【特集記事】がん治療と漢方薬――がん患者さんを支える漢方

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公開日:2017年10月31日

漢方外来のがん患者さんたち

僕は大学では医学の研究や教育に取り組み、大学の付属病院では血管外科の専門医として患者さんの診療を行っています。その一方、愛誠病院(東京都板橋区の本院と台東区上野にある併設のクリニック)では、漢方外来を担当しています。

西洋医学は診療科が分かれていますが、漢方は診療科を問いません。ですから、漢方外来にはさまざまな患者さんがいらっしゃいます。その中には「漢方だけでがんを治したい」という患者さんもいらっしゃるのですが、そういう方には僕は必ず華岡青洲のお話をします。

華岡青洲は江戸後期における漢方の名医でした。外科手術に必要な全身麻酔を行うための人体実験として、奥さんや母親に協力してもらったエピソードが、『華岡青洲の妻』という有吉佐和子さんの小説になっているので、ご存知の方も多いでしょう。なぜ華岡青洲が全身麻酔の人体実験を行ったかというと、乳がんの外科手術を行うために全身麻酔が必要だったからです。

では、なぜ、外科手術が必要だったかといえば、漢方だけでは乳がんを治せないからです。しかし、ご存知のように現在は、乳がんは外科手術や化学療法・放射線治療などの標準治療を行えば、生存率の高いがんの一つです。このようなお話をすると、「漢方だけでがんを治したい」という患者さんも、考え直そうということになります。

最初に声を大にして伝えたいのは、「漢方だけでは、がんは治りません」ということです。

では、漢方は無用なのでしょうか? そんなことはありません。がんの治療自体は、エビデンスのある西洋医学の治療を受けることが基本です。漢方は、そうした闘病を支える面では、役に立ちます。少なくとも悪化させたりはしません。しかも、漢方薬には健康保険が適用されています。経済的な負担が重くないので、多くのがん患者さんにとって選択可能な補完治療方法なのです。

こうした事情を伝え、「外科手術や放射線治療、化学療法など、エビデンスのある治療を受けながら、漢方薬でそれらの副作用を軽減し、がんに立ち向かう気力や体力を養いましょう」とお話しすると、「漢方薬だけで」から「漢方薬も使って」というふうに、ほとんどの患者さんの気持ちも考えも変わります。そういうわけで僕の漢方外来には、がんの治療は西洋医学の主治医のもとで行いながら、がん治療や闘病のサポートのために長く通ってくるがん患者さんが少なくありません。

西洋医学の視点で漢方薬を活用

漢方外来でがん患者さんの多くに処方するのは、朝鮮人参(チョウセンニンジン)と黄耆(オウギ)をブレンドした参耆剤(ジンギザイ)の「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」です。これはがんに限らず大きな病気に処方されることが多い漢方薬で、気力と体力が維持できます。胃に障る場合には、これを六君子湯(リックンシトウ)に変更します。

冷えがある場合には、体を温める効果のある付子(ブシ)を追加することもあります。なぜかというと、がんの患者さんは体が冷えているケースが多く、体を温めると抗がん剤の効きも良くなるからです。西洋医学には、ハイパーサーミアという、がん細胞が正常細胞に比べて熱に弱い性質を利用し、がん細胞だけを選択的に弱める温熱療法があります。

このように、体を温めること自体が、がん治療につながると考えられます。僕はこのような西洋医学的視点で漢方薬を上手に使いながら、がん治療のサポートを行っているのです。

なぜ、西洋医学的視点で漢方薬を活用しているのか、その理由について少し触れておきましょう。冒頭で申し上げたように僕自身は西洋医学の専門医です。しかし、20年前に日本初のセカンドオピニオン外来を開設し、さまざまな患者さんと出会う中で、西洋医学で治らない症例をたくさん経験しました。その治療を模索する中で漢方薬の有用性に気がついたのです。

漢方というのは、中国伝来の伝統医学が江戸時代前後に入ってきて、日本で独自に発展した医学です。西洋医学の蘭方と区別するために漢方と称されました。その漢方という医学で処方されるのが漢方薬です。主に植物など自然由来のものを煎じて服用する生薬と、それをフリーズドライにして飲みやすくしたエキスに分けられます。生薬はレギュラーコーヒーで、エキスはインスタントコーヒーと理解すればわかりやすいでしょう。

最初は独学で漢方について学び、まず自分自身で漢方薬を試してみました。「どうせ効くはずがない」と思ってエキスを服用し始めたのですが、気がつけば体重90kgが70kgに、そして手術必須と覚悟していたほどの痔の症状が良くなり、テレビ出演前のメイクルームで「前は薄かったのに髪が増えましたね」と言われてびっくりしました。

その後、漢方界の大家である松田邦夫・漢方医学研究所松田医院院長に師事し、自分自身はもちろん家族にも実際に使いながらその効果を体験しつつ、西洋医学の診療に活かすようになったのです。そして、さまざまな訴えや病状について、西洋医学の視点で保険適用の漢方薬を選択し、治療することを「モダン・カンポウ」として実践しています。

漢方外来にいらっしゃるがん患者さんに対しても、このモダン・カンポウを実践し、一人ひとりの心身の状態に応じて「補中益気湯」をはじめとするさまざまな漢方薬を処方しています。

些細な治療の積み重ねを無視しない

漢方薬は1日に3回、基本的には食前に服用します。食前に忘れてしまったときは、食後でも問題はありません。生薬は600ccの水を加え、30ccになるまで煮詰めて飲みます。エキスは顆粒状なので、西洋薬と同様に水で飲みます。

やめる時期というのは特に定まっていませんが、患者さんが「味が変わった」とか「余った」というときを「やめるタイミング」としています。味が変わったというのは体調の変化があったと考えられますし、余ったというのは症状が改善して飲まなくても良くなったからと受け止めているからです。

現在、健康保険が適用される内服の漢方エキス剤は148種。患者さんの中にはエキスではなく生薬を希望するケースもあります。生薬は高価なので自費診療となることが多いのですが、僕が担当している上野のクリニックの漢方外来では保険適用です。

自宅で煎じるのは手間暇かかりますが、最近は便利な自動煎じ器もあります。エキスはドラッグストアなどでも市販されていますが、医療用との違いは含有成分の濃度で、市販品のほうが薄いことが多いです。

漢方薬の良いところは、じわじわ効くということです。言い換えると効き目が薄いということでもあり、これは副作用があったとしてもいきなり生命危機には陥らないということでもあります。効き目がない場合には、その患者さんに合う漢方薬を探しながら、処方を変えていきます。

もう一つ、漢方薬の良いところは、健康保険適用なので経済的負担の心配がないことです。一般成人の場合、1日1包服用するなら3割負担で1カ月の薬代は平均1000円、つまり1日当たり約30円です。

漢方薬に対して懐疑的あるいは否定的な医師は少なくないですが、経済的でがん治療に害が及ばないのですから、患者さんが漢方薬を望むのであれば、僕は患者さんの意思を尊重すべきだと思います。

そういう思いで、この春に『フローチャート がん漢方薬 サポート医療・副作用軽減・緩和に!』(新興医学出版社)を上梓しました。がん治療の補完医療として、またがん治療の副作用対策として、どのように漢方薬を使えばいいのかフローチャート式にまとめたものです。

がん患者さんに知ってほしいこと

世の中にはエビデンスのない、自費診療のがん治療法がたくさんあります。僕は機会があればそういう治療法を実践しているところに出かけて行って、見学させていただいたり、お話を聞かせていただいたりしています。

そして、医学的、科学的に、自分なりの判断を下していますが、これまでのところ内容は玉石混交でした。

玉石混交の自費診療は経済的負担も大きく、何よりも玉なのか石なのか、その判断は患者さんやそのご家族には難しいでしょう。そんな時はかかりつけ医の先生と十分に相談して決めてください。

あるいはセカンドピニオンをとるのもいいでしょう。大事なことは、何でも盲信しないで、冷静に調べて、考えて、がん患者さん自身がどのように暮らしていきたいのかを選択することです。

僕の漢方外来に通ってくる患者さんたちは、どのように暮らしたいか、生きていきたいかを考え、漢方を選択しました。漢方治療を併用していることを主治医に伝えているケースも、黙っているケースもあります。

いずれにしろ、こうして漢方外来にいらっしゃるがん患者さんを長く、たくさん拝見していると、「奇蹟」を経験することがあります。例えば、余命が長くないと宣告されていた患者さんが長く穏やかに生活されていたり、手術をしていないのに腫瘍が消えていたりということがあるのです。

ただ、それは全てのがん患者さんに起こるものではありません。がん治療の場合、エビデンスがある治療が全て行われた後は、西洋医学ではやることがなくなります。そんなときに、生きる意欲を持った患者さんが、食事、運動、ストレスへの対処、冷えの防止など、心身を健やかに維持する「些細な治療」をいろいろと積み重ねると、5%から20%ぐらいのささやかな頻度ですが、奇蹟が起こるのだと考えています。

がん闘病を支える「5つの些細なこと」

最後に、僕自身が考える「がん闘病の心得5か条」についてお話ししましょう。それは「5つの些細なこと」の実践です。

1)高たんぱく質な食事
日本人の食事バランスを見ると、炭水化物をとりすぎです。一方、がんの大好物も炭水化物です。がんと闘う免疫系のリンパ球を増やすためには、炭水化物を少し控え、たんぱく質をとるように心がけてください。流行の糖質制限食ではありません。ごはんや麺類、パンなどの主食を控えめにして、お肉やお魚を少し多めに食べるということです。難しく考えなくていいのです。例えば、毎日の朝食に卵を1個食べる。これなら安上がりで簡単ですから、いつでも始められるでしょう。
2)有酸素運動
がんの治療を受けるには体力が必要です。有酸素運動で体力を維持しましょう。簡単なのは、朝夕30分ずつの散歩です。もちろん、日頃から慣れ親しんだ運動があれば、その継続でも結構です。米国の乳がんで闘病中の患者さんたちの間では、すでに有酸素運動をするのがスタンダードになっているそうです。
3)身体を温める
がん患者さんの多くは身体が冷えています。冷えを改善すると抗がん剤の副作用が軽減し、効きもよくなります。身体を冷やさないように努めてください。冷たい野菜ジュースではなく、温かい野菜スープで栄養をとるなどの工夫をしましょう。
4)漢方薬を飲む
保険適用の漢方薬で、がんと闘う気力と体力をととのえてください。がんによる苦痛や治療の副作用を軽減する処方もあります。また、漢方薬を治療に取り入れている病院を探すなら「保険適用の漢方薬を出してくれますか?」と病院事務に問い合わせると、その可否がわかります。
5)希望を持つ
僕は何よりも希望が大事だと思います。その希望とは、がん治療の医師が言う生存率ではありません。些細なことの積み重ねの先にかすかに見える奇蹟を目指し、患者さん自身ががんに負けずに生きようとすることです。

「5つの些細なこと」の実践が、がん闘病の支えとなり、奇蹟につながりますように。

※掲載している情報は、記事公開時点(2017年10月31日)のものです。