きちんと知りたい! 放射線治療

公開日:2019年03月11日
放射線治療を知る

手術や抗がん剤治療と並ぶがんの3大標準治療の一つが放射線治療ですが、米国と比べ、まだまだ日本では普及率が低いのが実情です。放射線治療とはどのような治療法なのか?メリット・デメリットや主な副作用、放射線治療の種類などについてご紹介します。

目次

そもそも放射線治療とは?

がんの三大標準治療法

放射線治療は、手術、抗がん剤と並ぶがんを治療するための3大標準治療の一つです。
細胞に放射線をあてると、DNAが傷つき、大量にあてると細胞が死滅してしまいます。正常な細胞は少量の放射線のダメージであれば、数時間で自力で回復することができます。一方がん細胞は、正常細胞と比べ放射線によるダメージの回復が遅いという特徴があります。放射線治療は、この正常細胞とがん細胞の回復力の違いを利用し、がん細胞が回復する前に、繰り返し放射線を照射することで、がん細胞のみを死滅させることを目的とした治療法です。

放射線治療と一口にいっても、放射線治療単体で行う治療から、手術や抗がん剤と組み合わせて行う治療など、がんの部位や患者さんの病状に応じて、さまざまな治療方法があります。

手術との併用では、手術が行いやすいように、がんを先に小さくするために行う「術前放射線治療」や、手術で切除しきれなかったがんを放射線で治療し、がんの再発を防ぐ「術後放射線治療」などがあります。がんの種類によっては、手術中にがんに放射線をあてる治療法もあります。また、骨転移による痛みや肺がんなどによる呼吸困難など、がんの進行によって生じる苦痛の緩和などに放射線治療が行われることもあります。

副作用も少なく、治療効果が高い放射線治療ですが、日本ではまだまだ普及率が低いのが現状です。アメリカではがん患者さんのおよそ60%以上が放射線療法を受けているというデータもありますが、日本では30%程度※といわれています。

日本では、「がんの治療は手術が基本」という考え方が、医師にも患者さんにも浸透していることが理由のひとつだと考えられます。

放射線治療のメリット

放射線治療のメリット

放射線治療は、患者さんへの肉体的負担が少なく、臓器の機能や形態を温存しながら治療ができるという特徴があります。

手術も放射線治療も、どちらも患部に直接働きかける治療法ですが、手術よりもメリットとして考えられる点には以下が挙げられます。

  1. 多くは通院での治療が可能
  2. 手術に比べて身体への負担が少ない
  3. 身体の機能や形態を温存しながらの治療が可能

手術そのものが大きな負担となる高齢者や、がんが転移しているなど全身の状態が良くない方、がんが進行していて手術が困難な方でも治療が可能な場合があります。治療による痛みを伴わないのも大きなメリットです。前立腺がんや肺がんへの定位放射線治療の多くは、通院で治療をすることも可能です。
さらに手術では切除困難な場所にも治療を行うことができる可能性もあります。
がんの種類や患者さんの状態によって、放射線治療の効果や回復までの期間は大きく異なるほか、治療する臓器や部位によって、副作用の起こり方もさまざまです。

また、放射線治療の適応については、患者さんのがん種はもちろん、進行度や体調、これまで行われた治療の内容などにより異なるため、担当医も含め医師とよく相談が必要です。

放射線治療の種類

放射線治療には、治療方法によりさまざまな種類があります。
身体の外側から照射する治療と内側から照射する治療によって大きく2種類に区別されています。身体の外側から放射線をあてる治療法を「外部照射」、身体の内側に放射線を発生させる器具を入れて、がんに極めて近い位置から放射線をあてる「腔内照射」や放射線を経口薬や注射で体内に取り込み、身体の内側から治療する治療法を「内部照射」といいます。現在、多く行われている放射線治療は、外部照射です。
がんの種類や場所などによっては、外部照射と内部照射を組み合わせて行うこともあります。
また、外部照射をする放射線治療に使われる放射線には電子線、X線、γ(ガンマ)線、陽子線、重粒子線などがあり、内部照射に使われる放射線は、γ(ガンマ)線、β(べータ)線、α(アルファ)線などがあります。

外部照射の放射線治療は、従来の放射線治療も含め、高精度放射線治療(IMRT、SRTなど)や重粒子線治療、陽子線治療などで、公的保険の適用が認められています。※
内部照射では、小線源治療などが、一部のがんで保険適用が認められています。

※放射線治療の種類により、適用がん種は異なります。

放射線治療が有効ながんとは?

放射線治療が有効ながんとは?

従来の放射線治療では、がん種による制限はなく、全がん種にて保険診療での治療が可能です。そのほか、放射線の種類や患者さんの状態により適用が異なります。例えば、高精度放射線治療の一つIMRT(強度変調放射線治療)では、前立腺がん、乳がん、膵臓がんなど、血液がん以外の限局性固形がん全てが対象になります。

放射線治療は、原則的に標準治療として公的保険の範囲内で行われますが、保険適用の範囲を超えたがんに対しても、自由診療による治療が可能な場合もあります。また、放射線治療の種類によって保険診療の適用範囲が異なるので、治療を受ける際には、自身のがんへの適用や費用についてもよく医師と相談する必要があります。

気になる放射線治療の副作用と対策

手術に比べて身体への負担の少ない放射線治療ですが、もちろん副作用がないわけではありません。放射線治療の副作用は、主に放射線をあてた場所に起こります。
放射線治療の治療中や治療直後(急性期)に現れるものと、半年から数年たってから(晩期)現れるものがあります。
症状の起こり方や時期には個人差がありますが、治療直後におこる主な副作用は以下の通りです。

・だるさや疲労感
だるい、疲れやすい、やる気がでない、といった症状がでることがあります。
そういった症状を感じたら、無理をせず休みをとるようにしましょう。また治療中は過度な運動などは避けるようにしましょう。

・食欲不振
腸や胃に放射線があたることで、食欲がなくなることがあります。
普段以上に十分なカロリーと栄養を摂ることを心がけましょう。一度にたくさん食べられない場合には、回数を増やす、高カロリーな食材を使うなどの工夫をしましょう。

・吐き気
腹部に放射線をあてることで、胃や腸が影響をうける場合と頭部への照射で吐き気を感じることがあります。
食事は無理をせず食べられるものを食べるようにしましょう。

・下痢
腸へ放射線があたることで便が柔らかくなったり、下痢になることがあります。
消化にいい食事を摂るように心掛けましょう。

・皮膚のトラブル
放射線をあてた場所が日焼けのように赤くなったり、乾燥することでかゆくなったりすることがあります。できるだけトラブルが起きている場所を刺激しないように衣服などにも気をくばり、かいたり、こすったりしないようにしましょう。強い場合には医師に相談し、炎症を抑える薬などを処方してもらいましょう。

・脱毛
頭部に放射線をあてることによって脱毛が起こることがあります。
治療が終わると生えてきますが、ウィッグや帽子をかぶるなどの対策もあります。

上記以外にも、照射する場所によっては、貧血やめまい、のどの渇き、口内炎ができたりすることがあります。

また半年から数年たってから現れる副作用は、がんの種類や放射線をあてた場所によって異なりますが、照射部位の炎症などが主なものです。放射線治療を受ける際には、治療直後の副作用はもちろん、長期的に見たときの副作用にはどんなものがあるか、医師からきちんと説明を受けて、納得してから治療を受けるようにしましょう。

当ページ監修ドクター

柏原 賢一先生

柏原 賢一 (かしはら けんいち) 先生


一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事


主な資格など
医学博士
日本医学放射線学会 放射線治療専門医

カテゴリー放射線治療

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