コロナ禍で治療中の患者さんが知っておきたい、がん治療と免疫の関係[Part-1]

公開日:2020年10月30日

今年4月、乳がんの治療を受けていたタレントが、新型コロナウイルスへの感染によりお亡くなりになったことは、がん治療中の患者さんに大きな衝撃と不安を与えました。
がん治療中の患者さんが新型コロナウイルス感染症にかかった場合、より重症化しやすいかどうかについてのエビデンス(科学的な証拠)はまだ不十分ですが、抗がん剤に代表されるがん治療によって免疫力が一時的に低下し、さまざまな感染症のリスクが高まることは知られています。
手術、放射線治療、抗がん剤などの薬物療法に代表されるがん治療において、どういうときに免疫機能の低下が起こるのか、コロナ禍で患者さんはどういう点に注意するべきなのかについてご紹介します。

目次

そもそも免疫力って何?自然免疫と獲得免疫、体を守る2つの免疫

「風邪をひいちゃった。寝不足で免疫力が落ちてたのかな」
「日頃から適度に運動して免疫力を高め、健康を維持しましょう」

私たちは「免疫」や「免疫力」という言葉を日常でよく耳にしたり、使ったりするようになりました。免疫力が高まると健康に良く、免疫力が低下すると病気にかかりやすくなる、というような大まかなイメージを多くの人が持っていると思います。
また、最近では新型コロナウイルス感染症の文脈の中で、免疫の話がテレビなどでもたくさん登場するようになりました。
では、この免疫とは、具体的にはどういうものなのかご存知でしょうか。

ひとことでいうと、免疫とは「自分以外の異物を見分けて排除し、体を守る仕組み」のことです。
私たちの体を構成している骨や臓器、筋肉、血管などはすべて細胞からできています。一説には、人間ひとりに37兆個もの細胞があるといわれています。こうした私たちの体を構成しているものはすべて「自分自身」であり、どれも欠かせないものです。

しかし、日々の生活の中で、「自分以外」のなにかが体内に侵入してくる場合があります。
たとえば、呼吸や食事のとき、またケガをしたときなどに傷口から入ってくるウイルスや細菌などです。こうしたものは、病気を引き起こすもととなる「病原」になる場合があり、速やかに体から排除しなければなりません。

そこで、体を守る仕組みとして備わっているのが、免疫です。免疫細胞と呼ばれる特殊な細胞たちが、体の外から侵入してきたウイルスなどを“異物”として認識し、攻撃を仕掛けて排除するのです。

免疫細胞は骨髄から生まれ、血液に含まれる白血球などが有名ですが、さまざまな種類と働きをもったものがあります。

そもそも免疫力って何?自然免疫と獲得免疫、体を守る2つの免疫

異物が体内に侵入すると、体内をパトロールしているマクロファージやナチュラルキラー細胞(NK細胞)、樹状細胞などの初期攻撃を担当する細胞が攻撃を仕掛けます。これを自然免疫といいます。

さらに、自然免疫を担当する細胞は、T細胞やB細胞などの免疫細胞に敵の情報を伝えます。これらの細胞は自然免疫よりも敵の細かい違いを見分け、記憶できることが特徴です。情報を受け取ったT細胞は、数を大きく増やし、働きも活発になって攻撃します。B細胞は敵を弱体化させる「抗体」という物質を作ります。抗体はウイルスにくっつく性質を持っていて、抗体がくっついたウイルスは他の細胞に感染できなくなり、さらには抗体が免疫細胞をウイルスへ呼び寄せて攻撃するように仕向けます。こうした免疫反応は獲得免疫と呼ばれます。

新型コロナウイルス感染症のニュースで「抗体検査」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。体内に、この抗体ができているかどうかを調べることで、新型コロナウイルスに感染しているか(していたか)どうかがわかるのです。

そもそも免疫力って何?自然免疫と獲得免疫、体を守る2つの免疫

免疫サイクルの不具合ががんの発症につながる

免疫は、体の外から侵入してきた異物を排除するとお伝えしましたが、病気を引き起こす異物は体内から生じる場合もあります。それが、正常な細胞に異常が起こって悪性化したがん細胞です。
私たちの免疫は、こうしたがん細胞も異物と認識し、排除する力をもっています。

がん細胞に対する免疫の働きは「腫瘍免疫応答(しゅようめんえきおうとう)」と呼ばれ、樹状細胞によるがん抗原認識→T細胞への伝達→T細胞の増殖活性化→がん細胞への攻撃という「がん免疫サイクル」が正しく回ることで、がん細胞を排除します。

がん細胞は、もともとは正常な細胞の遺伝子に異常が起こることで発生することが分かっています。人間の体の中では、1日に数百から数千もの異常な細胞が生まれているといわれていますが、免疫細胞が病気のがんになる前の段階でこうした異常細胞を排除してくれているおかげで、病気にならずにすんでいると考えられます。

では、こうした免疫の仕組みがあるにもかかわらず、がんを発病してしまうことがあるのはなぜでしょうか?
先でお伝えしたとおり、がん細胞を排除できるのは、がん免疫サイクルが正しく回っているからです。ですから、がんになってしまうのは、このがん免疫サイクルのどこかに不具合が生じているためと考えられます。

免疫サイクルの不具合ががんの発症につながる

免疫細胞が活性化して病原体やがん細胞を攻撃することで体を守る一方、免疫が過剰に働きすぎると攻撃すべきでない正常な細胞も傷つけてしまう場合があります。そこで正常な細胞は、免疫細胞が近づいてきたときに「攻撃するな」という司令を伝える信号を出します。ところが、がん細胞がこの仕組を悪用し、免疫細胞の攻撃から逃れることがあるのです。

がん細胞が免疫から逃れようとするはたらきを、がんによる免疫逃避(めんえきとうひ)と呼び、がん免疫サイクルの不具合を生じさせる原因の一つです。このようにさまざまな理由で免疫が正しく働いていないとき、がんが発生したり、進行したりする可能性があります。

次回Part2では、手術、放射線治療、抗がん剤などの各がん治療が、新型コロナウイルス感染症への感染や重症化リスクを高めるのかどうか、また、免疫力を下げない生活習慣についてみていきます。

ポイントまとめ

  • 免疫とは「自分以外の異物を見分けて排除し、体を守る仕組み」のこと
  • 免疫は、骨髄から生まれる、さまざまな種類と働きをもった免疫細胞が主に担っている
  • 免疫の働きは、敵に対する初期攻撃を担う自然免疫と、敵の情報を記憶して二次攻撃を担う獲得免疫から成っている
  • 免疫は、体内で生じた異物であるがん細胞も攻撃、排除する力を持っている
  • 免疫の仕組みがあるにもかかわらずがんになってしまうのは、がん免疫サイクルに不具合が生じているから
【当記事の参考】
日本免疫学会ホームページ 免疫学Q&A
https://www.jsi-men-eki.org/general/q-a/

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