【特集記事】先生のご家族や知り合いの方ががんになったらどうしますか? VI

公開日:2013年11月05日
先端がん治療紹介の編集方針について

「再発転移がん治療情報」では、がん治療に精通した医師の方へのインタビューや学会、患者会ほか独自の取材を通して、がん治療情報を随時ご提供しております。手術、抗がん剤、放射線治療といった標準治療についての情報はもちろん、免疫療法や漢方などさまざまな治療法を取り上げていきます。また、このサイトでは特に進行がんやがんが再発・転移された方に有用と思われる情報を掲載していきたいと考えております。
がん治療に関するニュースや情報サイトは他にもたくさんありますが、再発・転移がんに特化したものは少なく、また、毎日更新される膨大な情報をチェックし、ご自身の治療に役立つものをピックアップしていくことは容易ではありません。
本サイトでは、再発・転移がんの治療を対象としたトピックをどなたにも分かりやすくお伝えし、治療を必要とされる患者様へ新しい選択肢をご提供したり、前向きに治療に取り組むお手伝いが出来るサイト作りを目指しております。

目次

イントロダクション

 私が勤務するNTT東日本関東病院では、日本に多い5大がん(肺がん・胃がん・肝がん・大腸がん・乳がん)だけでなく、その他の臓器のがんや血液腫瘍などについて、集学的治療(手術療法、化学療法、放射線治療を適切に組み合わせたり、緩和医療を含む複数の診療科間で相互に診療支援を行う治療のことをいいます)を提供しています。

 また、地域の医療機関からの紹介患者の受け入れや患者さんの状態に適した地域の医療機関への逆紹介をおこなっています。地域の先生方からの症例相談や、診断、特殊な治療依頼(病理診断、画像診断、抗がん剤や手術適応等に関する相談を含む)にも応じています。

 私が専門にしている領域は、早期の消化管がんの内視鏡手術です。食道、胃、十二指腸、大腸など口から肛門までの消化器系の早期がんを対象にしています。

がんが発生しやすい胃や食道とは

 「再発」と一言で使われている場合があるのですが、再発には「ある“がん”を取り除いて一旦消失した後に、同じ臓器に同じ“がん”がまたできてくる」場合と、「取り除いた“がん”とは同じ臓器の違う場所に新たな“がん”ができる」場合の2種類があります。

 違う“がん”が発生した場合のことを異時性・異所性のがんと呼び、同じがんの再発とは区別をしています。私が主に担当しているのは初発のがんと、この異時性・異所性の再発がんの患者さんへの治療です。食道と胃に関しては、他の臓器に比べて、異時性・異所性の再発が起こることが多いのが特徴です。

 異時性・異所性で再発する人は、がんができやすい食道や胃を持っていて、例えば、胃であれば、ピロリ菌をもっている人は胃がんになりやすいことが分かっています。さらにお酒やタバコなどの生活習慣なども相まって、胃自体が全体的にダメージを受けた結果、がんが発生しやすい環境になっている場合は、一度がんを取り除いても、新たに違ったがんが発生してしまうケースがあるのです。

 ですから、何よりも早期発見がポイントになり、そのためには、1年に1回の内視鏡検査をすすめています。発見が早ければ、患者さんに負担の少ない内視鏡手術によって対応ができるからです。 まれな症例ではありますが、多い人で7回の異時性・異所性の再発が見つかり、すべてを内視鏡で取り除くケースを経験しました。

 その患者さんはやはり、がんができやすい消化器をお持ちでしたが、がんとうまく付き合っていかなければならないといった自覚もあり、半年に一回の検査を欠かさず受けていたおかげで全て内視鏡手術で治すことができました。内視鏡で取れるがんは、自覚症状がない場合がほとんどです。

 自覚症状がでてきてしまう頃には、ステージが進行しています。ステージの進行したがんを根治することは難しいので、早い段階で見つけることがとても重要になってきます。 胃や食道が全体的にダメージを受けた状態になっていると、畑が一斉に野菜などを実らせるように、がん細胞も一斉に、異時的に異所的に発生するのだと思われます。そういったケースでは、検査も半年に一度くらいを目安に受けられると良いでしょう。

進歩する内視鏡の技術

 消化器癌に打ち克つべく進歩してきた日本の内視鏡診断学がその役割を治療へと発展を遂げました。外科的治療である腹腔鏡下胃局所切除法が開腹手術より負担の少ない治療法として注目されているなか、さらにお腹を全く切らずに内視鏡により癌の局所だけを切除するといった最も負担の少ない治療が日本で開発されました。

 早期癌の内視鏡的局所切除により患者さんのQOL(Quality of life)や臓器機能が温存され、より安全かつ短期な入院での癌の治療が可能となりました。1980年代より内視鏡的粘膜切除(Endoscopic Mucosal Resection:EMR)がはじまり、低侵襲で臓器機能温存に優れている点で注目されてきましたが、小さな癌(2cm以下)の病変しか治療できず、大きな病変では分割切除になってしまうのが欠点でした。

 内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)の開発により、より大きな早期癌を正確に一括切除できるようになりました。通常開腹手術であれば1ヶ月程度の入院が必要なところ1週間程度で退院できます。

 ESDは、健康保険の適用が広がっており、2006年、早期胃がん、2008年には早期食道がん、2012年4月からは、大腸がんに保険適用となりました。 ESDの技術は、まだまだドクター個人に依存している点もあるというのが現状です。尤も、胃に関しては日本人は胃がんの患者さんが多く、胃は最初に保険適用になりましたから、他の臓器と比較した場合にはドクターの技術も既に一定レベルまでに到達していると言えるでしょう。

 食道がんや大腸がんに関しては、その病院や医師の経験をしっかりと確認することが大切になると思います。日本で初めてESDの手術が行われたのが1998年で、私が初めてESDを行ったのは2000年です。当時は一回の手術に7時間~8時間かかったのですが、内視鏡も使いやすく改善され、電気メスの種類も増えていることと、私の経験値も2013年現在2000例を超える症例まで増えてきましたので、いまでは、1時間以内か、長くても2時間以内に終わることもあります。手術の時間が少なければ、患者さんへの負荷も大きく減ります。

 ただし、元々内視鏡は新しい技術で、しかもESDはEMRとは異なった技術が要求されます。経験数によって手術時間にも差がでてくるのは必然的なことなのでしょう。 しかしながら、世界的にみても、日本の内視鏡技術が、トップレベルであることには異論がないと思います。

患者さんに、がんのことを正しく知ってもらうことを心がけています。

 私の所にくる患者さんは、検診などでがんが見つかり、紹介されてこられる早期がんの方がほとんどです。ところが、いきなりがんと言われてしまうとパニックになってしまう患者さんもいらっしゃるでしょうから、クリニックの検診などではかなりオブラートに包んだ様な説明をされる事もあるようです。そのため、がんを軽く考えて私の所に受診される患者様も多くいらっしゃいます。

 しかし、たとえ早期だとしても、がんはがんです、悪性の病気です。今症状がなくても治療をしなければ、確実に進行してしまい、手遅れになることもあります。そのような方には、「“良性”のがんというものはありません。がんというのはすべて悪性です。但し、いまきちんと治療に臨めば十分治せるチャンスがあるのです。」とはっきり伝えるようにしています。

 状況をしっかりと理解してもらい、生活改善などを含めて、治療に対する態度とその後のケアや予防に対する心構えをしっかりと持って頂くことが大切だと考えています。包んだように伝えて、患者さんに「なんだ、大したことないのか。内視鏡の手術って日帰りで簡単なのでしょ」などと思わせてしまっては、本当の意味で患者さんのためになりません。病識をしっかり持ってもらうためにも、あえてシビアに言い直すようにしています。結果としてその後の検診などにもしっかり来ていただける方も増えたと思います。そこで早期にみつけることができれば、それは患者さんのためになります。

 その一方、緊張して過剰に深刻に考えたり、シビアに考え過ぎていたりする方もいらっしゃいます。そういった方は逆に患者さんの緊張を和らげるように、サポートするようにしています。

家族が“がん”になったらチーム医療の体制が整っているところで治療します。

 外科的な治療の技術的なレベルに関しては、施設としてある程度の手術数を持っていることはひとつの目安になると思います。さらにその病院の手術数だけではなく、主治医になる人がどれだけの経験があるのかが重要です。どんな業界でもベテランと新人がいるように、手術の手技も最初から全員が同じレベルでできるわけではありません。
技術を学ぶ時期が存在することは、仕方がないことです。経験が少ない若手の医師を、経験豊富なベテランの医師がチーム医療によってカバーできる体制を持っていることによって、安定した治療成績を残すことができると考えています。

 また、一人ですべてを完結してしまうような医師は、たとえその技術が素晴らしい方だったとしても、どうしても治療が個人の特色や個性の方に偏りがちになってしまいます。チームの体制が整っているところであれば、どんなに声の大きい人がいたとしても、患者さんの情報はチーム全員でシェアすることになりますし、症例検討会などで公に病状や治療方針を説明する事になります。多くの医療関係者の目でチェックされる事で、明らかに主治医の意図によって標準的な部分からはずれた治療方針などは修正されていきます。

 ピアノの調律にたとえると、1人でピアノを引いていると、毎日少しずつズレていく音に気づかないこともありますが、皆の前でピアノを弾いて確認していると、日々の音のズレに気づくのです。そして、その気づきをみんなでシェアすることで調律を保つのです。医師は調律をキープするために、チームの仲間と話あったり学会に出席したりして、最新の知見を得たり様々な治療法についての評価を共有していくのです。これは医療行為の標準化を保つために必要なことですね。患者さんにとっては、医師は医師であって、ベテランも新人も関係ないですから。

 また、抗がん剤の治療などは、週に一度の通院を数ヶ月続けたりする長期的な治療が必要になります。そうなると、通院する病院の立地も病院選びの大切な要素になるでしょう。手術をできる医師が遠方にいたり、医療機器がその病院にしか存在していない場合は遠くても仕方がないと思いますが、抗がん剤の標準治療であれば、投与のスケジュールや量が決められていますので。

 基本的には日本のどこで受けても同じ結果が得られます。長い治療は精神的にも経済的にも負担が大きくなってきます。いままでの生活が大きく崩れてしまわない様に、時間的・経済的な便益も含めて検討していくことが大切です。患者さんは我慢せずに主治医や病院を変更することを検討することも大切です。

 治療が長く続けば、当然プライベートなことも相談することになるでしょう。お子さんの進路や精神状況、経済的な面までを相談する場合もあるでしょう。個人的な考えですが、治療を長期間継続していくには、話をしやすく、信頼できる医師が必要だと思います。「この人が言うのであれば納得しよう」と思える医師に出会えたら、きっと安心して任せられると思います。

 私の家族や友人が“がん”になってしまった場合ですが、本人の精神面をケアしながら、いまお話したようなことを総合的に勘案して医師・病院を選ぶと思います。

取材にご協力いただいたドクター

月刊記事2013年11月号医師

大圃 研(おおはた けん)先生

NTT東日本関東病院

内視鏡部 部長

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