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【特集記事】先生のご家族や知り合いの方ががんになったらどうしますか? IV
目次
テクノロジーの発展が医療の世界を変えています。
私は30年以上消化器系のがんに携わっていますが、最近の外科的癌治療の範囲は様々な手術方法で対応できるようになってきています。これは医師の技術的向上もありますが、近年のテクノロジーの発展による功績も大きく影響しています。ごく少数の専門領域の医師しかできなかったような難しい手術が、最新の医療機器を使うことによって、広く一般外科医にもできるようになり、また電子媒体を使って専門領域の医師の手術を別の病院で受けられるなどの試みも現実味を帯びてきました。
これは患者さんにとっても良いことで、地域偏在を解決する手段にもなりうるものです。いま一番注目されているのはダヴィンチと呼ばれるロボット手術です。先日、手術のすべてをロボット手術で行っている海外のドクターと会談してきましたが、人間の手ではできないような細かい作業が可能で、ロボット手術の有効性と患者さんにとっての有益性について熱心に語っていました。日本では残念ながら前立腺がんのみが現在保険の対象になっているのが現状で、それ以外の手術は全額自費となってしまいます。しかし、今後、安全に手術が行われ、症例数が集積されることによって、保険収載されるロボット癌手術も増えていくでしょう。
信頼できる先生を見つけることが大切です。
家族や知り合いが“がん”になってしまった場合ということですが、手術が必要であれば、技術の高い手術経験が豊富な先生を当然紹介するでしょう。場合によっては私自身が行うこともあるかと思います。また、がんはすべてが手術できるわけではありませんので、化学療法が必要な場合には、抗がん剤の専門的な知識や経験をお持ちの方を紹介します。ある程度定型化されている手術の場合は特別な施設でなくとも、治療できますので、病院選択は難しくないと思います。しかし、“がん”を患いながら、腎臓も悪かったり、心臓も悪かったり、糖尿病を合併している患者さんも多くいます。
がんセンターなどはがん治療には特化しているのですが、その他の病気を併発しているようなときは、各診療科が充実している大学病院などの総合病院を選択することになるでしょう。知っている先生が多くいれば、仮に当院(東邦大学医療センター大森病院)で治療をする場合などは、その患者さんに合うか合わないなどの性格的判断も加えることができるかもしれません。また、医師のみでなく、医療スタッフがよく教育され充実している病院は、安心して勧めることができます。いずれにしても、がんだけを診るのではなくて患者さんの全体をみて、意見を聞きながら治療計画を立てる、つまり、治療選択を一緒になって考えてくれる信頼できる主治医および病院とその医療スタッフを見つけることが大切になってくると思います。
先生のご専門である腹腔鏡手術のメリットについて教えてください。
腹腔鏡手術とはおなかに5-12ミリの穴(孔 こう)を数ヵ所開けて、その穴に手術用の内視鏡をいれて中にある腫瘍などを取り除く手術方法です。内視鏡にはカメラがついていて、医師はそのカメラからの配信されるモニターに映し出された映像を見ながら手術を行います。腹腔鏡手術の手術症例数はここ10年で急激に増加しています。腹腔鏡手術を行うメリットですが、第一に挙げられることは、低侵襲(ていしんしゅう)ということです。お腹をメスで大きく切っておこなう開腹手術に比べると早いスピードで患者さんが回復していきます。つまり、患者さんにとって術後の負担が少ない手術といえるでしょう。
ただ、腹腔鏡手術の歴史は浅く、従来の開腹手術と比較したときには、「開腹手術にはエビデンス(有効性の確証)があるが腹腔鏡手術にはエビデンスは極めて少ない」」とよく言われます。確かにエビデンスは多くの症例数を蓄積して、長い年月をかけて、厳密な検証のもとに作られたものです。しかし、腹腔鏡のような新しい治療法がエビデンスになるまでには少なくとも十年以上はかかるといわれています。一方で、医療の現場では腹腔鏡手術が当たり前に行われるようになっており、明らかに術後の患者さんの回復は早く、エビデンスといったものにあまりこだわってしまうと、今、一番良い治療選択ができなくなってしまう可能性もあります。エビデンスを求めることは極めて重要で、それを否定するものではありませんが、実際の個々の患者さんの治療においては、いろいろな条件や患者の意向を尊重しながら、現在最も妥当な治療法を選択していくことが重要であります。
腹腔鏡下肝臓切除術に適している症例
私自身が最も積極的に行っている手術が腹腔鏡下肝臓切除術です。腹腔鏡下肝臓切除術は腫瘍の場所によってその難易度は大きく異なってきます。腹腔鏡手術はお腹側から肝臓をカメラで覗いていきますので、お腹側にある(肝臓の下の部分)にある腫瘍は切除しやすく、胸側にある(肝臓の上の部分)にあるような腫瘍は切除しにくいと言えます。もちろん我々の施設では、いろいろと工夫を加えて、どの腫瘍の場所に対しても対応できるように努力しています。また肝臓は4つの区域に分かれていますが、一番お腹の中心にある外側区域の腫瘍を切除する腹腔鏡下肝外側区域切除術は、すでに定型化されていると考えています。
外側区域の手術の場合は、腫瘍が表在でも深くに存在していても、外側区域ごと切除することができるので、その手技の安全性からも、平成10年には保険収載され、腹腔鏡手術で対応する施設がどんどん増えています。しかし、他の区域切除など大きい肝切除は手技的難易度も高くなり、我々の施設を含めた一部の施設だけで行われているのが現状です。再発や転移の場合であっても、腹腔鏡下に手術することは可能です。
私どもの経験した患者さんの中には肝癌の開腹手術をうけ、上腹部横に約30㎝の大きな手術創の患者さんが6年後に肝がん再発をきたし、腹腔鏡下肝切除術をうけました。術後の経過もよく7日目に退院しました。その患者さんに退院時に聞いたところ、腹腔鏡手術の方が術後の痛みが少なく非常に楽だったようで、「先生!もう一度、再発してしまった場合も絶対腹腔鏡手術でお願いします。」と言われたことが印象に残っています。
転移性の肝臓がんで、最高7つの腫瘍を切除成功
最近、腹腔鏡肝臓切除術をうけた患者さんの中で多くあるのが大腸がんから肝臓へ転移をしてしまった患者さんです。一昔前ですと、肝臓に転移が見つかった場合や、特に肝臓の左右に転移があるときは、手術は断念して、治療をあきらめるか、あまり効果のなかった抗がん剤治療を進めていましたが、いまは取れるものは取っていくのが原則となってきています。つまり肝切除が肝転移の最も有効な治療と考えられています。
また、有効な抗がん剤も開発され、この両者をうまく組み合わせることによって、患者さんの予後もかなり改善されてきました。私が最近経験した患者さんでは、肝臓に7つの大腸がん転移巣に対して、抗がん投与後に腹腔鏡下肝切除で7個すべてを取り除きました。以前では考えられないくらい進歩してきたと感じています。手術後は翌日には歩行され食事もとり、6日目には退院されました。2年経過した現在、肺転移に対して治療中ですが、肝臓に再発はありません。
取材にご協力いただいたドクター
金子弘真 先生
東邦大学医療センター大森病院 消化器センター外科 主任教授
日本外科学会専門医、指導医
日本消化器外科学会専門医、指導医
日本消化器病学会専門医
日本内視鏡外科学会技術認定医
日本肝胆膵外科学会高度技術指導医
日本がん治療認定医機構暫定教育医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
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