がん認定医が語る肝臓がん

公開日:2011年02月26日

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転移性肝がんが多い理由

消化管で吸収された栄養素などは、血液にのって肝臓を通り、分解、代謝、解毒されてから全身に回ります。そのため、肝臓は胃や大腸などいくつもの消化管とつながっているのですが、それらの臓器から高い頻度でがんが転移します。肝臓と消化管をつなぐ血管を「門脈」といい、この門脈にほかの臓器のがん細胞が“目詰まり”を起こしてしまうのです。門脈に詰まったがん細胞は、どんどん肝臓の中へと溜まっていき、肝臓がんとなってしまいます。ほかのがんに比べ、肝臓への転移は非常に頻度が高いため、「○○がん(原発巣)の肝転移」と呼ばず、「転移性肝がん」と独立した病名で呼ばれています。

再生能力のある肝臓、第一選択肢は外科手術

 

転移性肝がんの治療の第一選択肢は、外科手術によるがんの摘出です。肝臓は手術で切除しても、自然に再生する力があるため、肝機能がそれほど下がっていなければ3分の2まで切除できます。しかし、その再生能力には限界があります。肝臓は、下から見るとブロッコリーのように血管が枝分かれしており、手術では血管ごと切除します。手術後、再生するのは肝細胞だけで血管は再生しないため、切除が不可能な場合があるのです。ほかにも、著しく肝機能が低下していたり、原発がんの手術からの期間が短かったりして、再手術を行わないケースも多くなっています。

手術以外の局所治療の選択肢は?

手術以外の選択肢には、「経皮的局所療法」といって身体の外から針を刺して行う治療があります。その一つが「ラジオ波焼灼」です。約100℃の電磁波でがんを焼き切る治療法で、腹部の表面を1~2ミリほど切開し、肝臓に直接電極を当てます。ほかにも、「経皮的エタノール注入療法」(PEIT)といって、腫瘍内にエタノールを注入する治療法もあります。どちらも局所麻酔で痛みが少なく、治療時間も短いため、患者さんの身体的負担が少なとして注目を集めています。ただ、「経皮的局所療法」の対象となるのは、がんが直径3センチ以下で3個以下であること。あるいは5センチ以内で単発であることなどが条件です。それ以上にがんが進んでいる場合は、化学療法を選ぶことになります。

転移性肝がんの化学療法

転移性肝がんの化学療法では、「肝動脈化学塞栓療法」(TACE)が代表的です。大腿部(ふともも)のつけ根のからカテーテルを挿し、肝動脈につながる血管に「シスプラチン」や「アドリアマイシン」といった抗がん剤と塞栓物質(ゼラチン・スポンジなど)を詰めて血流を遮断。がん細胞を“兵糧攻め”にする治療法です。この治療法は、治療対象の制限が比較的緩く、黄疸や腹水などがなければ施行できます。デメリットとしては、完全に塞栓してもほかの血管からがん細胞に栄養分が流れ、再発する可能性が高いことです。

TACEを繰り返し行ってもがんを抑えられなかったり、この治療法が不可能なほど肝機能が低下している場合は、「肝動脈動注化学療法」(TAI)を行うことになります。TAIは、がん細胞に栄養を供給している動脈に直接的に抗癌剤を投与する治療法です。高濃度の抗がん剤を直接肝臓の中に入れるため、高い効果が期待できます。

放射線や肝臓移植による治療

通常のがん治療では、外科手術や化学療法が難しい場合、放射線治療を選択することになります。肝がんの場合も、重粒子線などによる治療を行うことがありますが、治療成績はそれほど高くないのが現状です。肝臓だけに放射線を当てることは物理的に難しく、腸などほかの臓器にも影響しやすいことが理由の一つです。

肝機能が著しく低下し、選択できる治療法が少ない場合は、肝臓移植が有効な治療法となります。肝臓移植には、生体肝移植と脳死肝移植があり、どちらもドナーが必要なうえ手術も大掛かりになります。それでも、がんを作る病巣そのものがなくなるため劇的に回復します。がんが3センチ以下および3個以下で、ほかに転移してない場合は保険も適応になります。肝臓移植の年間症例数は2005年で562件(日本肝移植研究会報告書)にのぼり、この数年で徐々に増えてきていました。気をつけたいのは、がんが進みすぎると移植をしても再発の可能性が高くなることです。肝臓からほかの臓器にがん細胞が漏れ、再び移植前と同じ部位にがんができるため、肝機能とがんの進行度からよく医師と相談してください。

取材にご協力いただいたドクター

北嘉昭医師

医療法人社団 トラストメディスン 城山ヒルズクリニック 院長  北 嘉昭先生

奈良県立医科大学卒業 医学博士
大阪大学医学部、東京大学医学部、JR東京総合病院、自冶医科大学、東京慈恵会医科大学を経て現在に至る。
外科専門医 がん治療認定医 消化器外科専門医 消化器病専門医 肝臓専門医 日本医師会認定産業医

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