【特集記事】先生のご家族や知り合いの方ががんになったらどうしますか? II

公開日:2013年06月28日
先端がん治療紹介の編集方針について

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目次

治療を受ける人の来歴と健康観が大切です。

家族や知り合いががんになった場合ということですが、医学的な治療選択ということであれば、がんのできた場所や病期や転移の有無などによって、いま採りうる最も適していると考えられる治療方法を提示するでしょう。しかし本人の意思を含んだ最終的選択という意味では画一的な答えはありません。本人に尋ねてみて、本人と家族の望む治療は何かを考えてみるでしょうね。「治療を受ける人にとっての健康とは何か」が重要だと思います。

個人の健康観は、その人がどのような社会や文化に属しているのか、またはどのような性別や年齢なのか、という”ポジション”と、どのように生きてきたかという”来歴”に由来してくるでしょう。例えばがんを患ったとしても、70歳の日本人への治療と20歳くらいの外国人への治療では大きく異なってくるでしょう。私の家族ということであれば、想像がつくこともありますが、本人の意思をキチンと聞いてみないと分からないこともあるでしょうね。健康観という考え方ですが、これは「国際的な健康観」、「社会的な健康観」、「個人的な健康観」の3つに分けて考えることができるでしょう。

”病気あるいは虚弱でないこと”ではない。

まず、国際的な健康観ですが、これはWHO(世界保健機関)憲章に以下のように定義されています。健康権の発想も垣間見られます。

「健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない。(原文:Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.)」

WHOは、こういった考えに基づいて色々な活動を行っているわけですが、1998年には時代の変化に合わせてこの定義に新しい提案がなされています。「健康とは身体的・精神的・霊的・社会的に完全に良好な動的状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない。(原文 Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. 」新しい提案には「dynamic:動的」「spiritual:スピリチュアル」という言葉が追加されています。「spiritual」という言葉をどのように解釈するかということが、個人の健康観につながるでしょう。

ある宗教観などを持った人にとっての健康は、医療者側がいままでの学術・臨床の経験からベストだと思っている治療とは異なったところに存在している場合だってあります。医療者の立場として患者さんに良い医療と思ってもお節介になる場合もあります。

医療側の情報はよく患者さんに伝えて、患者さんがその情報をよく理解した上で選択をすべきことでしょう。しかし、まだ自分で判断ができない子供さんの治療を行う時に難しい経験をしたことがありました。親御さんがある治療方針を拒むケースがあったのです。

ある価値観に基づいて判断しているのですが、実際に治療を受けるお子さんが将来になって、その健康観を選択するとは限りません。命に関わってくる場合には医療者側も必死に親御さんを説得します。

※WHO(世界保健機関)憲章の原文
http://www.who.int/governance/eb/who_constitution_en.pdf

※日本WHO協会による日本語訳
http://www.japan-who.or.jp/commodity/kenko.html

社会的に解決すべき健康は行政が担っている

次に「社会的な健康観」ですが、近年では生活習慣病やメタボリックシンドロームという言葉が出てきましたが、これは厚生労働省などが中心となって国をあげた健康の促進運動するために様々な定義がされています。厚生労働省は、がん対策も色々と行っています。がん対策基本計画を基にして、「発がんの分子基盤」や「革新的な治療法の開発」、「がん患者のQOL」などのいくつかの分野に分けて研究などを進めています。

また緩和ケアに関しては、「治療の初期段階からの緩和ケアの実施」を、重点的に取り組むべき課題として位置付けています。これは超高齢化社会や日本人の生活習慣などを背景とした、がん患者の増加というものがあるでしょう。緩和ケアが、治療時期や療養場所を問わずして提供される状況を目指して体制強化が推進されています。

個人の健康観は人それぞれ

私は50年以上医療に携わってきていますが、「個人の健康観」は、ほんとうに人それぞれです。同じ屋根の下に暮らす家族(夫婦や、親兄弟)でも異なってきます。でも、年齢などを境にした変化によって、いままで元気で過ごしてこられた還暦くらいの方が、急に考え方を変えることだってあります。でもそれは自然なことでしょうね。急に身体を悪くすると、その病気だけではなくて、プライベートなことに関しても、気が滅入ってしまうようですね。そういった場合の心の拠り所というのは、家族の方や友人など自分に近い存在になるでしょう。

人とのつながりが重要ですね。そのなかにたまたま医師がいるという状況が良いのでしょうね。患者さんご自身だって誰かに支えられている部分があるでしょうから、周りとも相談しながら考え方をゆっくりと変化していく場合もあるでしょう。そこで医療に関する専門的な情報は、医療者側と十分に話をして、治療効果と自分の信条をよく照らし合わせて選択していけば良いのだと思います。医療者側からの情報提供によって、患者さんの健康観に大きく影響を及ぼす場合もあるでしょうが、これは本人が十分に理解して選択した結果であれば良いことでしょう。

患者さんの痛みを想像する

患者さんの健康観を大切にしながら、医療者として患者さんをサポートしていくわけですが、近年ではエビデンスと言われる、いわゆる科学的根拠をベースに治療を行っていくのですが、私は自分で試すことができるような場合は、その薬を飲んでみて、また検査を受けてみてどのような体調の変化や副作用があるかなどを試すようにしています。これは症例数としては自分自身だけですから医学的なものではありませんが、感覚的なものとして、患者さんの身体に起こることを想像しやすくするためです。

例えば痛みというものは、客観的に図る方法としてはVAS(Visual Analogue Scale)などが用いられていますが、痛みというものは、個人の主観的な感覚で、個人の経験や心理的な要因などが複雑に関連してきます。なかなかその時の状況を理解しあえるものではありません。客観的に数値化するということは非常に難しいのです。医師だって患者さんの顔を見ながら痛そうだなと想像しながら、診断するしか方法がないでしょう。

しかし、自分で経験したことのある痛みであれば、経験したことのないことよりも、想像によって歩み寄ることができます。医師は患者を診ることが仕事ですから、顔の表情などは勿論のこと、診察室に入って来た時の足音が普段と違うとか、歩き方にちょっとした変化があるとか、細かいことですが、体調の変化には敏感に反応するようになっています。

思ったことはやってみましょう。

インターネットや通信機器の普及によって患者さんが医療情報をご自身で調べることが簡単になりましたね。当院でも、ご自身の病気に関して、インターネットでの情報をお持ちになる患者さんが増えてきました。情報の根拠も一緒に印刷して持ってこられる場合は、それに対してご説明することもできるのですが、情報の発信源が分からないままに口頭で話される場合は、まずその情報がどこからきているのか、患者さんの状況にとって、正しい前提となっているのかどうか、治療効果などの前段から話をしなければなりませんので、大変な時間がかかってしまう場合があります。

たしかにこれは医療者側の説明という観点では大変になったのですが、患者さんが、ご自身で調べて納得するというのは大切なことです。医療者側は患者さんを受け止めて対応することが大切だと考えています。また、セカンドオピニオンが増えてきたのも医師と患者さんの意識も変わってきている証拠でしょう。私が経験してきた中でも、医療者側がセカンドオピニオンを拒んだ例というのはほんの数例しかありません。ご自身の診断にしっかりとした根拠があれば、医師はセカンドオピニオンを拒むようなことはしないでしょう。

私の場合は、状況によってはこちら側からセカンドオピニオンを勧めることもありますよ。病院や医師を選ぶときには、最新ということではなくて、その方の病気と適合しているかが一番のポイントです。最新の治療機器などにこだわるのではなくて、最適な治療機器や医師を選択することが大切です。ご自身の健康観をよく磨いて、心を寄せることのできる医者をみつけることが大切ですね。私共もクリニックの名前(トラスト=信頼)のようになりたいと思っています。

取材にご協力いただいたドクター

佐久間貞行 先生

名古屋大学名誉教授
グランドハイメディック倶楽部 常務理事
社団医療法人 トラストクリニック 院長

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