腹腔鏡手術によって進んだ外科治療現場と最新のロボット手術による可能性

公開日:2011年02月26日

目次

腹腔鏡手術にて体へのダメージを最小限に

腹腔鏡通常の進行がんなどのがん治療における流れは、まず手術をした後に抗がん剤を投与するケースが多いですが、最近では、ダウンステージングといって、先に抗がん剤や放射線によって腫瘍を小さくしてから取るという療法もあります。今までは腫瘍の大きさで開腹手術になっていたケースも、ダウンステージングにより腹腔鏡下での手術ができる可能性がでてきました。腹腔鏡手術は受けられた方もたくさんいらっしゃると思いますが、お腹に約5mm程の穴を数か所あけて、モニターを見ながら手術をします。最少ではお腹の傷1ケ所だけで腹腔鏡手術ができるケースもあります。 腹腔鏡手術のメリットはほかにもあります。お腹の中を覗くことができるので、仮に進行がんで手術での切除が難しいと判断されたときでも、開腹手術をしているわけではないので、浸襲が少なく、抗がん剤治療をすぐに始めることができます。いったん開腹手術でお腹を開いてしまうと、回復するのに時間がかかり、抗がん剤治療の開始まである程度期間をあける必要があります。また、最初の手術が腹腔鏡手術ですと、再度手術が必要になった際に、前の手術時の癒着等の影響が少ないので、手術をする側としても次の手術がやりやすいといったこともあります。再発時の手術に対する意味でもメリットは大きいと思います。 腹腔鏡手術のメリットは以上のようにあげられますが、もちろんそれは手術の方法でしかありません。大事なのは、腹腔鏡手術でやることではなく、安全に確実に治すことです。見えないところで出血して患者さんの負担が大きくなるのであれば、腹腔鏡手術の最大のメリットである低侵襲性(傷口や痛みなど体への負担が少なくてすむこと)が失われるので、無理にすすめることはありません。腹腔鏡手術でがん組織を切除するのが困難だと判断した場合には開腹手術を選択することもあります。

緩和治療でも利用される外科手術

進行がんで治療されている患者さんのQOLを上げるために、緩和という目的で手術を行うこともあります。たとえば食事の通り道を塞がれてしまっている患者さんに胃や腸にバイパス手術をすることで食事が可能になることがあります。また、便の通り道が塞がってしまった方には、人工肛門を作る場合があります。こういった外科手術でも腹腔鏡が併用されるケースもあります。

進化した外科手術の可能性

Full da Vinci S Surgical System現在はまだ、日本ではロボット手術は保険適用ではないのですが、心臓血管外科や泌尿器科そして消化器外科領域の手術に主に使われています。ロボット支援下手術の特徴は、細かいところを拡大視野で捉えることができ、患部を近接で見ることができます。 また、ロボットの手の動きが540度回転し、必要な方向に向けられます。いままでの肉眼と手を使っていた治療にくらべ、精度の面で大きな進展が見込めると思っています。がんの進行状況や転移などにもよりますが、いままでの開腹手術と比較すると、手術そのものの傷口を小さくできることや、ほかの臓器を傷つけてしまうリスクを最小限にすることができると思われます。 将来、ITネットワークで治療装置と操作機器をつなげば、離島でも手術ができるようになる可能性があります。手術手技をより精密に、より安全に施行し得るロボット支援下手術には、低浸襲手術をさらに発展させる大きな可能性を感じます。 また、2004年にJohns Hopkins Hospitalから報告されたNOTESという、体壁を損傷せずに体腔内の手術を行うという斬新な概念は、世界中から関心を集め、現在急速に研究が進められており、今後注目すべき治療法の1つです。

技術が進んでも信頼関係が大事

病気をかかえ、治療を進めている患者さんは、精神的に非常に不安な状況におかれていると思います。がん治療の中では、手術をする医師と、抗がん剤を投与する医師が異なる場合などもあります。したがって患者さんを中心とした医療体制の構築が重要であると思います。近年医療は驚くべきスピードで進化し続けていますが、やはり最も大切なのは、患者さんに関わる全ての人の信頼関係が重要であると考えます。患者さんに安心して医療を受けて頂くことが非常に大事だと考えています。

取材にご協力いただいたドクター

北里大学北里研究所病院 消化器外科・血管外科 外科医長、救急科医長、人間ドック科医長、糖尿病センター医長 金田 宗久先生

東海大学医学部卒業
慶応義塾大学医学部一般消化器外科、京都大学医学部移植外科等を経て現在に至る
日本外科学会認定医・専門医 腹部大動脈瘤ステントグラフト実施医 日本脈管学会認定脈管専門医

関連記事

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。