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【特集記事】標準治療との免疫療法の組み合わせで効果を狙う
目次
免疫の持つ力はこれから認知されていく
免疫治療は、今のところ「これが効く」という大きな証拠は見つかっていません。ただこの分野の医療において、がん治療医、免疫学者あるいは生物学者は、手術療法・放射線療法・化学療法といった治療手段の有効性に限りがあるのは明らかだと考えています。
手術だったら取り除けるがん細胞には対応できるけれど、取り除けないものはどうしようもない。抗がん剤は何種類もありますから、何種類もあることを利用してがん細胞を極力減らす努力はできますが、感受性のある細胞には効くけれども、それがなければ効かなくなります。放射線というのは、もちろん放射線の狙いがつけられる状態でないと利用できません。
このように、今の治療は多くの問題をはらんでいるのです。がん細胞にコントロールをつけるための最終手段というのは身体の免疫と考えることができます。がん細胞をできるだけ減らした状態にして、その状態を維持できるかどうかというのは、身体の中の免疫がそれを可能にするかどうかによって決まると考えてもらえばいいと思います。手術によってがん細胞がゼロになるかというと、たとえば乳がんはもう早い段階から血液の中にがん細胞が入っています。他のがん腫も同様で、血管やリンパ管の中をがんは巡っているわけです。
しかし、癌細胞を手術で取り除いて、残った癌細胞が少数になれば、免疫によって制御されて再発しないで天寿を全うすることができたりします。免疫の力をうまく利用することができれば、標準治療に加えて多くの患者さんが助かる可能性が出てくるでしょう。ただそれをちゃんと証明する手段が今までなかったし、それを可能にする適切な治療法というのも存在していませんでした。
そのような治療法が使えるようになるかどうかというのはこれからの課題です。そのためには、治癒が困難ながん患者さんにどういう免疫治療が本当に役に立つのか明らかにしていかなければなりませんし、私たちが行っているような樹状細胞治療が入ってくるのか、さらに、ペプチド医療が入ってくるのか、すべてこれから証明が必要ですね。
今までのところで出てきたデータというのは免疫療法に限っていえばすごくわずかです。そういう点では期待は大きいけれども、まだまだ臨床的な証拠の構築がなされていない段階です。免疫療法のデータが集まってこない理由としては、ひとつに治療自体が非常に難しいことが挙げられます。樹状細胞治療というのは、設備の整った限られたところでしかできません。これから期待が大きいのはペプチドですね。ペプチドワクチンというのは、上手くいけば薬として使えます。そうなってくると多くの患者さんをエントリーして、臨床試験として比較試験が構築できる可能性がでてきます。
薬として多くの人に役立つ免疫治療にしていくためには、やはり剤形の工夫というのが非常に大きいところです。現在ですと、悪性黒色腫(メラノーマ)の治療として、イピリムマブという抗CTLA-4抗体と呼ばれる、どちらかというと免疫抑制に働く細胞を阻害することによって免疫を高める薬がアメリカでは市販されていいます。
この薬は日本でも臨床試験に入っています。そのような作用を持つ薬が臨床で有効性を確かめられれば、新しい免疫治療として認識されていき、免疫が本当に役に立つのだなということが実感されていくでしょう。
樹状細胞療法とペプチド療法
樹状細胞療法とペプチド療法のコンセプトはほとんど一緒です。活性化リンパ球療法やNK細胞療法では、がん細胞を攻撃することのできるリンパ球が、がん細胞の所に集まらず、全身に分布してしまいます。それでは効率が悪いので、がん細胞の目印をリンパ球に教えて、目印をもった癌細胞をめがけてリンパ球が集まってくるようにします。
この目印に利用しているのがペプチドですね。ペプチドは、がん抗原という大きなタンパクを小さくしていって、アミノ酸を数個程度の大きさにしたようなものです。こちらのほうががん抗原よりリンパ球にとってわかりやすい形なのです。リンパ球の司令官である樹状細胞はがん抗原を捉えて細胞内で処理をしてペプチドの形にしてリンパ球に教えます。
そうしてリンパ球にがん細胞の持つがん抗原が標的であることを理解させ、効率良くがん細胞を攻撃することができるのです。ペプチドワクチンと樹状細胞療法の一番大きな違いは、樹状細胞療法は樹状細胞をわざわざ取り出してペプチドを教えるのに対して、ペプチドを患者さんの皮膚に投与するのがペプチドワクチンです。患者さんの身体の中の樹状細胞がそれを捉えて、リンパ球に教え込むということを効率良く行われれば、樹状細胞療法と同じような効果が得られると考えられています。
がん細胞の目印を教える行為を体の外でやっているのが樹状細胞療法、身体の中に任せているのがペプチドワクチン、そういう違いですね。理論的にいってペプチドが同じなら樹状細胞ワクチンのほうが有効性は高いと思いますが、ペプチドワクチンのほうが経済的ですので、ペプチドワクチンはこれから改良されていくと思います。
体内に入ってから、樹状細胞が取り込みやすく、成熟しやすいように改良が加わってくれば、おそらくいい薬として治療に使えるようになっていくでしょう。有効なペプチドはまだ見つかっている種類が限られていますので、今後新しいがん抗原ペプチドもでてくるでしょう。根拠となるデータを蓄積するためには、効果のあるペプチドの組み合わせの仮説を立て、ひとつひとつ患者さんに投与してみて、これはどうだったということを繰り返していく必要がありますから莫大な時間がかかるでしょう。
ペプチドの組み合わせのよしあしが、すぐにわかるような研究開発が進めば、スピードが加速されますよね。おそらく、そのような科学技術の発達が数年から十年以内に起こってくると思います。どこかのタイミングでの急速な進歩、ブレイクスルーというのは必要ですね。
標準治療との免疫療法の組み合わせで効果を狙う
いままでは、免疫療法のこれからについてお話をしてきましたけれども、現在はどのような治療を行っているかについて、少しお話をしたいと思います。私たちが行っている樹状細胞治療は、主に抗がん剤と併用することによって、治療成績の上乗せ効果を期待しています。現状の免疫療法だけでは、大きくなってしまったがん細胞をコントロールするのは難しいと考えています。
しかし、抗がん剤などを使用して、がん細胞が痛めつけた状態になってくると、免疫細胞にとってもがん細胞を攻撃する糸口ができるわけですね。がん細胞がすごく元気な状態だと、近寄ってきたリンパ球を殺してしまうこともあるのです。これは稀なケースではありますが、中には抗がん剤が全く効かないがん腫が存在していたり、患者さんの意志で抗がん剤はしたくないだとか、間質性肺炎のような合併症があって抗がん剤は使いにくいなどの症例があったりします。
そのような患者さんに免疫療法だけで治療して効果があったというような方もいらっしゃいます。ひとつ例を挙げると、悪性黒色種(メラノーマ)は、抗がん剤にあまり効果が期待できないと考えられていたがん腫でしたから、免疫治療をトライしてみようということになるわけです。そして、実際にその患者さんは7回樹状細胞を投与したのですが、腫瘍が消えてしまって、その後ずっと何年にもわたって腫瘍が出てこないような状態が維持できました。がん細胞が完全に消失したと考えるよりも、身体に潜んではいるのだけれども、免疫の記憶が出来上がっていて、長期間にわたって抑え込んでいたと考えることができるでしょう。
こういう症例を見ていると、抗がん剤とは違った効果が期待できるなと思います。抗がん剤のような、耐性ができてしまって、一回効かなくなってしまったらもうそれ以上効きませんよというのとはちょっと違います。我々としてはなるべく治療効果が維持できるように長期間にわたって症状をコントロールできればよいと考えています。
自分で治療を選択することが大切
免疫治療の現状と未来についてお話をしてきましたが、患者さんにとって大切なことは、治療を自分で選択するということです。患者さんによっては、ドクターに任せっきりになってしまったり、自分で詳しく考えるのは非常にストレスで嫌だという方もおられます。しかし、治療の効果というものは、統計的にでているものもありますが、医学的な証拠が出ているものであっても、それが全ての人に当てはまるわけではありません。
あくまでもこの治療が最も確率高く患者さんに有効ですよということを提示できるだけです。治療の選択と、治療後のことも含めて、患者さん自身が、自分にとって適した治療なのか、自分の望みを叶えてくれる治療なのか判断しないといけません。効果と副作用、プラスとマイナスの情報をしっかり得て、自分は何を求め選択するのかというところをしっかりお考え下さい。
多くの場合は、再発したがんがある場合や、治療・手術不能となってしまった患者さんにとって、がんが完全に治るという状況というのは奇跡に近いかもしれません。しかし、自分の時間をどの程度伸ばすことができるのか、痛みや苦痛などの症状をどれだけ抑えることができるのか、その間に自分がしたいことは何なのか、総合的に考えて自分の治療を選んで下さい。
自分はどう生きたいかというところに医師が踏み込んできてくれることはほとんどないでしょう。治療のプロフェッショナルとしてのドクターの意見は情報として入れながら、自分で考えて自分で選ぶという姿勢を崩さないようにしてください。
取材にご協力いただいたドクター

独立行政法人国立国際医療研究センター臨床研究センター 辻谷 俊一先生 1975年鳥取県立米子東高等学校卒業、1982年九州大学医学部卒業、九州大学医学部第二外科入局、1985年福岡県立九州歯科大学 外科助手、1986年国立病院九州がんセンター 消化器部外科医師、1989年九州大学医学部 第二外科助手、1991年米国ペンシルバニア大学 ウィスター研究所研究員、1992年鳥取大学医学部 第一外科助手、1997年鳥取大学医学部 第一外科講師、2000年鳥取大学医学部 病態制御外科(第一外科)准教授、2010年九州大学大学院 がん先端医療応用学准教授、2012年国立国際医療研究センター 細胞治療研究開発室室長 同 緩和ケア科医長
<所属学会>
日本外科学会認定医・専門医・指導医、日本消化器外科学会認定医・専門医、指導医・評議員・消化器がん外科治療認定医、日本胃癌学会評議員、日本食道学会評議員・食道科認定医、日本癌治療学会臨床試験登録医、日本臨床腫瘍学会暫定指導医、日本がん治療認定医機構認定医・暫定教育医、日本消化器癌発生学会評議員、日本バイオセラピィ学会評議員、日本緩和医療学会暫定指導医、日本外科系連合学会評議員、日本内視鏡外科学会評議員、日本消化器病学会専門医・支部評議員、日本消化管学会胃腸科認定医、米国外科学会正会員(FACS)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)会員、米国癌学会(AACR)会員、欧州腫瘍内科学会(ESMO)会員、
<研究分野>
消化器外科学、臨床腫瘍学、臨床免疫学
カテゴリー免疫療法
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