【特集記事】抗がん剤とのじょうずな付き合い方

公開日:2015年04月30日

がんの治療においてきわめて重要な位置を占めている抗がん剤治療ですが、やはり気になるのは副作用についてではないでしょうか? 抗がん剤治療で予想される副作用とその対策、そして抗がん剤の本当の良さについて「がん研究会・総合腫瘍科部長 高橋 俊二先生」にお話を伺いました。

目次

患者さんの不安はやはり副作用

 がんの治療法で手術療法が最も歴史があり、それに次ぐのが放射線療法、化学療法は最も新しく20世紀半ばに登場した治療法です。近年、抗がん剤による化学治療は、がんの治療においてきわめて重要な位置を占めるようになっています。

抗がん剤治療は、まず、手術で切除する範囲を狭める目的で手術前に抗がん剤でがんを縮小させたり、手術後に抗がん剤を用いることでがんの再発率を低下させたりすることを目的に行われます。また、再発・転移したがんの治療では、多くの場合、根治を目標に行う初発の治療とは異なって、がんの進行を抑え、がんによる症状を和らげることが治療の目標になります。再発・転移がんの治療で、抗がん剤は重要な役割を果たしています。

がんの薬物療法には抗がん剤治療、ホルモン療法、分子標的療法があります。抗がん剤治療は抗がん剤でがん細胞を殺す治療法ですが、同時に細胞障害性抗がん剤として健康な細胞にも影響を及ぼします。ホルモン療法は、ホルモンに作用する薬でがんの成長などに関わるホルモンの分泌や働きを抑え、がん細胞の増殖を抑えます。分子標的療法は、がん細胞の特定の酵素や受容体などの分子に結合する分子標的薬を使ってがん細胞を殺したり、増殖を抑えたりします。

再発・転移したがんの治療では、がん細胞が体のさまざまな臓器などに転移しているという可能性を想定して治療する必要があります。そのため、全身に治療効果を行き渡らせることができる薬物療法が行われます。ただし、再発・転移したがんの場合、それぞれの患者さんによって病状が異なります。

標準治療に則ったとしても、抗がん剤治療を受ける患者さん全員に同じ副作用が現れるわけではなく、その症状や程度もさまざまです。もっといえば、個々の患者さんのがんに対する向き合い方で治療法は異なってきます。それでも、患者さんが抗がん剤治療で一番不安に思うのは副作用に関することでしょう。

さまざまな副作用と対処法

 一般的に抗がん剤治療の副作用として現れる症状としては、吐き気、嘔吐、口内炎、手足のしびれや痛み、抑うつ状態、不快感、疲労感、脱毛、骨髄抑制(血球や血小板などをつくる働きが低下)などがあります。副作用は抗がん剤の種類や用量によっても異なってきます。以下、主な副作用と対処法を挙げてみましょう。

【吐き気、嘔吐】
気分が悪い、ムカムカする、吐きそうといった症状。嘔吐することもあります。脳の神経が刺激されて起こると考えられていますが、精神的、心理的な要因も関係していると考えられます。通常、吐き気を抑える制吐剤が処方されます。吐き気は、抗がん剤治療の副作用の中でも最もつらい症状の1つですが、最近の制吐剤は以前の薬に比べて大きく進歩し、抗がん剤治療で吐き続ける人はほとんどなくなりました。

【疲労感・倦怠感】
疲れやすかったり、気力が出なかったりするなどの症状が現れます。抗がん剤の影響もありますが、吐き気や貧血などの副作用が要因となっているとも考えられます。無理をせずできるだけ休息をとるようにしましょう。

【脱毛】
抗がん剤の種類や使用期間、使用量などによって、髪の抜け方には個人差があります。頭皮のほか、体毛やまゆ毛なども抜け、精神的にもつらい症状の1つです。髪を洗うときは地肌をあまり刺激せず、直射日光や乾燥を避けるために医療用ウィッグや帽子などを上手に使うとよいでしょう。髪も体毛も治療が終われば、元通りに生えてきます。

【手足のしびれ感】
手足の指先にしびれやピリピリする感じがしたり、感覚が鈍くなったりすることがあります。運動やマッサージで指先の血行をよくすることも大切ですが、やけどやけがに気を付ける必要があります。

【下痢、便秘】
腸の粘膜が荒れて炎症が起きると、下痢になることがあります。下痢止めの薬が処方されることがありますが、脱水症状でめまい、ふらつきが出現したり、血便が見られたりしたら医師に相談しましょう。腸の動きが弱くなって便秘になることがありますが、そんな状態が続くような場合も医師に相談しましょう。

【口内炎】
抗がん剤の作用や感染によって口内炎ができることがあります。こまめにうがいをして、口の中を清潔にすることで、感染予防にもなります。炎症を抑えるうがい薬、塗り薬などが処方されることがあります。

【骨髄抑制】
血液を作り出す骨髄の機能が障害を受けると、白血球や赤血球、血小板などが減少します。白血球のうち、好中球が減少すると、感染症を起こしやすくなります。感染予防を心がけることが大切です。急な発熱や寒気、排尿時の痛みなどの症状が現れたら、医師に相談しましょう。血小板が減少すると、出血しやすくなり、血が止まりにくくなるといった症状が現れます。血小板が著しく減少すると、消化管出血や脳出血を起こしやすくなるため、注意が必要です。

【貧血】
骨髄抑制や消化管などからの出血によって貧血が起こります。出血が原因の場合は、出血を止める治療が必要です。ふらつき、めまいなどの症状があれば医師に相談しましょう。

抗がん剤の治療が始まって数日間は、筋肉痛、頭痛、倦怠感、嘔気、微熱、寒気、食欲不振といった、風邪のような全身症状がみられることがあります。原因としては、抗がん剤治療による副作用、感染などが考えられますが、がん自体による症状である場合もあります。これらの症状が出た場合は、早めに医師の診察を受けることをお勧めします。

また、体を動かすと息苦しくなる、動悸や頻脈が起こったり脈が飛んだりする、顔や手足や腹部がむくんだりする、黄疸が出たりする――こういった症状が現れた時は、すぐに医師に連絡してください。

効果と副作用のバランスが重要

 再発・転移がんでは、がんの種類によって異なりますが、がん自体の症状が患者さんの生活の質に大きな影響を及ぼします。数々の研究によって、こうした症状は抗がん剤による治療で改善し、生活の質の維持・向上が可能になるというエビデンスが報告されています。まず、この事実を患者さんに理解していただきたいと思います。そのうえで抗がん剤の効果と副作用のバランスをどのようにとっていくか――私たち専門医が常に課題として取り組んでいることです。

抗がん剤治療から副作用をなくすことはできませんが、ある程度管理することはできます。そもそも、薬というものはすべての正常細胞になんらかの影響を与えるものであり、抗がん剤だけが違うということはありません。違いがあるとすれば、副作用の程度の差で、だからこそ抗がん剤治療では病状を管理することが大切になるのです。抗がん剤による治療は効果と副作用のバランスをとりながら進めていきます。

通常、抗がん剤治療を開始する前に、医師は患者さんに抗がん剤について詳しい説明を行います。その時、わからない点や不安に思うことがあればどんなことでも尋ねてください。その場では分かっても、後で疑問が出てきたら、問い合わせてください。患者さん自身が受ける抗がん剤治療について十分に理解し、納得することがとても大切です。

残念ながら、患者さんの中には自分が服用している薬の名前を知らないという例が少なくありません。「緑の薬」とか「青い薬」としか認識していない患者さんは自分の病気や治療に無関心で、抗がん剤の効果や副作用についてあまり理解していないようです。

患者さんの命を守ってくれる抗がん剤に対してもう少し理解する努力をしていただけたらと思います。治療に対する理解を深めることで副作用についての心構えができれば、副作用の症状が現れたときもうろたえることなく、医師に相談できます。副作用をコントロールすることが、抗がん剤による治療の効果を高めます。

抗がん剤の本当の良さを知る

 がん患者さんにとって再発の診断を下されることはとてもつらいことです。再発や転移したがんの治療でも根治を目指すこともありますが、ほとんどの場合は困難です。しかし、あきらめなければ、治療によって延命や、生活の質を保つことは十分に可能です。

未知の治療を受ける恐怖感、副作用に対する不安を感じるのは当然です。それを怖がるのではなく、よく理解して上手に管理していくことで乗り越えることができます。患者さんが安心して抗がん剤治療を受けられるように心のケアも重要です。私たち医師は薬剤師、看護師をはじめさまざまなメディカルスタッフと協力しながら一人ひとりの患者さんを支えています。いうまでもなく一番重要なことは、患者さん自身がしっかりと病気と向き合って治療を進めていくことです。

病状を上手に管理しながら抗がん剤の良さを知っていただきたいと思います。どんな治療も1回やってみて副作用が強いのでやめたということでは効果を実感することはできません。抗がん剤のメリットを味わっていただくためには少なくとも1カ月、2カ月、3カ月と使ってみないと、本当のよさはわからないでしょう。

繰り返しになりますが、抗がん剤治療では強い副作用が現れる可能性があることを理解し、医師、薬剤師、看護師のサポートを受けながら安心して治療を受けていただくことで生活の質は保てると信じています。つらい時にはためらうことなく相談してください。

ポイントまとめ

  • 抗がん剤治療は、術で切除する範囲を狭める目的で手術前にがんを縮小させ、手術後に用いることで再発率を低下させる目的で行われる
  • 再発・転移がんの治療における抗がん剤治療は、がんの進行を抑え、がんによる症状を和らげるために使用され、重要な役割を果たしている
  • 抗がん剤治療の副作用の症状には、吐き気、嘔吐、口内炎、手足のしびれや痛み、抑うつ状態、不快感、疲労感、脱毛、骨髄抑制(血球や血小板などをつくる働きが低下)などがある。副作用は抗がん剤の種類や用量によっても異なる
  • 抗がん剤治療の副作用をなくすことはできないが、ある程度の管理は可能。副作用とバランスをとりながら治療を進める。副作用をコントロールすることで、抗がん剤治療の効果も高まる
  • 抗がん剤治療では強い副作用の可能性も理解し、医師、薬剤師、看護師のサポートのもと安心して治療を受けることで生活の質は保てるはずである。つらい時には相談することも大切

取材にご協力いただいたドクター

がん研究会・総合腫瘍科部長 高橋俊二先生

高橋 俊二 先生

がん研究会・総合腫瘍科部長

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