【特集記事】既存の治療法と免疫療法の組み合わせで効果が増す

公開日:2012年08月01日
既存の治療法と免疫療法の組み合わせで

発展を続ける免疫療法には、複数の種類があり、仕組みや効果も異なります。今回のドクターインタビューでは、免疫療法の歴史から種類とその仕組み、他の治療法と免疫療法を組み合わせることで得られる効果や、転移予防への免疫療法の可能性などについて木内医院 清水昭男先生にお話を伺いました。

目次

がんワクチン療法(免疫療法)が発展してきた歴史

がん治療は、外科手術・放射線治療・化学療法・免疫療法の4つが、30年間にわたって画期的な進歩を遂げてきました。
最初に免疫療法の歴史から始めますと、免疫療法というのはそもそもアメリカで悪性黒色腫の治療として開発されました。それをローゼンバーグという人達が実用化したのが、現在の免疫療法のはじまりだと言われています。その前から医学者たちは、免疫という仕組みが、がんもある程度排除していることに気付いていました。計算上、がんは今の5~10倍多くてしかるべきなのに、そうならないのは、病気としてがんになる前に、身体の免疫ががん細胞を死滅させるからだろうと予想されていたのです。

ローゼンバーグたちは、身体から取り出したリンパ球を増やして再び戻す「活性化自己リンパ球療法」の基礎を確立させました。それが日本に導入されたのが1980年ごろです。免疫療法は「次の世代のホープ」と非常に期待されて登場しました。
ただ、当初、日本の医学界では、免疫療法は効かないという誤った認識がされていました。確かに効果のある症例はいくつもあって、そういう症例を集めたエビデンスは現にたくさんありますが、”ホープ”として登場した割には効きが悪い。当時は非常に費用もかかりましたので、「こんなにお金がかかって、これだけの効果では、効かないも同然だ」と認識されてしまったのです。

免疫療法の効果が解明された背景

しかし、免疫療法に強い関心を持った医師たちは、その後もこつこつ研究を続けました。結果、10~15年前から免疫の分野は非常に発展しました。
一つの成果は、リンパ球免疫療法が効かない理由を突き止めたことです。がん細胞の数に対して免疫療法で使う免疫細胞の数が少なすぎることだとわかりました。実験でネズミに人間のがんを植えておいて、患者さんのリンパ球を入れるとキレイに消えるんですね。だけど人間ではそれほど効かなかった。なぜなら、人体の大きさに比べて、入れているリンパ球の量、あるいは活性化した免疫の強さがあまりに弱かったからです。この事実から、がん治療に必要な免疫細胞の数が計れるようになりました。免疫療法で、主として用いるのはリンパ球という細胞で、その中でもキラーT細胞は主役になります。そのキラーT細胞は、最悪でも100個に1個のがん細胞を死滅させ、最良だと10個に1個のがん細胞を死滅させることがわかったのです。

その後、免疫療法はさらに発展していきます。リンパ球のほかに樹状細胞も重要であることが明らかになりました。樹状細胞は、外から身体に入った異物を「これは自分の身体ではないぞ」と認識し、敵だという信号を出します。それをリンパ球が受け取り、免疫反応を起こすわけですが、この仕組みを応用したのが樹状細胞療法です。身体にとって「敵」となるものを判断する樹状細胞を増やして、リンパ球を利用する「樹状細胞ワクチン療法」は、そのうちの一つです。いわゆる「活性化自己リンパ球療法」は、逆にもう敵だと教えられたリンパ球を活性化する治療法ですが、両者は同時に受けていただくのが効果があると、多くの医学者が賛同しています。

活性化自己リンパ球療法の一つ「CTL療法」とは?

活性化自己リンパ球療法の一つに「CTL療法」という治療法があります。がん組織を手術で採取したあと、がんを攻撃していたリンパ球も採り出して培養するのですが、普通の活性化自己リンパ球療法に比べて2~3倍強力です。生物学的な誤差を考えると、10倍程度強力であると見ています。リンパ球を培養する技術が進歩したことで、実現した治療法です。細胞を単に培養しようとすると、がん細胞もリンパ球もいっしょくたに増えてきてしまいます。それが、がん細胞を全て排除して、リンパ球だけに単離して増やす技術が開発されたのです。今後もう少し技術が進めば、もっと数が増やせるようになる可能性はあると思います。

培養の技術というのは職人芸部分があり、同じ手順に従っても同じ結果になるとは限りません。同じレシピで料理を作っても同じ味にならないのと同じことです。そのため、才能のある、優良な技術者を確保することが医療機関側の課題になります。あるいは優良な技術者がいて信用できる医療機関を判断することも大切になると言えます。

「自家ワクチン療法」「ペプチドワクチン療法」の仕組み

免疫療法のなかには、自家ワクチン療法という方法もあります。これは、患者さんから採りだしたがんを粗製タンパクだけに分離して、「アジュバント」という薬品を加えてから投与するものです。がん組織そのものを使うわけですから、うまくいけば効果があります。ただ、がん組織を採取する手術ができる患者さんであることが大前提で、私の経験では効く人と効かない人がハッキリ分かれます。

もう一つ、ペプチドワクチンという方法もあります。こちらは、T細胞ががんを攻撃する際の目印(抗原)となる「ペプチド」というたんぱく質を人工的に合成し、体内に投与する方法です。たくさんのペプチドが体内に入れば、T細胞が活性化し、がんを攻撃する力が増すという仕組みです。最近になって、いくつか代表的なペプチド人工抗原が確立し、期待が高まっています。

自家ワクチン・ペプチドワクチンについては、条件が整えば、補助療法のひとつとして取り入れるのもいいと思います。数年前までは、一回の治療で100万円程度かかっていましたが、今はずっと安くなっています。

既存の治療法と免疫療法の組み合わせで効果が増す

ここまで紹介した免疫療法は、再発予防にも効果があります。現在の標準療法では、再発したがんに対してはほとんど無力という状況ですが、樹状細胞療法や活性化自己リンパ球療法と組み合わせることで、効果を高めることができます。化学療法や放射線治療など他の技術も進歩していますから、合わせて行うことで、再発転移を治療できる方法はすでに数多くあるのです。
進行してしまったがんでも丁寧に細いビームで放射線を打っていけば、転移の大部分を死滅させることができますし、そのあとメインの腫瘍の切除し、あとは小物を整理すればいい。免疫療法は、そうした治療に耐えるための下支えを果たします。

実際に、進行がんで末期に近い方から、「楽になりました」「元気になりました」「一時的であれ、仕事ができるようになりました」という声はたくさん聞かれています。少量の化学療法と免疫療法を組み合わせることで、亡くなる2~3日前まで仕事をして、普通の生活をしていられた方もいました。 また、疼痛コントロールも非常に楽になり、「痛い苦しい病気だと聞いていたが、そんなに苦しまなくてよかった」「ぎりぎりまで家庭で過ごせて良かった」、あるいは家庭で看取るというようなところまできております。

術前の免疫療法で転移を予防できる可能性

免疫療法とその他の治療との相性は、諸説紛々としておりまして、リンパ球が化学療法で死んでしまうから同時並行はムダだという意見もあります。ただ私は、時期を問わず少しでも早く免疫療法を始めた方が良いと考えています。もしくは、化学療法の前からでも始めたほうがいい。手術をするなら、術前に1~2回入れておくのをおすすめしています。手術によって起きる転移を阻止することにつながるからです。

実は、がんを切除する手術中は、患部をちょっと触っただけで何十万個単位でがん細胞が血中に逸脱することが証明されています。それが血液にのって他の臓器に転移する可能性があるのです。もちろん、全例で転移が起こるわけではありませんが、防止するに超したことはありません。術前から免疫療法を始めて免疫力を高めておけば、手術によって起きる転移も防げると私は考えております。

また、化学療法というのは免疫を下げる治療ですから、免疫力を上げる免疫治療を同時に行うというのは大いに意味があると考えられます。放射線療法も同じです。ぶっ続けに予定線量をかけられると、免疫力が下がってしまいます。そこに免疫療法を行えば、数値が戻ってくるのが早く、副作用が出にくいのです。

したがって、免疫療法は時期を問わず早ければ早いほどいいのではないかと考えています。免疫療法も万能ではありませんが、いくつかの治療法を組み合わせて使うというのが、がん治療の基本的な考え方とも合致しています。

正確な情報と最新の技術水準のある医療機関を探してご相談を

インターネットで「がん治療」を検索すると400万件くらい出てきますが、ほとんどが根拠が無い情報です。患者さんやご家族にとって、に正しい情報を入手することは非常に大切で、難しいことでもあります。
正確な情報をどこへ行けば手に入れるかというと、時間をかけてじっくり聞いてくれて、なおかつ最先端の技術と、現在の医療水準の正確な情報を持っているドクターを探すというところから始めなければいけません。患者さんはよく、「主治医の先生に悪いから、他の先生のところに行けない」とおっしゃいます。しかし、医師選びは患者さんの責任であり権利でありますから、正確な情報と最新の技術水準のある医療機関を探してご相談をいただきたい。再発転移、進行がんであっても最善の努力を尽くす医師と出会っていただきたいと願います。

がん治療は、昔に比べてずっと選択肢が広がりました。やみくもに苦しい治療に耐えればいいというだけではなくて、正確な情報をもとにして、良いドクターを探すことで患者さんがラクになる時代なのです。医療技術は日進月歩に進歩しますから、時間を稼いでいるうちに新しい抗がん剤できるかもしれません。時間を有効に活用できるように導いてくれる医師選びというのを、最後まで諦めずに行ってください。

ポイントまとめ

  • 免疫療法は,もともとアメリカで悪性黒色腫の治療として開発された。身体から取り出したリンパ球を増やして再び戻す「活性化自己リンパ球療法」の基礎を確立させ、その治療法が日本に導入されたのが1980年頃である 。
  • リンパ球のほかに、異物を判断しリンパ球に教える働きがある樹状細胞も重要であることが明らかとなった。樹状細胞を増やしてリンパ球を利用する「樹状細胞ワクチン療法」は、リンパ球を活性化する「活性化自己リンパ球療法」と同時に受けることで効果があるといわれている。
  • 「CTL療法」は、がん組織を手術で採取したあと、がんを攻撃していたリンパ球も採り出して培養する活性化自己リンパ球療法。普通の活性化自己リンパ球療法に比べて2~3倍強力である。
  • 自家ワクチン療法とは、患者さん自身のがん組織を利用した治療法で、がん組織を採取するため手術ができることが大前提となっている。ペプチドワクチン療法とは、T細胞ががんを攻撃する際の目印となる「ペプチド」を人工的に合成し、体内に投与することで、がんを攻撃する力を高めることを狙った治療法である。
  • 免疫療法はがんの再発予防にも効果があり、標準治療に「樹状細胞ワクチン療法」や「活性化自己リンパ球療法」を組み合わせることで、効果が期待できる。また、免疫療法は、進行がんに対する治療に耐えるための下支えにもなりうる。
  • 免疫療法の開始時期は、早ければ早いほうがよく、放射線治療や化学療法を行う場合は、治療と同時か治療前に始めることがいい。 手術を行う場合は術前に行うことで、転移予防が期待できる。
  • 正確な情報と最新の技術水準のある医療機関を見つけ、再発転移、進行がんであっても最善の努力を尽くし、時間を有効に活用できるように導いてくれる医師を諦めずに探すことも大切。

取材にご協力いただいたドクター

木内医院 清水 昭男 先生

介護老人保健施設にじの丘足柄医師、木内医院医師、横浜市立大学医学部医学科(病理学、薬理学)講師、横浜市立大医学部看護学科(薬理学)講師、横浜市医師会看護専門学校(病理学)講師、(財)積善会看護専門学校(病理学)講師、医療法人康進会湘南東部クリニック オンコロジーセンター免疫療法担当医師、小田原医師会理事を兼務

1976年3月 私立栄光学園高等学校卒業、1976年4月 横浜市立大学医学部入学、1982年3月 横浜市立大学医学部卒業、1982年4月 横浜市立大学大学院医学専門課程入学、1986年4月 横浜市立大学大学院医学専門課程卒業、1986年4月 神奈川県立がんセンター臨床研究所勤務、1999年12月 同退職、2000年1月 木内医院 勤務、2001年6月 医療法人帰陽会 介護老人保健施設にじの丘足柄勤務、2001年8月 医療法人帰陽会 理事就任 兼 介護老人保健施設にじの足柄施設長、2005年4月 医療法人理趣会木内医院 がん免疫療法研究室 室長、2008年6月 医療法人理趣会理事長就任

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