【特集記事】大きく2つのタイプがあるがん免疫療法。
効果向上のカギは、「早期実施」と「他の治療との併用」

公開日:2019年09月30日
東京ミッドタウン先端医療研究所 がん診療部長
島袋 誠守(しまぶく まさもり)先生

これからのがん医療に欠かせない「免疫」。免疫をテーマとするがん治療の研究開発は、現在、世界各国で進められています。5年前に外科医から免疫療法を専門とする医師へ転身した島袋誠守先生も、免疫療法の可能性に期待をかける1人です。「がんと免疫」をテーマに3回にわたってお話をうかがう本シリーズ。2回目である今回は、現在行われているがん免疫療法の種類や仕組み、それぞれの特徴などについて解説いただきました。

※第一回のインタビュー内容は下記より
>>「外科医が感じた免疫の可能性。がんの予防・治療ともに免疫が欠かせないものに。」

目次

がん治療第4の柱となったがん免疫療法

前回、免疫のメカニズムについてうかがって納得しました。手術や抗がん剤などでがん細胞を速やかに取り除き、あるいは叩いて小さくすることの重要性は言うまでもありませんが、治癒を目指すためには、免疫の力が欠かせないということですね。

ええ、例えば早期でがんが見つかりがん細胞を完全に切除できればいいのですが、完全には取り切れなかったり、転移などで手術ができなかったりする患者さんの多くは、抗がん剤治療を選択することになります。

抗がん剤による治療は、がん細胞だけでなく正常細胞にもダメージを与えますから、どうしても免疫の力も下げてしまう。たとえ抗がん剤治療で一旦がんを縮小できたとしても、免疫力が弱いと、結局はがんの勢いに負けるということになりかねません。がんを叩くのと同時に、免疫の力をそがないようにすることが重要です。

治療法としても、免疫の仕組みを利用した「がん免疫療法」が、手術、放射線治療、化学療法に続く第4の治療となっているそうですね。

長らくがんの治療法は、手術(外科治療)、放射線治療、化学療法(抗がん剤)が3大標準治療とされ、免疫療法は、20年以上前から期待されつつもなかなか効果をあげることができませんでした。ここ数年で、従来の治療と同等以上の効果を持つ免疫療法が次々と開発されているのも、免疫とがんの関連性について研究が進み、明らかになってきた結果といえるでしょう。

免疫療法には攻撃力を高めるものと、がんによってかけられたブレーキを外すタイプがある

がん免疫療法の仕組みや特徴を教えていただけますか。

大きく分けて、「アクセルを踏むように免疫細胞の攻撃力を強化する治療」と「ブレーキのかかった免疫を回復する治療」の2つのタイプがあります。

免疫は常に同じ状態ではなく、体に入ってきた異物を排除する力を強めたり(アクセルをかける)、強まりすぎたときには力を弱めたり(ブレーキをかける)しています。

健康な人の場合は、このアクセルとブレーキのバランスが取れているため、免疫がうまく機能し、がんなどの病気を防いでいますが、ブレーキがききすぎて免疫機能が弱まってしまうと、がんなどの病気になってしまいます。

逆に、ブレーキがきかなくなると、免疫細胞が過剰に反応し自己を攻撃してしまう「自己免疫疾患」を起こすこともあります。

免疫機能のバランス

近年、がん治療の中で免疫療法が重要な位置づけを占めるきっかけとなったのが、ブレーキのかかった免疫の働きを回復する薬「免疫チェックポイント阻害薬(剤)」の登場です。

先ほど述べたように、がん細胞は免疫細胞「T細胞」の攻撃にブレーキをかけて、生き残ろうとします。抗PD-1抗体薬オプジーボやキイトルーダに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、がんがT細胞にかけるブレーキを外して、本来の働きができるようにする薬です。

がん細胞を直接叩く従来の抗がん剤とは異なる仕組みですから、抗がん剤が効かなくなった進行がんでも治療効果が期待できます。また、一度効果が得られると、長期間に渡り効果が持続する場合があることも分かっています。現在、日本では悪性黒色腫(メラノーマ)、肺がん、腎がん、胃がんなど、約10種類のがん(2019年10月時点)の治療に使われています。

もう一方の「免疫細胞の攻撃力を強化する治療」はどういったものでしょうか?

樹状細胞ワクチン療法やNK(ナチュラルキラー)細胞療法といった免疫細胞療法が挙げられます。樹状細胞という免疫細胞は、がんの破片を取り込んで、その特徴を攻撃部隊であるT細胞に伝えます。樹状細胞から情報が伝わると、T細胞は大きく数を増やし、働きが活発になって攻撃を始めます。これが体内で起こっている、がんに対する免疫の仕組みです。

ところが、何らかの理由によってこの情報伝達が上手くいかず、免疫が上手く作動してくれない場合があります。この問題を解消するために、患者さんの体から樹状細胞を一旦取り出して、人工的にがんの目印となる情報を覚えさせてから体に戻すのが「樹状細胞ワクチン療法」です。こうした樹状細胞を投与することによって、T細胞へ必要な指令が伝わり、がん細胞への攻撃ができるようになるのです。

樹状細胞ワクチン療法

また、患者さんによっては、そもそもがん細胞を攻撃する免疫細胞の数が少なく、がんの勢いに負けてしまっている場合もあり、がんを攻撃する免疫細胞を増やしてあげる必要があります。NK(ナチュラルキラー)細胞療法は、攻撃部隊の細胞のうち、NK細胞というリンパ球を患者さんの体から取り出して培養・増殖させ、それを患者さんの体に戻すことで、がんを攻撃する力を強化することを狙った治療法です。

白血病やリンパ腫の一部に対する新たな治療法として、2019年春に承認されたCAR-T(カーティー)細胞療法も、免疫細胞の攻撃力を強化する治療法の1つです。ただし、この治療法は、患者さんのT細胞に遺伝子改変を加えることから、遺伝子治療の一種ともいえます。

通常、T細胞はがんの目印を発見すると、それを標的に攻撃を開始します。しかし、この仕組みがうまく機能しない患者さんもいるためT細胞の遺伝子を改変して、がんの目印を認識するアンテナを人工的につけたうえで増殖させ、がんに対する攻撃力を増強させます。

従来の治療で効果がなかった患者さんが、1回の治療で寛解(がん細胞が検査で検出できなくなる)する症例が出るなど、高い効果が報告されていますが、1回5,000万円(10割負担の場合)という高額な治療費でも話題になりました。

がん免疫療法も治療法によっては副作用に注意が必要

がん免疫療法はもともと体内に備わっている免疫に基づくため、副作用はあまりないような印象を受けるのですが、実際はどうなのでしょうか。

がん免疫療法も、種類によってそれぞれ副作用の出方は変わってきます。全体として、従来の抗がん剤治療(化学療法)に見られるような、吐き気や脱毛、骨髄抑制(こつずいよくせい)※1といった副作用は少ないと言えます。

※1 骨髄抑制とは、血液を造る骨髄の働きが低下している状態で、赤血球、白血球、血小板の数が低下する。抗がん剤の副作用等で生じる。

免疫は過剰に働きすぎると、本来攻撃すべきでない正常な細胞まで攻撃してしまう自己免疫疾患の原因となる場合があります。樹状細胞ワクチン療法は、がん細胞の目印を覚え込ませ狙い撃つ治療なので、正常な細胞への影響が少なく、大きな副作用は私の経験上ありません。

NK細胞療法などの免疫細胞を増強する治療は、経験上、新たに自己免疫疾患を発症させることはまずありませんが、別の疾患をお持ちの患者さんについては慎重に治療を行います。

一方、免疫チェックポイント阻害薬は、作用が強い半面、副作用にも十分に注意する必要があります。頻度は高くはありませんが、Ⅰ型糖尿病や甲状腺機能障害、間質性肺炎など重篤な副作用が生じる場合があるため、適切な医療機関で治療を受けることが大切です。

がん免疫療法と他の治療の組み合わせで効果を期待

がん免疫療法は、他の治療との組み合わせが効果的と聞きますが。

ええ、私はがんの治療法のことを「武器」という言葉で表現することがあります。がんは、同じ部位にできたがんでも患者さん1人ひとりによってその特徴は異なります。

また、がん自体、生き延びるための仕組みを備えていますから、武器は1つでも多いほうがいいです。諸外国の研究では、標準治療(手術・放射線治療・化学療法)とがん免疫療法を組み合わせて大きな効果を生んだという報告もあります。

放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせも、その1例です。放射線治療の場合は、治療後、死滅したがん細胞の残骸が患者さんの体内に残ります。それを免疫細胞が認識することで免疫が活性化すると言われています。

放射線治療後のこうした機会を狙って、免疫チェックポイント阻害薬を投与すると、患者さんの体内の免疫は一層活性化し、放射線を当てていない部分のがんも消えたという研究結果※2が報告されています。

※2 OncoLog, January 2017, Volume 62, Issue 1

樹状細胞ワクチン療法やNK細胞療法といった免疫細胞療法についてはいかがでしょうか。

単独ではなく、やはり組み合わせが効果的と実感しています。たとえば、手術前に抗がん剤治療を行って、がんのステージを下げて(がんを小さくして)から手術をする『術前化学療法』がありますが、この治療を行う際の問題点として、副作用で抗がん剤治療がスケジュール通りに進まず、手術日が延期される場合が少なくないことがあげられます。

術前化学療法に免疫細胞療法を組み合わせることで、抗がん剤による免疫力低下を抑え、副作用を軽減することで、治療遅延を防ぐことが期待できると考えています。

免疫細胞療法は、現状、先進治療や自由診療で行われていることもあって、検討される患者さんはさまざまな治療をやり尽くして、他に手立てがなくなった進行期の方がほとんどです。

しかし、多くの患者さんを診てきた経験から、早期のがんで、できるだけ早い時期に他の治療と組み合わせて行えば、かなりの確率でがんを治療できると私は確信しています。

患者さんの気持ちの変化に思いやりを持って寄り添う

治療の選択については、それぞれの患者さんの気持ちや価値観の面も大切かと思います。ご経験の中で印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか。

子宮がんで肺への転移がみられた患者さんのことが強く印象に残っています。この方のご子息は某有名大学に勤務しておられる医療関係者で、主治医から抗がん剤治療をすすめられましたが、「抗がん剤治療に苦しむ患者さんを見てきたから、自分は受けたくない」との理由から、当施設においでになりました。

私も抗がん剤治療は行ったほうが良いと伝えましたが、「いつ死んでも良いと思っていますので免疫療法以外は受ける気はありません。」とおっしゃっておられました。
まずは最も困っていらっしゃる不正出血について放射線治療を行い、合わせて樹状細胞ワクチン療法を併用することを提案させていただきました。すると放射線治療を規定の回数を終えないうちに出血は止まり、体調も良くなってきました。

体調が回復してくると、物事に積極的になるものです。そこで、思い切って、嫌がっていた抗がん剤治療も併用することをすすめてみることにしました。がんはしぶとい相手ですから、可能な限り手を尽くしておいたほうがよいと考えたのです。とはいえ、治療の主体は患者さんですから、こちらの考えを押し付けないような提案の仕方をしてみました。

「思い切って抗がん剤治療にも挑戦してみませんか。やってみて、もし嫌になったら、途中でやめても構わないのですから」。

結局、この提案を受け入れてくださって併用治療を行い、多数の肺転移は消失し3年経った現在もお元気でいらっしゃいます。

このように、患者さんのお考えは、その状況で良くも悪くも大きく変わるものです。それぞれの方の価値観や気持ちに思いやりをもって寄り添うこと、そしてタイミングをとらえて最適な提案をすることで、理解が得られることを改めて痛感しました。

※東京ミッドタウン先端医療研究所 診察室の様子

「どんながんも治る」と期待して来られる患者さんも中にはいらっしゃるでしょう。ご説明が難しいのではないですか。

患者さんが誤解を持たれたまま治療開始とならないよう、細心の注意を払っています。来院された患者さんが治療を受けるか受けないか判断できるよう、十分な情報提供を行うと同時に、ご本人の病状だけでなく、家族構成やお仕事のこと、治療の目的、悩みや不安など、細かくうかがってカウンセリングします。

こちらからの情報としては、当施設の実績の中から、その患者さんにできるだけ近い症例を紹介して、どのような治療によってどのくらいの効果が予測できるかをお話しします。

ご自分がこれから受ける治療について、世の中全体での治療実績ももちろんですが、患者さんが最も知りたいのは、ご自分がかかっている医療機関の治療成績だと思うんですね。

もちろん、当施設で症例が少なく、実績に乏しい場合もありますから、それもきちんとお伝えします。できないことをできると嘘はつきません。また、冷静な判断を重んじるため、患者さんにはどなたかと一緒に私の説明を聞いてもらうこと、そして一度家に持ち帰ってから結論を出すことをお願いしています。

切羽詰まっておいでになる患者さんに真実を告げるのは簡単ではありません。言葉選びに悩むこともあります。でも、正直に話すことと患者さんを突き放すこととはイコールではありません。

真実を告げたうえで、これから何ができるのか、それぞれの患者さんの価値観や思いに寄り添いながら最適な方法を一緒に考えていく、それががん治療には大切であり必要なことだと私は考えているのです。

次回予告がんを経験された方には、常に再発や転移への不安がついて回ります。それは、患者さんご本人だけでなく、ご家族にとっても大きな精神的負担となります。がんを予防したり、再発や転移のリスクを下げたりするためにはどうしたらよいのでしょうか。
次回は、がんにならないために、再発を予防するためにという視点からお話をうかがいます。

ポイントまとめ

  • 免疫とがんの関連性について研究が進んだことで、有効性の高いがん免疫療法も登場している
  • がん免疫療法とは、免疫の力を利用するがん治療法の総称。「免疫細胞の攻撃力を強化する治療」と「ブレーキのかかった免疫を回復する治療」の2つのタイプに大別される
  • がん免疫療法も種類によっては副作用に注意する必要がある。特に免疫チェックポイント阻害薬は作用が強い半面、重篤な副作用にも注意が必要
  • がん免疫療法は、早期のがんで、できるだけ早い時期に標準治療など、他の治療と組み合わせて行うことで、効果が期待できる可能性
  • 患者さんの価値観や気持ちに寄り添いながら、最適な方法を一緒に考えていくことががん治療には大切

取材にご協力いただいたドクター

島袋 誠守先生

島袋 誠守 (しまぶく まさもり) 先生

東京ミッドタウン先端医療研究所 がん診療部長
東京ミッドタウンクリニック外来診療部長


主な資格など
■資格
日本外科学会 外科専門医

コラム:樹状細胞ワクチン療法とは

樹状細胞ワクチン療法は、がん免疫療法のひとつで、免疫細胞の1つ「樹状細胞」の力を利用してがんを治療する治療法です。樹状細胞が免疫に与える役割のしくみは、米国ロックフェラー大学のラルフ・スタインマン教授によって発見され、2011年ノーベル医学・生理学賞を受賞しました。樹状細胞ワクチン療法は、現時点では保険適用外の治療法ですが、多くの臨床研究や論文が発表され、標準治療との併用など、さまざまな場面での免疫療法の活用が期待されています。

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