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がん患者さんの悩みを漢方がサポート[Part-1]
身体の痛み、治療の副作用、心のつらさ…
がん患者さんの悩みを漢方がサポート[Part-1]

惠紙 英昭(えがみ ひであき)先生
がんの闘病生活で、心身のつらい症状や抗がん剤・手術の副作用などに悩まされている患者さんも少なくないのではないでしょうか。そうした心と体の苦痛を、漢方薬が和らげてくれるかもしれません。漢方医学と西洋医学の長所を組み合わせた先進的な治療を行う、久留米大学医療センターの先進漢方治療センターの惠紙英昭(えがみ ひであき)先生に、漢方薬の役割やがん患者さんが漢方薬を使うメリットについて解説していただきました。
目次
症状からアプローチする漢方医学
検査で「異常なし」の症状にも対応

漢方医学は、中国医学を基に日本の風土に合わせてアレンジした日本固有の伝統医学で、「漢」は中国、「方」は治療法を意味します。「心身一如(人間の心と体は強く影響し合っている)」の考えの下、患者さんの心身のバランスを取り、自然治癒力の向上を目指すのが特徴です。
漢方医学で使われる「漢方薬」は、自然界の動植物などを使った「生薬」を二種類以上組み合わせた薬です。生薬にはそれぞれの役割(薬理作用)があり、組み合わせることで重症の場合や急性期の疾患を除き多くの症状に対応できます。
また、頭痛やだるさなどの症状はあるものの、検査で「異常なし」とされてしまう「未病(健康と病気の間の状態)」に対しても漢方薬を用いることがあります。
例えば、朝起きるのがとても苦手で、立ちくらみやめまいなどを起こす症状には「苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)※1」という漢方薬を処方します。
この漢方薬は血行を良くする、不安を軽減するなどの効能がある四つの生薬を組み合わせた薬で、ノイローゼやめまい、動悸・息切れ・頭痛といった症状の緩和が期待されます。
このように漢方薬というのは、多種の生薬のチームなのです。医療の現場でさまざまな職種がチームを組んで対応するように、漢方薬も役割の異なる生薬を組み合わせることで、未病も含めたさまざまな症状に対応することができます。
※1 苓桂朮甘湯の効果効能
KEGG DRUGデータベース参照
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00053351
漢方薬で免疫力向上や治療の副作用軽減、抗がん作用のある生薬も

西洋医学では「胃がん」「肺炎」といった病気に対して標準化された治療を行いますが、漢方医学をはじめとする東洋医学では「だるい」「吐き気がある」など身体が発するサイン(症状)を診て、患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドの治療を検討します。
体力の違いや体質の違いなどで薬の効き具合は変わるため、漢方では「気」(元気、スタミナ、エネルギー)、「血」(肉体や血液のめぐりの状況)、「水」(血液以外の体液成分の偏在)などの状況を見ていきます。この三つが体をめぐり、バランスをとっているという考え方があるからです。

具体的には髪・舌・皮膚・爪などの色や状態、尿の量や色、脈の強さや速さなど患者さんの身体全体を多角的にとらえた上で症状を十分に聴取し、それを西洋医学的に診断・把握して、病態に応じて生薬の役割を生かす最適な組み合わせを患者さんごとに行います。
がん患者さんについても、こうした考えの下で診るわけですが、がん患者さんはがんの症状があり、化学療法や手術、鎮痛剤などを使った西洋医学的な治療を行っていく中で、精神的にも身体的にもバランスを崩しやすくなっています。
それらのダメージによって免疫力が落ちることもあるので、安心感を与えるためにゆっくりと話を聴きながら病態に応じた漢方治療を同時に進め、心身のバランスを取っていきます。
漢方薬はがん患者さんに対し次のような役割を果たします。
- 心身の体力を向上させる
- 免疫力を上げる
- 副作用を軽減する
- 治療効果を増強する
このほか、保険適用外ではありますが、抗がん作用があると考えられている生薬もあります。漢方医学では「清熱解毒薬」と呼び、炎症を抑える効果や抗菌・抗ウイルス作用などを持っています。

西洋医学と東洋医学の組み合わせで、QOL(生活の質)向上に期待
私は西洋医学か東洋医学のどちらかを選ぶのではなく、それぞれの長所を融合して、互いに補完し合う形で、一体的に治療を進めるのが良いと考え実践しています。
所属先の久留米大学医療センター・先進漢方治療センターでは、他科で西洋医学的な診断を行った患者さんに対し、東洋医学的な診断を加えて漢方薬を処方しています。
例えば、がんの再発をきっかけに、精神的に不安定となり、イライラしてパートナーに当たってしまう、むずむず脚症候群(夜になると足がむずむずしたりじっとしていると不快感を覚えたりする病気)であまり寝られないという症状に悩まされるなど、精神的な不安が日常生活に影響を及ぼす場合もあります。
そのような場合は、まずは話をじっくり聞き、患者さんが抱えている不安やご家族に対して思っていることなどを伺った上で、最適な漢方薬を処方します。
先の例では、興奮によるイライラ感や不安感などの症状を和らげる、抑肝散(よくかんさん)という漢方薬を処方するといった具合です。抑肝散はむずむず脚症候群にも用いられるため、不安感などの精神的な症状に加え、足の不快感も緩和し、症状を落ち着けることができます。
がん治療のように、がんそのものや治療による副作用などで、日常生活にも大きく影響を与えるケースでは、治療を継続していくためにも患者さんのQOL(生活の質)をいかに維持できるかが重要になります。
疾患そのものを治療する西洋医学と、疾患や治療に伴う症状を緩和する東洋医学を組み合わせることで、患者さんの心身のバランスを保ち、前向きに治療に取り組めるようになるなど、QOL(生活の質)の向上・維持が大きく期待できると考えています。

ポイントまとめ
- 漢方医学では患者さんの症状に焦点を当て、心身のバランスを取り自然治癒力の向上を目指す
- 西洋医学では病気に対して標準的な治療を行うが、東洋医学(漢方医学)では症状に焦点を当て、一人ひとりに合った漢方薬を処方する
- 東洋医学と西洋医学を組み合わせることで、がん患者さんの治療やQOLの向上に貢献できる
- 【当記事の参考】
- ブルーリボンキャラバン もっと知ってほしい大腸がんのこと2020in久留米
https://www.cancerchannel.jp/post37703 - 国立がん研究センターがん情報サービス がんの療養と緩和ケア
https://ganjoho.jp/public/support/relaxation/palliative_care.html
取材にご協力いただいたドクター

惠紙 英昭 (えがみ ひであき) 先生
久留米大学医療センター 先進漢方治療センター
精神保健指定医 /日本東洋医学会専門医 /日本精神神経学会専門医 /日本総合病院精神医学会専門医 /日本臨床精神神経薬理学会専門医
専門分野:漢方、臨床精神薬理、思春期精神障害、緩和ケアにおけるメンタルヘルスケアなど
カテゴリー再発転移のがん治療を知る, その他治療
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