【特集記事】がんの再発・転移を知る。
再発予防の治療として、副作用の少ない免疫療法が選択肢に。

公開日:2019年10月31日
東京ミッドタウン先端医療研究所 がん診療部長
島袋 誠守(しまぶく まさもり)先生

がんを経験された方たちを苦しめるもののひとつに、「再発」への不安があります。早期発見、早期治療が叶ったとしても、再発の不安を持たずに暮らすことは患者さんにとって容易ではありません。「がんと免疫」をテーマに3回にわたってお話をうかがう本シリーズ。最終回となる今回は、不安と闘う患者さんに寄り添ってきた島袋先生に、がんを防ぐために重要な生活習慣や、再発予防を目的とした治療の実情についてお話を伺います。

第一回、第二回のインタビュー内容は下記より
>>「外科医が感じた免疫の可能性。がんの予防・治療ともに免疫が欠かせないものに。」

>>「大きく2つのタイプがあるがん免疫療法。効果向上のカギは、『早期実施』と『他の治療との併用』」

目次

再発の原因は、治療で取り切れなかった微小ながん細胞

ここまで、がんと免疫の関係や、より治療効果を向上させる可能性としての「早期治療」や複数の治療を組み合わせる「併用療法」についてなど、がんと闘うためのさまざまなことを伺ってきました。
がんの場合、早期に治療を行うことができたとしても、「再発」の心配がありますから、患者さんやご家族の不安や悩みは尽きませんね。

たしかに、「再発」を経験されるがん患者さんは少なくありませんから、不安に思われるのも無理はありません。

たとえば、男女ともに罹患(りかん)率、死亡率の高い大腸がんにおいて、患者さんのうち約19%の方に再発が認められ、ステージが上がると再発率も高くなるデータが出ています。ステージIにおける再発率は約6%、ステージIIでは約15%、ステージIIIでは約32%※1となっています。

また、肝臓のがんの大多数を占める肝細胞がんでは、手術などの局所治療を行っても、5年間で約70~80%の患者さんに再発が見られる※2と言われています。

Stage
(症例数)
再発率
(再発症例数)
術後経過年数別累積再発出現率
(累積再発症例数)
術後5年を超えて出現する
再発例が全体に占める割合
(症例数)
3年 4年 5年

(1,323)
5.7%
(75)
73.7%
(42)
80.7%
(46)
91.2%
(52)
0.4%
(5)

(1,932)
15.0%
(290)
86.0%
(221)
94.2%
(242)
97.7%
(251)
0.3%
(6)

(1,848)
31.8%
(588)
86.7%
(475)
92.0%
(504)
96.5%
(529)
1.1%
(19)
全体
(5,103)
18.7%
(953)
85.6%
(738)
91.9%
(792)
96.5%
(832)
0.6%
(30)

(大腸癌研究会・全国登録 2007年症例)
※再発時期不明例91例は累積再発出現率では除外

※1および図 大腸癌研究会ホームページ
「大腸癌治癒切除後のStage別再発率と術後経過年数別累積再発出現率」より
(http://www.jsccr.jp/guideline/2019/document.html)

※2 日本肝胆膵外科学会ホームページ「肝細胞がん」より
(http://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=7)

そもそも、再発はなぜ起こるのでしょうか。

手術ではがんの切除を目的としますが、見た目上すべてのがんを取り去ることができたと思っても、微小ながん細胞は現在の画像診断などでは検出できない場合があり、ごく小さながん細胞が体内に残ってしまうことがあります。

手術で取り切れずに残ったそうした微小ながん細胞や、薬物療法(抗がん剤治療)や放射線治療で一旦縮小したがん細胞が再び増殖して塊となり、「がん」として発現することがあります。この状態「がんの再発」といいます。

治療した場所の近くで再発が認められることもありますし、がん細胞がリンパ液や血液の流れにのって別の臓器に行きついて、そこで増殖する場合もあり、こうした「転移」も含めて、再発と呼んでいます。

手術や放射線治療などの局所療法は、“目に見えるがんをなくす”という点では非常に有効ですが、目に見えないがん細胞まで治療するには限界があり、そうした微小ながん細胞をたたくために、抗がん剤治療や免疫療法などの全身療法が必要なのです。

がんは、微小ながん細胞からも増殖し、再発を繰り返すやっかいな病気です。がんの本当の恐さは再発にあるといってもいいでしょう。いかに治療後の再発を抑えるかが、がん治療では重要なのです。

初発おいては早期発見が大切ですが、再発の場合でも同じなのでしょうか。

術後の再発率を見てみると、多くのがんでは3年以内に再発が認められることが多く、そのため、治療を一通り終えたあとも経過観察は欠かせません。

大体、術後5年を過ぎる頃から再発率はぐっと低くなりますから、それで多くのがん種では、術後5年間再発が認められなければ、「治った」とみなされることになります。ただし、乳がんなどは例外で、5年を過ぎても再発する場合があるので、10年の経過観察が基本となっています。

このように、がんは治療後の潜伏期間も5年~10年と長いことが特徴で、特に再発の場合は、がんが見つかったときには、全身に広がっていることも少なくありません。

がんの再発を早期に発見することは、治療の選択肢を考える上でも重要ですが、早期に発見するためには頻繁に検査を受ける必要もあり、仮に早期に治療を行えたとしても、再び再発するリスクもあります。

そのため、最も大切なのは“再発を予防する”ことだといえます。初発のがんが見つかった際の初期治療と合わせて、再発予防の対策をたて、再発予防を目的とした治療を取り入れることが重要なのです。

再発予防には副作用の少ない治療法が求められる

再発予防の治療というと、どのようなものがありますか。

がんの部位や悪性度などから再発のリスクが高いと判断される場合には、再発予防のための治療を行うことがあります。手術後、体のどこかに微小ながん細胞が残っているかもしれないので、それを想定して、全身的な治療である抗がん剤治療やホルモン療法などが主に行われます。

また、がんの種類や性質、治療の経過などから、再発の起こる場所がある程度予測できる場合は、的を絞って治療することもあります。たとえば、肺の小細胞がんの治療では、脳への転移を起こしやすい傾向があるので、予防的に脳に放射線照射を行うこともあります。

予防のための治療とはいえ、やはり副作用は避けられないのですよね。

そうなんです。再発してしまった場合も、治療による副作用はある程度覚悟する必要があります。まだ再発するかどうかわからない段階で予防のために受ける治療は、メリット(再発を予防する効果)とデメリット(副作用)のバランスがよりクローズアップされます。

あきらかに再発リスクが高いがんもあり、その場合は再発予防治療を行うことが基本となりますが、行うべきかどうか判断が難しいケースもあります。

再発予防のために、手術後に抗がん剤治療を受けても、再発の可能性がゼロになるわけではないという点も、患者さんの決断を鈍らせる一因です。

患者さんとしては、再発はしたくない、でも、がんが再発するかどうかわからないのに強い副作用がある治療はしたくないというジレンマですね。気持ちはすごくわかります。

そうした方が当施設にいらして、再発予防のために免疫細胞療法を希望されるケースもあります。樹状細胞ワクチン療法やNK(ナチュラルキラー)細胞療法といった免疫細胞療法は、重篤な副作用を発生する可能性が低いので、再発予防の手段として検討される方もいらっしゃいます。

当施設を訪れる患者さんは、できる標準治療がなくなり、それでも「何かほかの治療がないか」と探して来られる進行期の方が多いため、再発予防の症例は多いとは言えず、治療効果については明らかになっていない部分もあります。

しかしながら、免疫の仕組みを考えたときに、がんの勢いに対して免疫の力が優位なバランスであれば治療効果が発揮されやすいため、体内に残った微小ながん細胞を叩く再発予防は、免疫細胞療法の最適な使い方のひとつではないかと思っています。

先日も、胃がんの手術後、再発予防のために免疫細胞療法を希望される患者さんがお見えになりました。このような患者さんには、現状をよく説明してご理解をいただいたうえで治療を受けていただいていますが、実際に治療による副作用はほぼみられませんでした。

現在、診療と並行して、再発予防を含む当施設の症例を集積・分析し、免疫細胞療法の特性と効果を明らかにしていくことに取り組んでいます。血液や唾液などによる検査※3がまもなく実用化され、画像診断では判定できなかったような超早期のがんが発見できる時代がやってきます。

そうした超早期がんをどのように治療するか――。大きな副作用なく自分自身の免疫力を治療に利用する免疫細胞療法が有力な選択肢のひとつになると私は考えています。

※3 画像診断や内視鏡、針を用いてがん組織を採取する従来の生検に代えて、血液や尿などの体液サンプルを使って、その中に含まれる情報からがんの診断を行う技術が開発中。リキッドバイオプシーと呼ばれている。

生活習慣の見直しでがん発症・再発リスクが低減

がんを防ぐために、日々の暮らしの中で患者さんができることはありますか。

国立がん研究センター中心の研究グループは、日本人を対象にがん予防の研究を行っていて、男性のがんの約53%、女性のがんの約28%は、生活習慣や感染が原因だとしており、がんの予防の重要な要素として、「禁煙」「節酒」「食生活改善」「身体活動」「適正体重の維持」「感染予防」の6つを挙げています。※4

この研究は、健康な人ががんにならないために取り組むことを示したものですが、がんの再発予防にも役立つ部分があるので、参考にしてほしいと思います。6つのうち、「感染」以外は今日からでも始められることです。

たとえば、食生活では、赤身肉や加工肉に偏った食習慣は大腸がんのリスクを上げ、反対に食物繊維を多く含む食物がリスクを下げるそうですから、野菜を多くとり、バランスのよい食習慣を心掛けたいものです。

また、身体活動とは運動のことで、適度な運動はさまざまな生活習慣病の原因となる肥満を予防、解消するだけでなく、結腸がん、閉経後の乳がんや子宮体がんなどのリスクを減らすとされています。

図:国立がん研究センターがん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」より

免疫力の維持に悪影響を与える飲酒や運動不足

がんの発症に特に関わりが深い要因について教えていただけますか。

喫煙ですね。男性のがんの約30%(女性は約5%)は喫煙が原因と考えられています。たばこの煙の中には、発がん物質が約70種類含まれているとされ、これらの有害物質は、肺だけでなく、血液を通じて全身の臓器に運ばれます。遺伝子に損傷を与えるなど、体内のメカニズムを狂わせて、肺がんはもとより、様々ながんのリスクを高める要因となります。

また、感染が占める割合も高く、実は日本人のがんの約2割は感染が原因です。B型やC型肝炎ウイルスは日本人の肝がんの原因の約7割を占め、ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリは胃がん発症の主な原因です※5

感染に関しては予防や除菌対策を行い、さらに健康習慣を実践することで、がんのリスクは軽減できます。

※4・5 国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研究グループ
「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」より
(https://epi.ncc.go.jp/can_prev/index.html)

がんの発生に関係するウイルス・細菌
原因となるウイルス・細菌 がんの種類
ヘリコバクター・ピロリ
(H.pylori)
胃がん
B型・C型肝炎ウイルス
(HBV、HCV)
肝臓がん
ヒトパピローマウイルス
(HPV)
子宮頸がん、陰茎がん、外陰部がん、膣がん、
肛門がん、口腔がん、中咽頭がん
エプスタイン・バーウイルス
(EBV)
上咽頭がん、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫
ヒトT細胞白血球ウイルスI型
(HTLV-1)
成人T細胞白血病/リンパ腫

図:国立がん研究センターがん情報サービス「がんの発生要因」より

今回のテーマである免疫に関係する要因はありますか。

がんに負けない免疫力を維持するには、どれも大切な要因ですが、たとえば、過度な飲酒は免疫力を抑制してしまうことが分かっています。また、現代人はとかく運動不足になりがちですが、適度な運動は免疫機能を増強するので、できるだけ体を動かすように心掛けることも大切です※6

また、子宮頸がんの発症要因であるHPVは、性交渉の経験のある女性であれば、多くの人が感染する可能性があるごくありふれたウィルスで、仮に感染してもそのほとんどがご自身の免疫力で、感染に気づかないうちに排除されています。

しかし、免疫力が低下しウイルスを排除できない場合は、HPVが消失せず感染が長期化することになります。その結果、子宮頸がんを発症することにつながります。こうしたことを考えても、免疫力を保つことはさまざまながんを予防するために重要です。

※6 国立がん研究センターがん情報サービス「がんの発生要因」参照
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html

インタビューを通して、常に患者さんに寄り添い、最善の治療法を提案しようと努める先生の熱意が伝わってきました。ときにくじけそうになりながらも頑張っている患者さんたちへ、最後にメッセージをいただけますか。

がん治療は本当につらく、また治療に終わりが見えないために、苦痛や不安に押しつぶされそうになる方も少なくないでしょう。でも、あきらめないで、「一緒にがんばりましょう」と声を掛けたいですね。

進行がんで完治が難しいと診断された場合、「治らないのなら延命しても意味がない」と思う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。

「サバイバー生存率」※7という言葉をご存知でしょうか。がんと診断後、一定年数経った時点で生存されている方の、さらにその後の生存率を示すものです。これによると、ほとんどの部位で診断時より1年後、1年後より2年後と、診断から時間が経つにつれて生存率が上がっています。

例えば、診断時の生存率が10%未満のすい臓がんであっても、3年後生存されている方のそこからの5年生存率は60%と大きく向上します。

図:国立がん研究センター「地域がん登録によるがん生存率データ 」より

このことからも分かるように、進行がんで完治が見込めないと言われたとしても、まず「今」を乗り切ることが大切なんです。「今」を乗り切ることができれば、日進月歩のがん医療においては、新しい薬や画期的な治療法が出てきて、今日治らなかったがんが、1年後に治るようになる可能性もありえます。

「あきらめずにまず今を乗り切りましょう」このことをメッセージとしてお伝えしたいと思います。

※7 サバイバー生存率…5年相対生存率とはあるがんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、日本人全体*で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表す指標のこと。

ポイントまとめ

  • 大腸がんでは5人に一人、肝細胞がんでは手術を受けた患者さんの70〜80%と、多くの患者さんが再発を経験する
  • 手術では取り切れなかった微小ながんが大きくなって、再発の原因となることも
  • 「禁煙」「節酒」「食生活改善」「身体活動」「適正体重の維持」「感染予防」の6つが、がん予防のために重要であることが、研究結果から明らかになっている
  • 再発予防ための治療には、主に抗がん剤治療やホルモン療法といった全身的な治療が行われるが、副作用と効果のバランスが問題に
  • 患者さんは副作用が少ない治療を求めており、免疫細胞療法を再発予防目的で受ける患者さんが増えている
  • 日進月歩のがん医療では、あきらめることなく、まず「今」を乗り切ること。それによって次なる治療へと道は開ける

第一回、第二回のインタビュー内容は下記より

>>「外科医が感じた免疫の可能性。がんの予防・治療ともに免疫が欠かせないものに。」

>>「大きく2つのタイプがあるがん免疫療法。効果向上のカギは、『早期実施』と『他の治療との併用』」

取材にご協力いただいたドクター

島袋 誠守先生

島袋 誠守 (しまぶく まさもり) 先生

東京ミッドタウン先端医療研究所 がん診療部長


主な資格など
■資格
日本外科学会 外科専門医

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