「腸内細菌」ががん免疫療法の効果に影響。
最新研究で分かった、より治療効果を得るポイント

公開日:2020年04月30日
昭和大学医学部内科学講座 腫瘍内科学部門
主任教授・腫瘍センター長

角田 卓也(つのだ たくや)先生

がんの「第4の治療法」として脚光を浴びるがん免疫療法。最近の研究で、腸内細菌が深くかかわっていることが明らかになりました。30年以上にわたりがん免疫療法の研究・開発に取り組む、昭和大学医学部腫瘍内科学部門主任教授の角田卓也(つのだ たくや)先生に、腸内細菌ががん免疫療法に与える影響や最新の研究事情について伺いました。

目次

腸内には数100兆個もの腸内細菌が生息。
近年、さまざまな病気との関係が明らかに

腸内には数100兆個もの腸内細菌が生息。近年、さまざまな病気との関係が明らかに

私たち人間の腸内には、約1000種類・100兆個・1.5~2kgもの細菌が生息しています。これらの菌は、腸の動きをコントロールして消化・吸収を促進するほか、免疫機能を促進したり病気の感染を防いだりしてくれます。人間は生きた細菌と共存し、これらの腸内細菌とお互いに複雑に影響を及ぼし合っています。

母親の胎内にいる赤ちゃんは無菌ですが、出産時に産道を通る過程で、そして出産後の母乳や食べたもの・触れたものなどからはじめて菌を獲得し、だいたい5~10歳で腸内に生息する細菌が決まると考えられています。そのため、個々人が保有する腸内細菌はユニークで、国や地域によっても大きく異なるといわれています。

細菌が腸内で菌種ごとに固まって生息する状態は、お花畑のように見えることから「腸内細菌叢(腸内フローラ)」とも呼ばれます。

近年、腸内細菌がさまざまな病気と関係していることが判明し、研究が盛んに行われるようになりました。炎症性腸疾患や潰瘍性大腸炎など腸の病気との関連性は以前から指摘されていましたが、最近では、糖を分解する働きがある腸内細菌を持つ人は糖尿病になりにくいなど、糖尿病や肥満をはじめとした生活習慣病や精神病などとも強い関わりがあることもわかってきています。

「腸内細菌」ががん免疫療法の効果を左右する?

体に備わる“免疫システム”を利用したがん免疫療法

がんの分野においては、腸内細菌ががんの免疫療法に大きく影響することがわかってきました。詳しくお話しする前に、まず「がんの免疫療法」についてお話しします。

がんの治療法は「免疫療法」のほかに、手術でがんを取る「外科治療」、放射線をがんに当てる「放射線治療」、抗がん剤などの薬でがんを攻撃する「薬物療法」があります。それらはすべて、がんそのものをターゲットにした治療法です。

それに対し免疫療法は「がんを患者さん自身の免疫で治す」という発想の下、「体内の免疫システム」をターゲットにして、その働きをサポート・強化することで、元々備わっている免疫システムによりがんを攻撃する治療法です。

免疫は体内に入り込んだウイルスなどの異物を排除します。いつも同じ状態というわけではなく、異物を排除しようとして強まったり(アクセルを踏んだ状態)、逆に強まり過ぎないように力を弱めたり(ブレーキをかけた状態)します。

免疫療法は大きく分けると、アクセルを強めがんへの攻撃を高めることを狙うものと、かかったブレーキを解除することを狙った治療法の二つがあります。

免疫そのものを強化し、アクセルを強めることを狙った治療法が、樹状細胞ワクチン療法などの「免疫強化療法」です。免疫にかかわる細胞を患者さんから採取し、がんの目印を覚え込ませたり、攻撃能力のある免疫細胞を増やしたりして、患者さんの体内に戻すことで免疫細胞の働きを強化することを狙った治療法です。

一方、「ブレーキ」に着目したのが「免疫抑制解除療法」です。免疫は活性化しすぎると自分の体をも攻撃し、アレルギー疾患(花粉症など)や自己免疫疾患(関節リウマチなど)を引き起こしてしまいます。それを防ぐために「働きすぎ」を制御する「免疫チェックポイント」という機能が備わっています。

しかし、がん細胞はこの機能を逆手にとり、免疫細胞に自分を排除させないようにブレーキをかけてしまうことがわかっています。

がんによりかけられたブレーキを解除し、免疫細胞が再びがんを攻撃できるようにすることを狙った治療法が、オプジーボ(ニボルマブ)などの免疫チェックポイント阻害剤(薬)と呼ばれる免疫療法です。

保有する腸内細菌により治療効果に差が出る可能性

では、こうしたがん免疫療法に、腸内細菌がどのように関係しているのでしょうか。2015年にScience誌に世界で初めて掲載された「腸内細菌と免疫チェックポイント阻害剤の関係」に関するシカゴ大学とフランスの研究グループが行った報告の一部をご紹介します。

シカゴ大学のGajewski博士の研究グループは、マウスを用いてがんに対する免疫反応を調べていました。すると、同じ種類・週齢のマウスでも、購入した会社により免疫反応が大きく異なることを発見しました。その後、二つの異なる会社で購入したマウスを同じゲージで飼育し免疫反応を調べたところ、結果の差がなくなったのです。

この結果を踏まえ、研究グループはマウスが別のマウスの便を食べる習性から腸内細菌に着目。他社のマウスの便を食べたことで異なる腸内細菌が共有され、免疫反応の差異がなくなったことがわかったのです。

また、同時期に掲載されたフランスInstitut Gustave RoussyのZitovogel博士のグループで行われた研究では、腸内細菌を含め無菌状態にしたマウスは、そうでないマウスと比べてがん免疫療法が効きにくいという研究成果を報告しています。

これら二つの研究は、あくまでマウスによる研究結果ではありますが、腸内細菌が免疫療法の効果に深く関係している可能性が示唆されたものです。

免疫療法の効果を高めるのは「腸内細菌の多様性」
食物繊維で多様な腸内細菌を育てる

免疫療法の効果を高めるのは「腸内細菌の多様性」食物繊維で多様な腸内細菌を育てる

最近の研究では、ある特定の腸内細菌が免疫反応に影響しているのではなく、より多くの種類の腸内細菌を保有していることが、免疫反応に大きく関わる可能性もわかってきました。

アメリカでがんの研究などを行うMDアンダーソンがんセンターの研究によると、がん免疫チェックポイント阻害剤の効果が見られる患者さんは腸内細菌の種類が多く、さらに「食物繊維」をたくさん摂っていることが分かりました。

食物繊維は、おなかの調子を整える働きがあることで知られていますが、この働きに深く関わっているのが腸内細菌です。食物繊維は、消化酵素では分解されない成分の一つであり、食物繊維は腸内細菌によって摂取され分解されることがわかっています。
食物繊維はいわば、腸内細菌の「エサ」ともいえます。

腸内細菌は、食物繊維を摂取後、さまざまな代謝物(アミノ酸やビタミンなど)に分解していますが、最終的にこの代謝物が身体に影響を及ぼしています。つまり、代謝物を良いものにするには腸内細菌のエサである食物繊維が重要であるといえるでしょう。

■腸内細菌が代謝物を作り出す流れ

腸内細菌が代謝物を作り出す流れ

食物繊維は多種多様で、それぞれが分解できる腸内細菌は限られています。私たちの身体はうまくできていて、いろんな種類の食物繊維を摂取すると、それぞれを分解することができる腸内細菌の種類も増えていくのです。ですから、腸内細菌の種類を増やすためには多くの食材からさまざまな食物繊維を摂取することが重要です。

厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日あたりの食物繊維の摂取目標量は、18~64歳で男性21g以上、女性18g以上で、理想量は24g摂取することと示されています。

しかし、現在日本人の平均摂取量は16gにとどまっています。

一方で、MDアンダーソンがんセンターでは、日本で推奨される摂取量の倍以上となる50gを推奨しています。

これは健康な人でも毎日摂取するのは難しい量なので、まずは厚労省の摂取目標量を目指してみてください。食物繊維はキャベツやゴボウ、ニンニクなどに多く含まれますし、バナナやリンゴなどの果物もおすすめです。

腸内細菌と臨床データを集約する「昭和大学Uバンク」
がんの新薬や患者さんを助ける食品の開発に貢献

私はがん治療などを行う消化器外科医を経て、大学の講師・准教授に就任。10年ほど新たな治療法の研究に取り組んだところで「患者さんの近くで役に立ちたい」という思いからベンチャー企業の社長としてその治療法の実現を目指しました。

そこでの臨床試験は残念な結果に終わってしまいましたが、その過程で免疫療法がよく効く患者さんとそうでない患者さんがいることに気づきました。昭和大学の教授に就任したのち、多くの研究を経て「免疫療法の効果の差が腸内細菌にあるのでは」と考え、2017年、患者さんの臨床データと腸内細菌のデータを蓄積し研究に生かす「昭和大学Uバンク(便バンク)」を設立しました。

昭和大学独自のMicrobiotaデータベースの構築(昭和大学Uバンク)と共同研究の推進 クリックで拡大

昭和大学の8病院を含む約20病院からデータを集め、蓄積した症例は4~5,000例に及びます。これらのデータを基に、現在は20テーマほどの共同研究が進行中です。

ある研究では、泌尿器がん手術後に患者さんの便に含まれる腸内細菌を調べ、その後いつ・どの患者さんが再発したかを調査しました。すると、早く再発した患者さんは腸内細菌の種類が少なかったのです。ここでも、腸内細菌の多様性が重要であることが示されました。

今、私が最も注目している研究は、食物繊維を多く含むサプリメントの開発です。がん免疫療法に臨む前に食物繊維のサプリメントを飲み、菌の種類を増やすことで、よりよい治療効果が得られるのではないかと考えています。サプリメントなら患者さんも手軽に摂取できるし、非常に高いポテンシャルを持つサプリメントの開発・普及に期待しています。

がん患者さんにとって大切なのは、しっかりエネルギーを蓄え免疫力を高めることです。おいしいものや好きなもので構いませんから、きちんと食べてください。私たちもがん患者さんをサポートする薬やサプリメントを日々研究・開発しています。力を合わせて、ともにがんに打ち勝ちましょう。

ポイントまとめ

  • 腸内細菌はさまざまな疾患に関係している
  • がん免疫療法は「患者さん自身の免疫で治す」、その働きをサポートする治療法
  • 最近の研究で、多様な腸内細菌を持っているとがん免疫療法の効果がより高まることが判明した
  • 多様な腸内細菌を得るためには、腸内細菌のエサとなる食物繊維をさまざまな食材から摂取することが重要
  • 「昭和大学Uバンク」ではがん患者さんの臨床データと腸内細菌のデータを収集・蓄積し、がん患者さんのための新薬や食品の開発に貢献

取材にご協力いただいたドクター

角田 卓也 (つのだ たくや) 先生

昭和大学医学部内科学講座 腫瘍内科学部門 主任教授 /腫瘍センター長

コラム:日本人は腸内細菌が良い=がん治療の成績も良い?

日本人は、欧米人と同じ治療を行った場合でも平均余命が長いなど、臨床試験の結果が良いとされています。私は、その理由は腸内細菌にあると考えています。日本には四季折々の食材があること、和食は焼く・煮る・発酵させるといった調理法に富んでいることから、多様で良い腸内細菌を持っており、それが免疫力を高めているのではと推察しています。これはがん予防にもつながることなので、皆さんももっと和食を楽しんでみてはいかがでしょうか。

関連記事

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。