【最新医療】大腸がん治療の発展 分子標的薬の現在

公開日:2012年05月01日

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分子標的薬セツキシマブ

セツキシマブ (Cetuximab)と呼ばれるお薬は近年注目されている癌の増殖などに関係する特定の分子だけを狙い撃ちする分子標的治療薬のひとつです。セツキシマブは、上皮成長因子受容体 (EGFR)と呼ばれる細胞の増殖や成長を制御する因子を認識してシグナル伝達※1を行う受容体に結合します。その結合により上皮成長因子受容体 (EGFR)のシグナル伝達が抑制され、正常組織への腫瘍細胞の増殖や浸潤と新しい箇所への転移を抑えることが可能となります。また製薬会社のプレスリリースによりますと、化学療法や放射線療法によって引き起こされた損傷を修復する腫瘍細胞の活性を抑制し、腫瘍内での血管新生を抑制するとも考えられており、それによって腫瘍の成長を全体的に抑える働きもあると報告されています。

※1 シグナル伝達:生命は周りの環境に適応して生存していくために、個々の細胞が他の細胞と情報の伝達を行っています。このような情報伝達のことをシグナル伝達といいます。

ASCO2011で発表された報告の主著者であるドイツ、オルデンブルク病院(Klinikum Oldenburg)のクラウス・ヘニング・ケーネ教授(Professor Claus Henning Köhne)は次のように述べています。「進行がんの多くの患者さんに治療がもたらす最も重要なベネフィットとは、より長く生きること、さらには治癒することです。そのため、今回のCRYSTAL試験による新たな知見は、アービタックス併用化学療法は肝限局転移症例と、肝限局以外の転移症例のどちらにとっても重要で、両方の患者群に有効であることを明確に示唆しました」

参照(Merck Serono プレスリリース)
http://www.merckserono.co.jp/cmg.merckserono_jp/ja/images/20110609_release_tcm114_75694.pdf

大腸がん治療ガイドラインも改訂されています。

日本の学術集会においてもセツキシマブの臨床における効果について検証がされています。 大腸がんの治療は、治癒切除後の補助療法、切除不能大腸癌に対する一次治療や二次治療においては治療選択が増えています。基本的には、大規模な臨床試験の結果を参考にした標準治療をベースにした治療選択がなされていきますが、臨床試験での評価項目は生存期間の延長に主眼が起これることがほとんどです。しかし、実際の治療選択では、患者さんのニーズは生存期間だけではなく、生活水準を保った(副作用の種類や頻度などが少ない)形での延命や、個人の考え方も考慮した上で選択されることが望ましいと考えられます。2010年に改訂した大腸癌治療ガイドラインでは、多様化する治療選択にともなって、内視鏡治療、手術治療、化学療法、放射線療法、緩和医療などについての治療方針、適応基準、推奨される治療や見解などが包括的に盛り込まれるようになりました。また、全国規模の集計データを基にして手術後の生存率や再発率、転移の頻度なども掲載されています。分子標的治療薬を含む化学療法の分野では、近年に欧米とのドラッグラグが解消されつつあります。今回のガイドラインからはベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブなどが一次治療として掲載されて、NCCNガイドライン※2と同様の治療方法が推奨されています。

※2 NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncologyとは、全米を代表とする 21 のがんセンターで結成されたガイドライン策定組織 NCCN(National Comprehensive Cancer Network)が作成した世界的に広く利用されているがん診療におけるガイドラインのことです。

今後の承認に期待 分子標的治療薬 レゴラフェニブ

レゴラフェニブは、血管新生に関与するVEGFR1-3やTIE-2、またPDGFR-βやFGFR、KIT やRETなどの受容体チロシンキナーゼを阻害します。複数のキナーゼを阻害するためにマルチキナーゼ阻害薬と呼ばれています。

バイエルヘルスケア社は、2012年米国臨床腫瘍学会の消化器癌シンポジウム(ASCO-GI)において、最新演題として新規化合物レゴラフェニブに関する第III相CORRECT(Colorectal cancer treated with regorafenib or placebo after failure of standard therapy)試験のポジティブデータを公表しました。この試験は、すでに承認を受けている標準の治療薬における投与が終わったあとに、薬による効果が低下し、病勢が増してきた転移性大腸がんの患者さんを対象にしたものです。レゴラフェニブ投与とQOLの維持・向上を目的とした支援療法(ベストサポーティブケア)の併用と、プラセボ薬投与とQOLの維持・向上を目的とした支援療法(ベストサポーティブケア)が比較評価されました。その結果、主要評価項目である全生存期間(OS)※3に関して、29%の有意な延長が得られました。

本試験の治験調整医師であるルーベン大学病院(ベルギー)のエリック・ヴァン・カッツェム教授は、以下のように述べています。「これらのデータは、レゴラフェニブが進行がんの病勢を安定し、他に治療選択肢のない転移性大腸癌患者さんへの延命効果を実証するものであり、注目に値します。レゴラフェニブは、進行した難治性大腸癌患者さんを対象に、臨床転帰を単剤療法で改善することが大規模第III相試験において確認された、唯一の経口マルチキナーゼ阻害剤です。今回得られたデータは、レゴラフェニブが難治性転移性大腸癌の治療における新しい標準療法となる可能性を示唆しています。」

※3 全生存率とは参加者や治療を受けた集団のうち、診断または治療から一定の期間が経過した後に生存している人の割合のこと。

バイエル薬品株式会社のプレスリリース
http://byl.bayer.co.jp//scripts/pages/jp/press_release/press_detail.php?file_path=2012%2Fnews2012-01-24.html

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