前立腺がんの新しい診断法、治療法で患者さまのQOL向上が可能に【特集記事】

公開日:2019年04月26日
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60歳以上の男性の2人に1人が罹患するとされる前立腺がん。近い将来、男性のがんでは罹患率が最も高くなるといわれています。東海大学医学部付属病院泌尿器科では、前立腺がんの診断効率を高める検査を全国に先駆けて行っています。さらに、がん以外の箇所を傷つけることが少なく、がん殺傷効果が高い治療も併せて行っています。同科准教授の小路直先生に新しい診断法、治療法について伺いました。

目次

従来の前立腺生検では、診断精度の点で課題も

国立がん研究センターによると、2015年に新たにがんと診断されたのは89万人で、前立腺がん(約79,000人)は日本人男性が罹るがんでは大腸がん(約78,000人)を抜いて2番目に多くなりました(第1位は胃がんで約85,000人)。

日本で前立腺がんが増えているのは、高齢化によりがん自体の発生が増えていること、食生活の欧米化で高カロリーの食事が影響していることが理由として考えられます。がんができる場所によっては精液に血液が混じったり、尿が細くなったりするなどの症状が現れますが、早期には症状がほとんど出ないことが多いがんの1つです。

現在、市区町村の8割以上が前立腺がん検診で「PSA」による検診を導入しています。PSAとは、前立腺がんで見られる特徴的な物質(タンパク質)で、腫瘍マーカーの一つとして使用されています。

PSAは正常な場合でも血液中に存在していますが、前立腺がんになると血液中に大量に流れ出すため、採血によりPSAの数値を検査します。PSA値は前立腺肥大や炎症でも上昇することがありますが、PSA値が高いほど前立腺がんの可能性が高くなる傾向にあります。

血液検査の結果、PSA値4ng/mL以上は高値と評価され、前立腺がんの有無を調べるために、前立腺生検などの精密検査が行われます。前立腺生検は前立腺に6~20カ所、均等に針を刺して行われ、針に触れた箇所のがんの有無を検査します。

しかし、前立腺がんは、多くの固形がんと違いがんの存在や位置を目視することが難しいため、検査する人によって精度にばらつきが生じることがあり、がんの見逃しの可能性などの問題もあります。

また、針を刺して検査を行うため、出血や感染症などのリスクもあります。しかも、早期の段階でも前立腺内部にがんが多発するという特徴があるため、部分的に治療をすることが難しいとされてきました。

※がんが発生すると通常ならそれほど変化しないはずの蛋白やホルモン、酵素などが増えることがあり、その目印となる物質を腫瘍マーカーと呼びます。

前立腺内部のがん局在診断で、前立腺がんの見逃しを改善

従来の診断法と比べ、診断精度が改善

日本では、前立腺がんの診断にMRIが使われることは一般的ではありません。当科では、前立腺がんの疑いがあるPSAが4ng/mL以上の患者さんに対して、MRI検査と経直腸的前立腺超音波検査(TURS)を並行して行い、前立腺を立体的に描出することで前立腺生検の精度を高めています。ピンポイントでがんに針を刺すことができる、いわば標的生検です。

当科がこの方法で生検を始めたのは2013年で、実施数が600例近くになった時点で、450例を対象に標的生検と従来生検の精度を比較しました。その結果、がんの検出率は標的生検が54%、従来生検が35%でした。

また、再発のリスクがあるなど予後に影響があると考えられるがんの検出率は標的生検が47%、従来生検が20%でした。このように、標的生検は従来の生検より精度が高く、より的確な診断が可能になりました。

従来の前立腺生検 標的前立腺生検査
がんの検出率 35% 54%
予後に影響があるがんの検出率 20% 47%

※小路先生提供データより

前立腺がんのタイプを見分けることも可能に

早期前立腺がんは3つのパターンに分けられます。55%は、がんが前立腺内に分布するタイプです。30%は、がんが一部に限局するタイプです。残りの15%は5ミリ以下のがんで、悪性度が低く、すぐに治療を行わず、経過観察になるタイプです。前立腺内に分布しているタイプと一部に限局しているタイプ(全体の85%)に対しては一般的には全摘、放射線治療による根治的治療が行われます。

従来の生検では、がんの有無しかわかりませんでしたが、MRI画像と超音波画像を融合させて鑑別したがんを三次元画像下で標的生検することによって、がんのある場所、形態、悪性度などが診断できるようになりました。「核磁気共鳴画像-経直腸的超音波画像に基づいた前立腺生検」は2016年に先進医療として厚生労働省に承認されました。

前立腺がんへ、副作用の少ない「高密度焦点式超音波療法」

従来の診断法と比べ、診断精度が改善

前立腺がんの治療法には薬物療法(化学療法、内分泌療法)と非薬物療法(手術、放射線治療、フォーカルセラピー)があります。前立腺がんは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンの刺激で病気が進行する性質があります。

内分泌療法は、男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療です。内分泌療法は手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前後、がんがほかの臓器に転移した場合などに行われます。

手術、放射線治療は根治を目的に行われますが、手術で前立腺の一部または全ての摘出を行った場合は、排尿機能、性機能への影響が避けられません。フォーカルセラピーは、正常な組織を温存することで尿失禁、性機能の低下をできるだけ抑えることが可能で、前立腺内にとどまるがんでは、治療の選択肢の1つとなります。

前立腺がんは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンの刺激で病気が進行する性質があります。内分泌療法は、男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療です。

内分泌療法は手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前後、がんがほかの臓器に転移した場合などに行われます。手術、放射線治療は根治を目的に行われますが、手術で前立腺の一部または全ての摘出を行った場合は、排尿機能、性機能への影響が避けられません。

フォーカルセラピーは、正常な組織を温存することで尿失禁、性機能の低下をできるだけ抑えることが可能で、前立腺内にとどまるがんでは、治療の選択肢の1つとなります。

当科では前立腺内にとどまる前立腺がんに対して、フォーカルセラピーの1つである高密度焦点式超音波療法を用いた局所療法(前立腺部分治療)を行っています。

この治療法は、メスを使わず、超音波エネルギーを集中させてがんを熱凝固とキャビテーションと呼ばれる物理的作用により破壊させるのが特徴です。これまでに130例以上に高密度焦点式超音波療法を実施しています。

治療時間は30分程度で、多くは治療後24時間以内に、尿道カテーテルを抜いて、退院が可能です。退院後の経過も良好で、患者さんへのアンケートでも、排尿障害や性機能障害などの合併症が少ないなど、QOL温存を示唆する回答が得られています。

前立腺がんに対するMRI-TRUS融合画像ガイド下生検と高密度焦点式超音波療法は現在、国内の19医療機関で整備が進められており、日本と同様、前立腺がんが増えている韓国、台湾でも導入されるなど、アジアを中心に広がっています。

ポイントまとめ

  • MRI検査と経直腸的前立腺超音波を融合させることで前立腺内部の3次元的がん局在診断が可能になり、鑑別に役立つ
  • 高密度焦点式超音波療法は、超音波エネルギーを集中させて、がんを熱凝固とキャビテーションと呼ばれる物理的作用により破壊させる。
  • 高密度焦点式超音波療法は治療時間が30分程度で、24時間以内に尿道カテーテルを抜いて退院が可能。

取材にご協力いただいたドクター

小路 直 (しょうじ すなお) 先生

小路 直 (しょうじ すなお) 先生

東海大学医学部付属病院泌尿器科准教授

コラム:高密度焦点式超音波療法

高密度焦点式超音波療法というがん局所療法は、超音波のエネルギーでがん組織を破壊する治療法です。前立腺の体積は20cc程度ですが、たとえば約6ccのがんの場合、治療時間は約12分で、超音波のエネルギーは7,899キロジュールに達します。ジュールは仕事・エネルギー・熱量の単位です。家庭用電気ポットで1リットルの水を沸かすのに必要なエネルギーは450キロジュールです。つまり、その17.6倍のエネルギーがわずか6ccの前立腺がんにかかっていることになります。興味深いのは、超音波が当たっているところの温度は100℃近くまで上がりますが、そこから3、4ミリ離れた周辺組織は40℃程度と、体温より少し高くなる程度です。がん細胞は、超音波エネルギーの熱凝固作用とキャビテーション(cavitation:組織を振動させる作用)によって破壊されます。がんが破壊された後は、貪食細胞が残骸を取り込み、消化し、分解し、組織は修復されます。 前立腺がんの局在診断と局所療法に関する問い合わせは、東海大学医学部附属病院(代表0463-93-1121)、同八王子病院(代表042-639-1111)の事務課へ。

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