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コロナ禍で治療中の患者さんが知っておきたい、がん治療と免疫の関係[Part-2]

世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症は、高齢者や糖尿病などの基礎疾患を持っていると重症化しやすいことがわかってきています。がん治療と新型コロナウイルス感染症リスクの関係についてはエビデンス(科学的な根拠)がまだ十分ではないものの、抗がん剤などのがん治療によって免疫力が一時的に低下し、さまざまな感染症のリスクが高まることが知られています。
がんの治療においてどういうときに免疫力の低下が起こるのか、また免疫を下げないための生活習慣についてご紹介します。
目次
がん治療により免疫力が低下する場合がある
免疫ががん発症を防ぐために重要であるとお話しましたが、免疫の監視をすり抜けて大きくなり、発症してしまったがんを治療していくうえでも、免疫の力が大変重要であることは、いまや多くの医師たちの間でも共通認識になっています。加えて現在はコロナ禍です。感染や重症化を防ぐためにも、免疫が正しく働いていることが大切です。
しかし、がんを治すための治療が、かえって免疫の働きを低下させてしまう場合があります。日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会の3つの学会が合同で作成し、ホームページで公開している「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A」では、それぞれのがん治療と新型コロナウイルス感染症のリスクに関して、以下のような説明を公開しています。

手術
新型コロナウイルスに感染している患者さんは、よほどの緊急でなければ、治療により感染が悪化して致死的になる危険性があるので延期した方がよいと考えられる。手術後1か月以内に新型コロナウイルス感染症にかかった患者さんは重症化しやすい、という報告がある。
放射線治療
放射線の局所照射で、感染に対する抵抗力(免疫力)が大きく低下するという科学的根拠、新型コロナウイルス肺炎が重症化しやすくなるとの報告はない。ただし、抗がん剤を併用した化学放射線療法では、免疫力が低下する可能性がある。また、照射法や線量により、胸部への照射で放射線肺臓炎※1をきたすことがあり、これに新型コロナウイルス肺炎が重なると、重症化リスクが高くなる可能性は否定できない。
※1 胸部にできたがん(肺がん、食道がん、乳がん、悪性リンパ腫など)に対して行った放射線治療による肺の障害が原因で起こる肺炎。放射線によって肺組織、特に肺胞や肺血管の細胞が傷害されることによって発症するといわれている
薬物療法
細胞傷害性抗がん剤(化学療法)※2:
細胞傷害性抗がん剤の使用で免疫機能の低下を引き起こす場合がある。新型コロナウイルス感染症の診断から14日以内の薬物療法が、重症化のリスクであることが報告されている。また、年齢が上がるに伴い、化学療法による重症化リスクが上昇することが考えられる。
※2 細胞の増殖の仕組みに着目して、その仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受ける
分子標的薬※3:
多くの分子標的薬では、新型コロナウイルスの感染リスク・重症化リスクは上昇しないと予想されるが、副作用である薬剤性肺炎※4が生じた場合、新型コロナウイルス肺炎と区別がつきにくく肺炎の治療が遅れる可能性がある。
一部の分子標的薬では、副作用による白血球減少のため新型コロナウイルス感染症の発症リスクが高まる可能性がある。
※3 がん細胞の増殖に関わるタンパク質や、栄養を運ぶ血管、がんを攻撃する免疫に関わるタンパク質などを標的にしてがんを攻撃する薬
免疫チェックポイント阻害薬:
免疫チェックポイント阻害薬で感染リスクが高まるというデータ、重症化リスクについての一貫したデータがなく現時点では不明。ただし、副作用である薬剤性肺炎※4が起こった場合、新型コロナウイルスによる肺炎と区別がつきにくく肺炎の治療が遅れる可能性がある。理論上、免疫チェックポイント阻害薬投与中に新型コロナウイルスに感染すると重症化リスクが高まる可能性が否定できない。
※4 薬の投与、内服が原因で薬剤本来の効能以外の、肺に有害な反応が生じること
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について(患者さん向け・医療従事者向け)Q&Aより抜粋
手術、とくに開腹手術は患者さんの体力を奪い、一時的に抵抗力も低下する場合があります。Q&Aに記載のとおり重症化に注意する必要があるでしょう。また、細胞傷害性抗がん剤(化学療法)はメカニズム的に、がん細胞とともに免疫細胞の機能や数を低下させるものが少なからずあり、回復するまでの一定期間、免疫機能が低下する場合があります。
新型コロナウイルス感染症の重症化メカニズムのひとつとして、免疫が暴走する「サイトカインストーム※5」と呼ばれる現象が関わっているとされています。免疫チェックポイント阻害薬は免疫の働きを活性化させる薬ですので、現時点では明らかにはなっていないものの、理論上この薬を使用中の患者さんが新型コロナウイルスに感染した場合、サイトカインストームが起こりやすくなって、通常よりも重症化する可能性が考えられています。
※5 サイトカインとは、細胞から放出される情報伝達をになう物質で、免疫細胞の増殖や活性化を促してウイルスなどと闘う体制を作る。サイトカインストームは、免疫の働きを高めるサイトカインが過剰に放出され暴走を起こし、正常な細胞も攻撃して重症化につながる現象
免疫を下げない生活習慣とは

がん患者さんは、がんそのものにより免疫状態が低下している可能性があり、また、がんの治療には、化学療法をはじめとして免疫を下げてしまう治療方法も用いられます。体の防御機能である免疫のはたらきが低下すれば、感染症である新型コロナウイルスにかかるリスクは高まります。ですので、がん患者さん全体で見れば、健康な人に比べると感染リスクは高まることが予想され、療養生活中はより注意が必要です。
ただし、新型コロナウイルス感染症を恐れるあまり、がんの治療が遅れてしまうと取り返しがつかないことになる場合もあります。治療を延期するかどうかなどは、自分だけで判断せず、必ず主治医と相談して決めることが大切です。
免疫は、栄養不良、睡眠不足、疲労、ストレスなどに影響を受けて変化するといわれており、特定の食べ物やサプリメントなどだけで免疫状態がよくなることはありません。あたりまえのようですが、バランスの取れた食生活や十分な睡眠、適度な運動(体温上昇につながる)、ストレスを避けることなどが大切かつもっとも効果的な方法です。
免疫の働きは低すぎてもよくありませんが、過剰に働きすぎてもよくありません。適切な免疫状態を保つことが重要であることを知り、最適な治療と良い生活習慣で、がんと新型コロナウイルス感染症を乗り越えていくことが大切です。
ポイントまとめ
- がんを治すためにも、新型コロナウイルス感染症リスクを下げるためにも免疫のはたらきは重要だが、がん治療が、免疫の働きを低下させてしまう場合がある
- 手術や化学療法などは新型コロナウイルス感染症の重症化リスクがあることが報告されている
- データは不十分だが、免疫チェックポイント阻害薬もサイトカインストームという現象により重症化の可能性があり、注意が必要
- 治療の延期等については自己判断せず、必ず主治医と相談して決める
- 免疫が正しくはたらくための生活習慣は、バランスの取れた食生活、十分な睡眠、適度な運動、ストレスを避けること
- 【当記事の参考】
- 一般社団法人日本癌治療学会ホームページ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について(患者さん向け)Q&A 第2版
http://www.jsco.or.jp/guide/index/page/id/266 - 一般社団法人日本癌治療学会ホームページ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療について(患者さん向け)Q&A 第2版
http://www.jsco.or.jp/jpn/index/page/id/2227#qa2 - 日本放射線腫瘍学会ホームページ
声明文https://www.jastro.or.jp/customer/news/20200425.pdf - 日本免疫学会 免疫学Q&A
https://www.jsi-men-eki.org/general/q-a/ - 国立がん研究センターがん情報サービス がんの治療方法
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/index.html
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