるHER2タンパクあるいはHER2遺伝子を過剰にもっていることを意味します。

 トラスツズマブは、もともとHER2陽性の転移性乳がんの治療薬として2001年に承認されており、10年以上も前から使用されている分子標的治療薬です。進行・再発胃がんへの適応の根拠となったのは、日本も参加した国際共同第III相臨床試験(ToGA試験)の結果からです。

 ToGA試験は、進行・再発胃がん患者3,807人のうちHER2陽性の患者584人で行われた大規模試験。フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤(「ゼローダ」または静注5-FU)とシスプラチンの2剤を併用した治療と、それにトラスツズマブ(ハーセプチン)を加えて3剤を併用した治療を比較した結果、トラスツズマブを加えた群で、HER2陽性の進行・再発胃がんの患者さんの全生存期間を有意に延長することが確認されました。これにより、欧州では2010年1月、米国でも同年10月に承認され、海外のガイドラインでも使用が推奨されています。

 

分子標的治療薬HER2について

 トラスツマブは、これまでの抗がん剤治療とはまったく違う仕組みでがん細胞の増殖をおさえます。HER2タンパクは細胞の表面にあり、細胞の増殖や分化の調整に関与しています。何らかの理由でHER2遺伝子の増幅や遺伝子変異が起こると、細胞の増殖・分化がコントロールできなくなり細胞が増え続けてしまいます。それががん細胞です。トラスツズマブは、がん細胞の増殖を促す信号物質のセンサー、HER2タンパクと結合することで、その働きを妨げ、がん細胞の増殖を抑えます。

 さらに、HER2タンパクと結合すると、攻撃の目印となり、NK細胞やマクロファージなどの免疫細胞が、がん細胞を破壊していきます。このように、がんに特異的な特定の分子を標的として、その機能を制御することにより治療することを分子標的治療といいます。また、特定の標的だけを狙い攻撃するので、正常な細胞は打撃をあまりうけないと考えられています。

 胃がんでは、複数の異なる変異が存在するので、個別化は難しいとされていましたが、HER2過剰発現が確認されたことで、胃がん初のバイオマーカーとして個別化医療の進展に期待がもたれています。

 

胃がんにおけるトラスツズマブの役割

 進行・転移胃がんにおいてトラスツマブは、がんの進行に伴う症状を抑えることや生存期間の延長の目的で使用されます。まず、HER2検査を行い、治療に適しているかどうかの判定をします。

 がん細胞の標的となるHER2タンパクの量を調べるIHC法、タンパク質をつくるもとになる遺伝子の量を調べるFISH法があり、どちらも手術や検査で取り出したがん組織を調べます。胃がんでは、乳がんと比べてHER2発現の特徴に違いがあり不均一性が高く、今後は胃がんに適した検査ガイドの標準化が求められています。

 また陽性と判断されても、トラスツズマブは心臓の動きを低下させたり、心不全を起こす可能性がわずかにあるため、高齢の方や以前に心不全や心筋梗塞をわずらったことのある患者さんでは使用できません。また以前に使用して、発疹などのアレルギーがでた方も同様です。

 HER2陽性で上記の症状がない場合、ゼローダ、シスプラチン、トラスツズマブの3剤併用して、3週間を1コースとして治療を繰り返します。副作用は、個人差がありますが、悪寒(さむけ)、発熱、発疹などが見られたり、吐き気や頭痛などがあります。

 また心臓の機能低下により、使用中に普段より疲れやすく、息切れがしたり脈が早いと感じられることもあります。進行・再発の胃がんの場合、根治することは難しく、いかにQOLを保ちながら治療を続けるかが重要です。

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