【特集記事】がんの再発・転移予防には免疫力が大切

公開日:2012年12月28日

目次

はじめに

がんの再発・転移を防ぐには、がん患者さん自身が備えている防御機能である”免疫力”を回復・維持することが重要と言われています。しかし、「免疫力を回復・維持する」とは、どういう事なのか。そのメカニズムのポイントが近年の研究で明らかになってきました。がんに負けない免疫力を維持するための有効な具体策はあるのか。実証例(研究報告)を含め、国内外で長年、癌免疫学の研究をされてきた原田先生にお話を伺いました。

がんの再発・転移予防には免疫力が大切

がんの治療を進めていく上で、患者自身が持っている”免疫”がどのように関わってくるのか。
「がん治療では手術で悪性腫瘍(がん)を切除しようとしても、がん細胞を完全に取り除けない場合があります。そのため再発・転移の予防として、術後に一定期間、抗がん剤や放射線を使ったがん療法がよく行われます。しかし、患者さんの免疫力が健全な状態でないと、その効果が十分に得られないのです」

体内に残ったがん細胞をいくら抗がん剤や放射線で一時的に叩いても、基礎となる免疫が低下していれば、再びがん細胞は増殖を開始してしまう。抗がん剤や放射線療法の効果を高めるためには、同時に免疫力を回復・維持しておくことがポイントになるそうです。

下の図をご覧下さい。
担がん患者(体内にがんを持つ患者)の免疫力が”健全な状態”と”低下した状態”で、抗がん剤・放射線療法を行ったときのがんの増殖を表したグラフである。免疫力が低下した状態では、治療後にがん細胞がすぐに増殖してしまうことが分かります。

「一般に”免疫”と言うと、外から体内に侵入してきた細菌やウイルスなど外因性の病原体を攻撃・排除する働きのイメージが強いかと思います。しかし、がん細胞はもともと患者さん自身の細胞が変異したもの。がん細胞の攻撃・排除にも免疫応答が重要になってきます」

免疫応答とは、免疫を担当する細胞や抗体が外因性または内因性の異物を抗原と認識し、特異的に生じる反応のことを言います。

免疫状態はがんの発生だけでなく、初期治療後の再発・転移においてこそ、その働きは重要な影響を与えていると考えられます。

がん患者の免疫力低下の原因「免疫抑制細胞」

がん患者の再発・転移予防には、健全な免疫状態であることが非常に大切になってきます。

ところが、「がん患者さんでは、その免疫力が低下している状態になっているのです」と原田教授は説明します。

「がん患者さんには”免疫抑制細胞”の存在が明らかになっているからです。免疫抑制細胞には”Treg(制御性T細胞)”や”MDSC(ミエロイド由来免疫抑制細胞)”などがあり、これらが異常増殖して、がん患者さんはがん細胞に対する免疫応答がうまく行われなくなってしまうのです」

免疫は、通常であれば自然免疫を担当するNK細胞やマクロファージなどが、がん細胞を攻撃対象の異物(抗原)として認識することで開始され、その後、がん細胞に対してTリンパ球や抗体により特異的な攻撃・排除が開始されます。
ところが、免疫抑制細胞が増殖しているがん患者では、がん細胞を取り囲む免疫抑制細胞がブロックしているため、免疫を担当する細胞ががん細胞を十分に攻撃できないのです。

ところが、免疫抑制細胞が増殖しているがん患者では、がん細胞を取り囲む免疫抑制細胞がブロックしているため、免疫を担当する細胞ががん細胞を十分に攻撃できないのです。

免疫抑制を解除・軽減して、本来備わっている免疫を回復・維持させることができる

がんの治療や再発・転移予防を進めていくには、免疫状態を回復・維持させることが重要になります。そのためには免疫抑制細胞の異常増殖によって引き起こされている免疫応答の抑制を解除・軽減しなければいけないことが分かってきました。
では、その具体的な対策として、何か有力な方法があるのでしょうか。

「食品由来の成分で対応できる素材として”シイタケ菌糸体抽出物”があります。シイタケ菌糸体の抽出物には、β―グルカンの他、α―グルカン、アラビノキシランなど免疫を活性化する免疫調節物質を多く含有しています。実際、シイタケ菌糸体エキス粉末を使ったマウス試験で免疫抑制細胞の増殖を抑える作用があること確認しています」

シイタケ菌糸体とは、シイタケで普段食べる部分(子実体)より下に生えている肉眼では白い糸状に見える根の部分。菌糸体が栄養を溜め込み成長がピークに達すると、シイタケは子実体を作り出す。この菌糸体由来の研究素材として知られているのが、シイタケ菌糸体の抽出エキスを粉末乾燥させた、シイタケ菌糸体抽出物(以下、シイタケ菌糸体)です。

このシイタケ菌糸体と免疫に関する臨床研究は、これまでも大学の研究施設や医療機関で数多く実施されています。下の図は、代表的な臨床研究報告の一部をまとめたものである。化学療法との併用を中心に、幅広い領域のがん治療への臨床応用が進められています。

原田教授も、いち早くシイタケ菌糸体の免疫抑制細胞の増殖抑制作用に着目して研究を続けて来た研究者の一人。その有用性について、こう話しています。
「免疫抑制細胞の異常増殖が抑えられれば、免疫応答の抑制を解除・軽減することができる。つまり同時に本来、患者さんに備わっている免疫力を回復・維持させることができるわけです。そうなれば、がんの再発・転移の治療効果を高めることにつながります」

免疫抑制細胞を減少させる「シイタケ菌糸体」

これまで原田教授はシイタケ菌糸体を用いたさまざまな研究を実施してきた。注目されるのは、マウスの試験で確認された2つの研究です。

がん細胞(メラノーマ・皮膚がん細胞)をマウスの足裏に接種し、翌日から21日間、シイタケ菌糸体を餌に1%または2%配合して与えた。21日目に、腫瘍重量と脾臓細胞中の免疫抑制細胞(制御性T細胞(Treg))の割合を測定した。

「シイタケ菌糸体を与えたマウスは、腫瘍の増殖(重量)が抑えられました。免疫抑制細胞の割合も、シイタケ菌糸体を与えたマウスの方では減少していることが確認できました。」
この結果は2010年3月に岡山市で開催された日本薬学会において発表されています。

もう1つの研究は同じ治療モデルで、週1回の頻度で3回”がんペプチドワクチンの投与”を追加して、腫瘍重量と免疫抑制細胞の数を測定した研究です。
その結果、次の2点が確認されています。

(1)シイタケ菌糸体を併用すると「がんペプチドワクチン療法」単独よりも腫瘍の増殖が抑えられた。

(2)シイタケ菌糸体を併用すると、免疫細胞をブロックする免疫抑制細胞の減少が見られた。

この結果も2012年9月に札幌で開催された日本癌学会において発表されている。

これらの研究結果を踏まえて、原田教授はこう話しています。
「がん患者さんの免疫状態を改善するシイタケ菌糸体は、抗がん剤・手術・放射線などの療法と組み合わせて使用することで、がんの再発・転移を抑制したり、良好な予後を維持するなど、がん治療をサポートする効果が期待できると考えています」

シイタケ菌糸体についての詳しい情報はこちら

取材にご協力いただいたドクター

島根大学医学部 微生物免疫学講座(免疫学) 原田 守教授

1986年九州大学医学部卒業後、同大附属病院・脳神経外科に勤務。1993年九州大学大学院医学研究科病理系専攻博士課程を卒業し、同大生体防御医学研究所を経て、1997年10月~1999年9月まで米国NIH癌研究所(NCI)へ留学。2000年久留米大学医学部免疫学講座講師、助教授を経て2006年9月から現職。

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