【医療情勢】がんとジェネリック医薬品~抗がん剤治療の経済的負担は軽減できる?~

公開日:2013年02月01日

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ジェネリックの価格は先発品の5割~7割

「ジェネリック医薬品」(後発医薬品)という言葉は、すでにご存じの方も多いのではないでしょうか。製品化から20~25年間が経って特許期間が切れた医薬品を、別の製薬メーカーが製造・販売する薬のことを言います。ジェネリック医薬品(以下、ジェネリック)は、新薬(先発品)の5割~7割の価格で流通しています。一から新薬を開発する場合は10~15年の歳月と、数100億円以上もの開発コストがかかりますが、ジェネリックはそれを低く抑えられるため、低価格で販売されているのです。効き目や成分は先発品と同等であると厚生労働省が認めています。

鎮痛剤や胃腸薬など一般的な病気の治療薬だけでなく、最近では抗がん剤にもジェネリックが登場してきました。例えば、肺がんや、子宮頸がん、卵巣がんなどに使われる「カルボプラチン」、乳がんに使われる「パクリタキセル」などです。

具体的にどのくらい薬代が安くなるかは、薬の使用量や投与期間などによって様々ですが、日本ジェネリック製薬協会のウェブサイト(http://www.jga.gr.jp/general/index.html)で検索することができます。
患者さんに重くのりかかるがんの治療費を少しでも軽減する選択肢として、期待されています。

日本でもジェネリックのシェア拡大の兆し

日本ジェネリック製薬協会の調べによると、海外ではすでにかなりの割合でジェネリックが使用されており、アメリカ72%、カナダ66%、イギリス65%、ドイツ63%などとなっています(2009年時点)。日本の医薬品に占めるジェネリックの割合は20.3%ですが、年々増加しており、厚生労働省は今後も引き上げる方針を打ち出しています。

また最近では、各製薬メーカーもジェネリックの安全性や効能、安定供給を高めるよう工夫を凝らしています。かつては、「先発品と主成分は同じだけれど、添加物が違う」「製造数が少ないジェネリックは安定供給が難しい」といったケースも見られましたが、より先発品と遜色のないように開発や流通の改善を進めています。
加えて、医師や薬剤師にジェネリックの安全情報などを伝えるMR(医薬情報担当者、製薬メーカーの営業担当)の育成・増員を急いでいます。抗がん剤など特殊な医薬品を担当するMRには、がんに関する専門的な知識も身につけている人材が増えていると言われます。がんの患者さんにとって、ジェネリックを使用しやすい環境が着実に整いつつあるのです。
(日本ジェネリック製薬協会HPより)

処方箋の「後発品へ変更不可」の欄に注目

現在のところ、抗がん剤のジェネリック医薬品を選択できるのは、主に外来化学療法を受ける場合です。薬局で薬を調剤してもらう際、薬剤師に「ジェネリック医薬品にできますか?」と相談すると、医学・薬学的な問題がない限り、変更してもらえることになっています。他の医薬品に比べて価格の高い抗がん剤をジェネリックにできれば、患者さんの経済的負担の軽減につながることでしょう。

ただ、処方箋の「後発品へ変更不可」の欄に医師の署名と捺印がある場合は、その限りではありません。医師が医学的な判断で先発品を使用することを指定しているため、変更できない制度になっています。医師は、患者さんの体の状態や、他の薬との飲み合わせ、化学療法以外の治療との組み合わせなど様々な観点から総合的に判断して、ジェネリック医薬品の可否を決めています。もしくは、分子標的治療薬など新しいタイプの抗がん剤は、まだ新薬の特許が切れていないためジェネリックが存在せず、切り替えようがないケースもあります。
ジェネリックを希望する患者さんは、まず主治医によく相談してみるといいでしょう。

外来と入院ではジェネリックを取り巻く環境が異なる

一方、入院治療の場合は、外来と違ってジェネリックを希望しても使えなかったり、使用できたとしても患者さんの負担軽減に直結しなかったりするケースが少なくありません。これは、病院の会計上の仕組みによるものです。
がん専門病院や地域の基幹病院など大きな病院の多くは、「DPC」(診断群分類別包括制度)を導入しています。DPCとは、保険機関から病院に支払われる診療報酬(病院の収入)が、疾患ごとに固定されている制度のことです。同じ病名のがん治療であれば、どんな治療法を採用しても病院の収入は原則として同じになっています。

つまり、病院側にとっては、薬剤費など治療にかかる費用を低く抑えるほど、利益が上がります。逆に患者さんの立場で見れば、ジェネリックを使っても使わなくても治療費の負担は変わらない仕組みになっているのです。
実際には、利益率を高める目的で抗がん剤のジェネリックを導入している病院もありますし、逆に、医師の方針でジェネリックを採用しない病院もあります。どちらにしても、患者さんの希望で選択できることが望まれますが、現状では難しいと言わざるを得ません。病院にとっては、先発品とジェネリックの両方を用意することは、同じ用途の薬を2種類そろえることであり、コストが高くなってしまいます。また、医師や看護師、薬剤師の業務も煩雑になるという事情もあるからです。
ジェネリックの使用を検討する際は、外来と入院は別であることを意識することが大切と言えるでしょう。

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