【特集記事】手術後の経過観察は治療の一環

公開日:2016年04月28日

一般的に多くのがんの経過観察期間は5年とされ、がんによっては、5年~10年を過ぎても再発の可能性があります。そのため、手術を受けた後の定期検診は、がんの再発・転移を早期発見するためにも非常に重要で、手術後の経過観察は治療の一環です。今回のドクターインタビューでは、治療後の定期検診の重要性や、がんの再発・転移が見つかった際の「魔の2週間」の乗り越え方などについて、医療法人社団ミッドタウンクリニック 理事、森山紀之先生にお話しを伺いました。

目次

手術後の経過観察の重要性と現状

 これまでに1,000人以上の方にがんの告知をし、患者さんとそのご家族に向き合ってきました。現在、主にがん検診の読影医として画像診断に携わっており、これらの経験から、手術後の経過観察(定期検診)の重要性などについてお話しします。

初発でも再発でもがんを早期に発見するためにはできるだけ間をおかずに定期的に検診を受けることの重要性について異論はないでしょう。通常、がんの手術後3年間は体調の変化や再発・転移の有無を調べるために6カ月に1回は胸部X線、内視鏡、CT、超音波、腫瘍マーカーなどの検査を定期的に行います。多くのがんの経過観察期間は一般的に5年とされています。

一方、乳がんのように手術後5年、10年を過ぎてからでも再発することがあるがんは長期にわたる経過観察が必要になります。乳がんの場合、術後は6カ月に1回の頻度で定期的に検査を行い、健康状態を見ながら徐々にその間隔を広げていき、術後5年が経過した後は1年ごとに10年後まで行うのが一般的です。

がんを画像検査で診断するには、5ミリ程度の大きさが必要です。臓器によってはもっと小さい段階で見つかることもあれば、5ミリ以上にならないと見つけにくいものもあります。手術で取りきれなかった小さながんが画像検査で見つかる大きさになるには、通常は数カ月から数年の時間を要します。

また、検診でがんが発見された時点で、すでに転移していることもあります。顕微鏡でなければ見つけられないほど微小ながんが潜在する可能性もありますが、それを確実に見つけられる検査法はいまのところありません。

再発・転移が心配で術後1カ月ごろから頻繁に検査を受けることを望む患者さんがいます。また、術後3年経過しても半年ごとに検査を受ける人もいます。がんが見つかってすぐ手術をしても、数カ月後に新たにがんが出現するとまた手術をしなければいけない場合もあります。

こうした場合は、全身の様子を見ながら、新たながんが現れてこないことを確認してから手術することがあります。私の親類は、大腸がんの手術を受けて2年後に肝臓に5ミリ大のがんが発見されてもすぐに手術を受けず、ほかにがんが出てこないことを確認してから手術を受けました。その時点でがんは3センチになっていました。術後約40年が経過しましたが、現在も日常生活に支障なく暮らしています。

手術後の経過観察は治療の一環です。がんが完治しているのか、この先に再発してくるのか、医者が経過を注意深く観察しなければわかりません。定期的に検査を受けることは重要です。中には、治療後に病状が改善していることがわかると安心して、定期検診に熱心でなくなる患者さんもいます。

そのため、半年先に検査が予定されている患者さんには、その1カ月前に外来で検査の予約をするように案内して、さらに確実に検査を受けてもらうように念を押すこともあります。それでも検査を受けない人がいます。

それほど声を大にして定期検診の重要性を訴えても理解してもらえない、日本人のがん患者さんの実態を深刻に受け止めています。市区町村が実施している対策型検診(住民検診)の検便の潜血反応が陽性で再検査を受ける人が半数しかいないという状況も同様に深刻です。

がんの疑いを示す検査結果に対して「大丈夫だろう」「なんとかなるだろう」と楽観的に自己判断し、精密検査を受けずにすませる人たちに自分自身の健康問題として危機感を持ってもらうためにはどうすればよいのか、今後の日本の医療政策を考える上でも重要な課題です。

場合によってはサードオピニオンも

 治療が無事に終わって治療効果があっても患者さんは解放感を感じることはなく、退院後に突然不安に襲われることがあります。先行きが心配になるのは当然のことです。早期発見、早期治療で治癒に至った患者さんでも、再発・転移に対する不安は常につきまといます。

「どうなるかわからない先のことを思い悩むより、いますべきことを考えましょう」というメッセージを、治療を終えて経過観察に入るすべての患者さんに送りたいと思います。受験と同じで、受験の1カ月前に神社で合格祈願を一生懸命したところで実力通りの結果が出るものではありません。不合格になったら親に怒られるのではないか、友達に見下されるのではないかと心配する余裕があったら、残りの1カ月でほかにすべきことがあるはずです。

患者さんの中には経過観察中に再発・転移に関するセカンドオピニオンを希望される人もいます。ただ、がんが再発・転移するかどうかもわからない状況でセカンドオピニオンを求められても、医師も一般的な意見しか答えようがありません。患者さんは消化不良のまま再発・転移のことばかり考えるようになってしまいます。患者さんにはもっと有効な形でセカンドオピニオンを受けていただきたいと思います。

経過観察中に民間療法をためす人も少なくありません。民間療法といってもさまざまで、インターネットで検索すればたちどころに「治る」商品が掲示され、「成功」した体験談も山ほど出てきます。「100%治る」「絶対に大丈夫」などといった謳い文句を掲げた治療や方法には特に注意する必要があります。

「魔の2週間」をうまく乗り越える

 初めてがんの告知を受けた患者さんの多くは「魔の2週間」という時期を経験します。初めの1週間はショックの時期で、次の1週間は不安や抑うつに苛まれる時期です。この2週間を乗り切れば、たいていは現状を受け入れ今必要なことと向き合い、前向きな気持ちになって、治療を受けることにもつながります。

しかし、うまく乗り越えることができないと適応障害やうつ病になることがあります。再発・転移の告知を受けた患者さんも同様に「魔の2週間」の時期がありますが、初発の告知より残された時間を強く意識します。絶望感も大きく、性格が変わったようになることもあります。もっとも、後で患者さんに聞くと、半数以上はその時期のことをあまり覚えてないといいます。

がんが再発・転移して手術ができない場合は、化学療法や放射線療法などの治療法について説明します。主治医は患者さんに理解してもらえるようにできるだけわかりやすく説明するように努めますが、再発・転移を受け入れられない患者さんの中には、途中で席を立ってしまう方もいます。目の前の恐怖から逃れたくて、何かにすがりたくなる患者さんのそうした行動は自然な反応ともいえます。

しかし、患者さんには冷静に現状を受け入れてもらわなくては前に進むことができません。再発・転移がすぐ命に関わるとは限らず、必要以上に恐れることはありません。抗がん剤や放射線でもぐら叩きのような治療を繰り返しながらQOLを維持して人生を全うする患者さんは多く、あきらめないでほしいと思います。

検査や治療法について必要な情報を収集することも重要です。がん研究センターや大学病院が発信する情報であれば信頼ができるでしょう。必要があれば適宜セカンドオピニオンを受けることをお勧めします。場合によってはサードオピニオンまで受けることも可能です。

一日に15分間でも、がんのことを忘れる

akiramenai_gk201605_img02 患者さんにとって家族は大きな支えになりますが、気をつけていただきたいことがあります。がんのつらさから患者さんは「死んでしまいたい」と思うことがあります。時として身近な家族にその気持ちを素直に吐露することもあります。

「死にたいなんて言わないで」という反応は、救いを求める患者さんに対して拒絶の言葉となります。「そんなにつらいんだね」と、患者さんのつらさをそのまま受け止めることが大切です。また、患者さんが必死で入手した情報の治療効果を「うのみにしないで」と返せば、患者さんにとって厳しい批判の言葉ともなります。この場合は患者さんをただ見守ることも重要です。

とはいえ、家族が第二の患者になる可能性もあるので、頑張り過ぎないようにしてください。一日に15分間でもいいですから、敢えてがんのことを考えない時間を作るようにしましょう。

私は日ごろ患者さんからよく相談を受けます。「主治医との信頼関係が築けない」「治療法がないと言われ、混乱している」「気持ちの整理がつかない」などさまざまな悩みを抱えています。治療に関する問い合わせもありますが、患者さんから聴取できる必要な情報が少なく、十分にお答えすることができません。

例えば、子宮がんの患者さんで「子宮がんで転移があると告知されました。主治医から抗がん剤しか治療法はないと言われましたが、ほかにいい治療法はありますか」という質問を受けました。せめて、どこに転移して、その大きさや個数を情報として加えてもらうだけで、より具体的な説明ができます。肺への転移で、数がそれほど多くなければ放射線治療という選択肢があることだって伝えることができるのです。

私が担当した患者さんの1人は、前立腺がんが骨に転移し、主治医から運動を控えるように言われました。患者さんは大好きなゴルフができなくなって、うつ病になりました。その後、私のところに転院してこられました。検査の結果、肺への転移が認められたものの、骨への転移はゴルフを止めなければならないほどのものではないと判断しました。そこで患者さんにはゴルフを再開してもらいました。患者さんは、末期を迎えるまでゴルフを楽しみ、ベッドサイドにゴルフバッグを置いて最期を迎えました。

主治医と患者さんが意思疎通を図るためには双方の努力が必要です。患者さんはまず冷静になり、現状を受け入れ、正しい医療情報を選択することが大切です。自分に都合のいい情報ほど用心して、迷った場合はセカンドオピニオンを受けることをお勧めします。医師は、患者さんお一人お一人の生活背景や性格なども踏まえてがんを診ることで、信頼関係が築けるのではないかと思います。

ポイントまとめ

  • 定期検診は重要だが、検査で異常が見つかっても精密検査を受けない患者さんも少なくない。危機感を持ってもらうことも、今後の重要な課題。
  • 「どうなるかわからない先のことを思い悩むより、いますべきことを考える」ことが大切。民間療法を試す際は、「100%治る」「絶対に大丈夫」などといった謳い文句に注意する。
  • 魔の2週間をうまく乗り切れないと、適応障害やうつ病になることも。冷静に現状を受け止めて検査や治療法について必要な情報を収集することも重要。必要に応じて、適宜セカンドオピニオンやサードオピニオンを受ける。
  • 家族が第二の患者になる可能性も。一日に15分間でも敢えてがんのことを考えない時間を作り、頑張り過ぎないことも大切。

取材にご協力いただいたドクター

森山 紀之先生

森山 紀之 (もりやま のりゆき) 先生

一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク 理事
医療法人社団ミッドタウンクリニック 理事

医療法人社団進興会 理事長
グランドハイメディック倶楽部 理事


主な資格など
■略歴
1973年 千葉大学医学部卒業
1986年 米国Mayo Clinic 客員医師
1987年 国立がんセンター放射線診断部 医長
1992年 国立がんセンター東病院放射線部 部長
1998年 国立がんセンター中央病院放射線診断部 部長
2004年 国立がんセンターがん予防・検診研究センター センター長
2010年 独立行政法人国立がん研究センター がん予防・検診研究センター センター長
2013年 医療法人社団ミッドタウンクリニック常務理事 兼 健診センター長 医療法人社団勁草会理事
一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク理事に就任
2016年4月 医療法人社団進興会 理事長に就任
2016年8月 グランドハイメディック倶楽部 理事に就任

コラム:術後の定期検診

手術を終えると、がんの再発・転移などの経過観察として、定期検診を行います。がんの再発は部位によって異なりますが、治療後3年以内に起こることが多く、治療後3年までは3ヶ月から半年に1回、以降だんだんと定期検診の間隔は長くなっていきます。定期検診の年数はがんの部位、これまでの経過などによって異なりますが、ご自身で判断せず、病院や先生のすすめる間隔で受けることが大切です。早期がんであっても、再発の危険性あるので、術後5年間は医師の指示に従い、定期検診を受けることが大切です。 

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