副作用の軽減が期待されている陽子線治療

公開日:2011年05月31日

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がん病巣へ最大限のエネルギーを発揮し、コントロールできる陽子線治療

陽子線治療とは、がんの3大療法といわれている放射線治療法の一種です。現在、がん治療に利用される放射線は、光子線と粒子線の大きく2つに分けることができます。光子線とは、光の波であり、X線・ガンマ線など従来の放射線治療に利用されています。近年になり光子線に加えて粒子線と呼ばれる放射線を利用したがん治療が行われるようになってきました。  粒子線治療の一種である陽子線は、水素原子から電子をはぎ取り、残った原子核を加速させた放射線です。水素ガスを材料として高温のプラズマ状態の水素原子から電子を引き離すと陽子がつくられます。さらに加速器と言われる陽子を加速させる特別な装置を使うと、がん細胞を破壊する力をもつ陽子線となります。  X線やガンマ線のような放射線は、体外から照射する為にどうしても、がん病巣の手前や、がん病巣を越えた組織にも影響ができてきます。しかし陽子線は体のなかへの透過力が大きく、身体に入る前のエネルギーに応じた深さに到達した段階で周囲に大量のエネルギーを与えます。これをブラッグピークと呼びますが、このエネルギーピークの位置にがん病巣をターゲットすることによって、がん病巣への効果は大きく、さらに正常な周囲の組織の損傷は少なくて済みます。 陽子線治療は、がん病巣の場所で多くの放射線量を与えるためがん病巣のみを集中的に破壊することができます。また、狙った病巣以外には放射線量の吸収が少ないため、正常組織への損傷が少なくなり、体への負担や副作用も少なくなります。手術などでは負担がかかる高齢の患者さんに向いている治療でもあり、治療後の社会復帰も比較的早くできることが期待できます。これは陽子線治療における特徴です。

陽子線治療に向いているがん・向いていないがん

陽子線治療は全てのがんに対して治療できるとは限らないのが現実です。国内の治療施設での例を見てみますと、得意・不得意があることがわかっています。 陽子線治療に向いていると考えられるがんは、頭頚部(鼻腔や副鼻腔、唾液腺・頭蓋底など)、肺、肝臓、前立腺、膀胱などの原発性がんに加え、直腸がん術後の骨盤内再発や単発性の転移性腫瘍(肝転移、肺転移)などです。従来の放射線治療と比較すると、陽子線治療は、周囲の重要な臓器(狙った病巣以外)にあたる放射線量が少ないとされているからです。適用の主な条件は、治療対象の病巣が固形がんであり、原発巣(最初にがんが起こった部分)であること。また、根治を目標にできることが必要となってきます。 一方、対象とされていないのは、胃腸の粘膜に射線することです。これは照射すると潰瘍できやすいため、一般には放射線治療(陽子線以外も)の対象となりません。 また、がんが胃や腸と接している場合や、近接している場合も粘膜潰瘍のリスクがあるため、放射線治療が見送られる場合があります。また、陽子線の治療装置の照射範囲があるため10cm以上のがんの場合は技術的に治療が難しくなる場合があります。原発巣から複数転移(肺、肝臓、骨、脳など)がある場合や、リンパ節へ転移が広がっている場合も陽子線治療のような局所的治療だけでは治療効果が不十分と考えられるため、この場合全身的な化学療法などが選択されます。 厚生労働省が公表している国内で先進医療を実施している医療機関の一覧によると下記(表2)の病院が陽子線治療を行っています。各病院によっての方針は異なることもありますので、具体的な症例や治療方針については病院に問い合わせてください。 (表2) 千葉県 国立がん研究センター東病院 兵庫県 兵庫県立粒子線医療センター 静岡県 静岡県立静岡がんセンター 茨城県 筑波大学附属病院 福島県 財団法人 脳神経疾患研究所附属南東北がん陽子線治療センター

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