【特集記事】先生のご家族や知り合いの方ががんになったらどうしますか? VII

公開日:2013年12月02日
先端がん治療紹介の編集方針について

「再発転移がん治療情報」では、がん治療に精通した医師の方へのインタビューや学会、患者会ほか独自の取材を通して、がん治療情報を随時ご提供しております。手術、抗がん剤、放射線治療といった標準治療についての情報はもちろん、免疫療法や漢方などさまざまな治療法を取り上げていきます。また、このサイトでは特に進行がんやがんが再発・転移された方に有用と思われる情報を掲載していきたいと考えております。
がん治療に関するニュースや情報サイトは他にもたくさんありますが、再発・転移がんに特化したものは少なく、また、毎日更新される膨大な情報をチェックし、ご自身の治療に役立つものをピックアップしていくことは容易ではありません。
本サイトでは、再発・転移がんの治療を対象としたトピックをどなたにも分かりやすくお伝えし、治療を必要とされる患者様へ新しい選択肢をご提供したり、前向きに治療に取り組むお手伝いが出来るサイト作りを目指しております。

目次

父はセカンドオピニオンをしました。

 いまから11年前のことですが、私の父は大腸がんにかかりました。お腹が痛いといって、実家の近くの病院にかかったのですが、大腸がんと診断されて、即日手術と言われてしまいました。がんの診断で即日手術なんてあり得ないだろうと思い、私も病院に向かい説明を聞くことにしました。

 やはり納得がいかない部分があり、結局のところ、その当時に自分が勤めていた大学病院の外科にひきとってもらいました。信頼する外科医に私も手術に立ち会わせてもらい一緒に手術をしました。幸い、父は再発なく今も元気にしています。私の父の場合は最初にかかった病院で切らなくてよかったケースだと思います。

 このケースでは最初の病院と大学病院の間に手術に関するスキルの差があったと考えられます。大腸がんの正しい診断・治療ができる病院で治療を受けてよかった事例です。 実は、父ががんになり、医師として最善の手を尽くす中で、もう一つ考えさせられたことがありました。果たして自分はこれまで診てきた患者さんたちに対してここまで一生懸命尽くしてきただろうかと。それ以来、私は、出会った患者さんにはできるだけ自分の家族に置き換えて診療するように心がけています。

 また、私の叔父が咽頭がんになった時のことです。最初にかかった病院で、手術の説明の時に、「術後は“食べること”と“話すこと”が難しくなるでしょう」と言われてしまいました。咽頭がんや喉頭がんを含む頭頸部がんは非常に特殊ながんです。5大がんと比較すると症例数も多いものではありません。

 症例数の少ないがんなどは、技術の差がより顕著にでることがあります。叔父のケースでも、病院を変える選択をしました。咽頭がんなどの頭頸部がんの治療に関しては、いま私がいる国立がん研究センター東病院が、日本で一番患者数が多く、治療を得意としています。そのことから、叔父のケースでは当院での治療に切り替えることにしました。当院で治療を行った結果、“食べること”と“話すこと”の機能はそのまま残すことができ、いわゆるQOLを下げることなく治療をすることができました。

 5大がんと言われる胃がん・肺がん・肝臓がん・大腸がん・乳がんの治療は標準化されてはきましたが、がん治療においては、化学療法・放射線治療ともまだまだ地域格差や病院間格差が存在するのが現状です。特に希少がんは経験とスキルをもっている病院にかかることが良いでしょう。

 本人や家族が望むのであれば、交通費はかかりますが、遠くても専門病院での治療が良い場合もあるでしょう。ただ、治療の選択には様々な因子が絡み合います。医師ですら、正解を導くことが難しい場合もあります。最終的には、その患者さんの状態、疾患の種類、ご家族の状況などを含めて総合的に判断することが大切です。

 よく主治医に話をされて、またできればセカンドオピニオンも受けて、複数の医学的な判断も聞いて、冷静な判断をするように心がけて下さい。

新しい治療の開発には患者さんの理解が必要です。

 いま私は国立がん研究センターで新しいがんの免疫療法を開発する立場にいます。患者さんから協力を頂いて臨床試験もしてきました。臨床試験に関して、少しお話をさせて頂きます。

 新しい薬が保険適用されて多くの人に使ってもらうためには、最終的に臨床試験をおこなって患者さんへの効果を確認せざるを得ません。確認をするということですから、たしかに結果はやってみないと分からないのですが、臨床試験に参加するということは、標準治療が効かなくなった患者さんにとっては決して悪い選択肢ではないと思います。

 GPC3のペプチドワクチンの第一相試験を行ったときですが、他の治療がないと言われた肝細胞がんの患者さん33人は全員が希望を持って試験に挑んでくださいました。中には「自分は人体実験でもいいから後世の役に立ちたいし、ぜひ私の身体で試してほしい」とおっしゃる患者さんもいらっしゃいました。医療のひとつの役割として、患者さんに希望を与えることはとても重要な部分です。

 そして、効果も伴うことができたら理想的といえるでしょう。実際は、臨床試験に参加してくださった患者さんすべてが幸福になるわけではありませんが、臨床試験には、新しい治療や薬を開発する側の期待、そして誰よりも臨床試験に参加する患者さんやご家族の期待が込められています。

 病院で処方されるような薬は、製薬会社が長い時間をかけて開発したものです。薬事法の下に治験を行い、結果が良かったものがPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)に審査されて保険適用になっていきます。効果を示せた薬が承認されて標準治療になっていくわけですが、中には、承認されなかった薬の方が効果を期待できる患者さんだっているはずです。

 確率といった意味では、保険適用される標準治療の方が数値は高いのかもしれませんが、患者さん全員がその効果を受けられるわけではありません。最近では、個別化医療(パーソナライズドメディスン)といった考え方が出てきました。標準治療が効く患者さんだけがメリットを受けるのではなく、多くの医療資源の中から一人ひとりに対応した治療法を提供するといった考え方です。

 個別化医療の問題点としては、選ぶ薬の種類が多くなるため、患者さん自身の理解がより必要になってくることと、経済的負担が大きくなることなどがあげられます。しかし、選択肢の増加が患者さんにとってメリットにもなりえます。標準治療から個別化医療へと進んでいっている中、どこでどのような治療を受けるかという選択が複雑化し難しくなってくると考えられます。今後は益々セカンドオピニオン等が重要になってくると思われます。

PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構) は保険適用される薬の承認審査業務を行っている機関です。

患者さんには希望を持ち続けて欲しい

 当院にはがん免疫療法を受けたいといった問い合わせが多く寄せられます。少し前までは大学などの研究機関でペプチドワクチンも様々な臨床試験が行われていましたが、最近では以前よりも臨床試験の数が少なくなってしまっています。民間のクリニックでやっている免疫療法はどうかといったことも聞かれます。

 我々の研究も含めてですが、保険適用された薬のようにエビデンスとして確立されているわけではありません。中には効く人がいることは事実でしょう。しかし、誰にでも効く免疫療法なんて存在していないのも事実です。一方で、標準治療をもう受けられないどころか、臨床試験に入りたくても、状態が悪かったり条件が合わなかったりして入れない患者さんは山のようにいらっしゃいます。

 私は医師として、もうあなたには治療法はありませんと宣告され、希望を失くしてあっと言う間に命を落とされた患者さんをたくさん診てきました。患者さんとそのご家族の方が理解した上で、希望を捨てずに治療に取り組むことは、意味のあることだとは思っています。そういう意味で、患者さん・ご家族の希望をつなぐために、保険適用の標準治療でもない、臨床試験でもない治療が果たしている役割は完全に否定するものではありません。

 しかし、いよいよ最後の状況では、無理して治療することが必ずしも良いとはいえない、つまり積極的な抗がん治療は受けない方が良いかもしれない場合だってありえます。私の経験から言いますと、患者さん本人が治療に対する強い意欲を示される場合ももちろんありますし、家族の方が「何かの治療を継続して受けさせたい」と希望されるケースもあります。

 状況によっては治療で体力を削ってしまうより、少しでも家族と語らう時間を増やす方が重要な場合もあるでしょう。身体に与える影響に関しては医師が生物学的な観点からアドバイスをすると思います。治すことが難しい状態の場合には、治癒を目指すということだけでなく、症状を取るといったことも、重要な治療のひとつと考えてください。

 仮に、あなたにはもう有効な治療法はありませんと言われたとしても、あるいは積極的な治療を受けられない状態になったとしても、医学の世界は日進月歩です。希望を持ち続けていれば、新しい治療が生まれるかもしれません。我々も含め、世界中の研究者たちが、患者さんとご家族に笑顔をもたらすような薬や治療法の開発を目指して日夜努力しています。

 どんな状況になっても、希望だけは持ち続けてほしいと思います。そして、患者さんとご家族が手に手を取り合って、一日一日を大切に過ごしてほしいと思います。

取材にご協力いただいたドクター

中面医師

中面哲也 先生

国立がん研究センター
早期・探索臨床研究センター
免疫療法開発分野 分野長

関連記事

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。