身体の痛み、治療の副作用、心のつらさ…… がん患者さんの悩みを漢方がサポート[Part-2]

公開日:2020年10月30日
久留米大学医療センター 先進漢方治療センター
惠紙 英昭(えがみ ひであき)先生

Part-1では、漢方薬の役割とがん患者さんが使用するメリットをお伝えしました。Part-2では実際に医療の現場ではどのように漢方薬が使われているのか、どのような効果があるのかなどについて、症状ごとに詳しくご紹介します。Part-1に引き続き、久留米大学医療センター・先進漢方治療センターの惠紙英昭(えがみ ひであき)先生にお話を伺いました。

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目次

漢方医学はがん患者さんの多面的な苦痛に有用

がん患者さんにとって漢方はどのように役立つのでしょうか。私は漢方医学の「心身一如」の考え方は、がん患者さんに適していると考えています。

がん患者さんが抱える苦痛は「全人的苦痛(トータルペイン)」と呼ばれ、「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアルな苦痛」の多面的な四つの苦痛に分けられます。これらが重なり互いに影響し合い、患者さんを苦しめているのです。

全人的苦痛(total pain)

【ブルーリボンキャラバン もっと知ってほしい大腸がんのこと2020in久留米】
講演4「がんと漢方薬について」より
http://www.cancerchannel.jp/post37703

これに対して漢方医学は、患者さんの心身の症状や状態を多角的に診て、その方に合った治療を組み立てる、いわば全人的医療です。総合的な医療を提供する漢方薬は、さまざまな苦痛を抱えるがん患者さんに効果が期待できると考えます。

がん患者さんにみられる心身の苦痛を、症状別にご紹介します。

抑うつ・不安・吐き気

抑うつ・不安・吐き気

がん患者さんがとても不安げに「食事が食べられなくなると死ぬんじゃないですか」と尋ねてくることがあります。がんによって落ち込んだり身体に影響が出たりして食欲が低下しているところに、抗がん剤などによる吐き気や嘔吐が加わってさらに食事がしづらくなることがあるのです。

こうした場合は、消化器官の症状や抑うつ・不安を軽減する効果がある生薬を組み合わせた「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」などを用います。

例えば子宮がんの場合、疾患そのものや治療の副作用により、胃のつかえ感やお腹の張りなどが原因で、食欲不振や不眠、便秘などの症状が出ることがあります。そのような場合に、半夏厚朴湯を処方することで症状の緩和が期待できます。

また、消化器の症状が強い場合に用いる「茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)」なども段階的に処方することで、症状の原因となっているお腹の張りなどの緩和にもつながります。

全身倦怠感

全身倦怠感

がん患者さんの全身倦怠感は、よく「言葉で表現できないほどのつらさ」といわれます。がんに伴う症状や治療が原因で、体がだるく何もする気が起こらなかったり集中力が低下したりするといった症状がみられます。

これらの症状に対し漢方薬は、消化管の消化・吸収する働きや血流を改善する、心身の疲労感を和らげてだるさを軽減する効果が期待できます。

例えば膀胱がんの場合、術後の食欲の低下から、全身の倦怠感などの症状が出ることがあります。そのような場合には、体力増強や食欲改善が期待できる「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方を処方することで、症状の緩和が期待できます。

また、がん患者さんは血のめぐりが悪い状態である「瘀血(おけつ)」を引き起こしやすく、唇や舌が紫色っぽくなる、夜間に悪化する局所的な鈍い痛みが出る、皮下出血を起こしやすくなるなどの症状が現れます。これに対しては「駆瘀血剤(くおけつざい)」という漢方薬により、症状の緩和が期待できます。

においや飲み込みが困難な方にも。
飲みやすく工夫して服用時の負担を軽減

においや飲み込みが困難な方にも。飲みやすく工夫して服用時の負担を軽減

漢方薬はインスタントコーヒーのようにお湯に溶かしたり、細かい粒状の薬をそのまま飲んだりして服用します。治療の副作用でにおいに敏感になることがありますが、その場合は凍らせたり、ふりかけ状にしたりするなど、患者さんが飲みやすいように工夫をして処方することもあります。

また、がん患者さんの中には、嘔吐や吐き気などで薬を飲むことが困難なケースがあります。そのような場合には、例えば漢方薬を水に溶かして製氷皿で凍らせるなど、患者さんがより飲みやすい方法を工夫して処方することで、服用する患者さんの負担を軽減することができます。

心と身体の声に耳を傾け、がんと闘う力を養いましょう

最後に、がんと闘う自然治癒力を高めるために患者さん自身ができることについて、一精神科医の立場からお伝えします。

まず、自分の心身としっかり対話することです。身体的な痛みや心のつらさといった反応に耳を傾け、体が何か異常を発していたら「何をすればよいだろう」と自分に問いかけてみてほしいです。

そして、自分の好きなこと・楽しいと思うことにたくさん取り組み、不快だと感じることは避けましょう。恐れや不安から解放されることがとても大事だと思います。

私が最近行っているのは、お酒を飲んだ後、自分の肝臓に「ありがとう」と言うこと。飲酒は肝臓に負担がかかりますからね。自分の体だけでなく食べ物、モノ、趣味のお酒――あらゆるものに感謝しながら過ごしています。

皆さんも、心身を保つために些細なことで構いませんので日常生活でできることを心がけ、がんと闘う力を養っていただければと思います。

また、漢方については、治療を受ける立場からすると、費用負担が気になる方もいらっしゃると思います。漢方薬は、現在約150種類が保険適用されており、例えば胃炎や消化不良、食欲不振などでよく用いられる「六君子湯(りっくんしとう)」は、14日分が3割負担で600円程度です。

経済的な負担も少ない漢方薬ですので、ぜひ上手に取り入れていただければと思います。

ポイントまとめ

  • がん患者さんが抱える全人的な苦痛には、全人的な治療を行う漢方薬が役立つ
  • においが苦手だったり吐き気で服用が困難な場合は、漢方薬を凍らせたり、ふりかけ状にしたりするなど、飲みやすく工夫して処方する
  • がんと闘う自然治癒力を高めるために、自分の心身としっかり対話してほしい
【当記事の参考】
ブルーリボンキャラバン もっと知ってほしい大腸がんのこと2020in久留米
http://www.cancerchannel.jp/post37703
国立がん研究センターがん情報サービス がんの療養と緩和ケア
https://ganjoho.jp/public/support/relaxation/palliative_care.html
国立がん研究センターがん情報サービス だるさ・倦怠感
https://ganjoho.jp/public/support/condition/fatigue.html

取材にご協力いただいたドクター

惠紙 英昭先生

惠紙 英昭 (えがみ ひであき) 先生

久留米大学医療センター 先進漢方治療センター

精神保健指定医 /日本東洋医学会専門医 /日本精神神経学会専門医 /日本総合病院精神医学会専門医 /日本臨床精神神経薬理学会専門医

専門分野:漢方、臨床精神薬理、思春期精神障害、緩和ケアにおけるメンタルヘルスケアなど

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