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【最新医療】ウイルス療法の実用化に向け臨床試験・研究が進行中
目次
ウイルスの増殖する特性を逆手に取ったがん治療の臨床試験や臨床研究が進行しています。がん細胞だけで増殖するように作り変えたウイルス製剤を使ってがんを死滅させる新しい治療法です。ウイルスががん細胞内に侵入するためには、ウイルス表面のタンパクががん細胞の受容体に結合することが必要です。
そこで、ウイルスが正常細胞の受容体には結合せずに、がん細胞に多く発現する分子だけに結合できるよう遺伝子操作を施すことによって、がん細胞に選択的に感染できるようにしたのが選択的腫瘍溶解性ウイルスです。
膠芽腫に対する単純ヘルペスウイルスⅠ型療法 東京大学
東京大学医科学研究所脳腫瘍外科(藤堂具紀教授)では、膠芽腫患者を対象とした増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスⅠ型の第II相臨床試験が進行中です。これは、治療法の有効性と安全性を確認することを目的として行われている医師主導治験で、治験薬として使われているのはG47Δという遺伝子組換え型単純ヘルペスウイルスです。
膠芽腫の患者さんで、手術と放射線治療、さらに抗がん剤のテモゾロミドによる治療をすでに受け、腫瘍が再発もしくは増大してきている場合が対象です。膠芽腫は脳腫瘍の一種で、がんの脳転移を除く脳腫瘍の約4分の1を占めます。いまのところ手術や放射線治療、化学療法などを組み合わせた総合的な治療が行われていますが、進行を食い止めることが困難な病気です。
治療は、定位脳手術を行い、G47Δをがん病巣に投与し、ウイルスを感染させます。G47Δががん細胞に感染すると細胞内で増殖し、がん細胞を破壊します。これを繰り返して腫瘍を縮小させていきます。ほかにもG47Δを用いたウイルス療法の臨床研究として、ホルモン療法の効果が見られない前立腺がん、嗅神経芽細胞腫の再発を対象にした臨床研究が行われています。
乳がんに対する麻疹ウイルス療法 東京大学
東京大学医科学研究所附属実験動物研究施設の甲斐知恵子教授らのグループは、麻疹ウイルスの一種が乳がん細胞の表面にあるネクチン4というたんぱく質に結合して感染し、がん細胞を殺傷することを突き止めています。
そこで、乳がん細胞で特異的に感染・増殖する遺伝子組換え麻疹ウイルス(rMV-SLAMblind)を作製し、乳がん細胞移植マウスに投与したところ、がんに対する抑制効果が認められました。健康なサルやイヌにrMV-SLAMblindを投与しても副作用は見られず、がん以外の細胞に感染する可能性は低いとしています。同グループは、乳がんを対象とした臨床研究へと準備を進めています。
骨肉腫に対するアデノウイルス療法 鹿児島大学
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科(小戝健一郎教授)の研究グループは、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスを操作して、腫瘍化原因細胞(未分化細胞)の中だけで増殖させ、がんを死滅させる高度なウイルス(m-CRA)を開発しました。
さらに、ほとんどのがん細胞で大量に発生するサバイビン遺伝子に着目し、がん細胞だけでm-CRAがサバイビン遺伝子に反応し増殖するようにしました(サバイビン依存性m-CRA)。サバイビン遺伝子は正常な細胞ではほとんど発現しません。
マウス実験でサバイビン依存性m-CRAは正常な細胞を傷つけずにがん細胞だけを攻撃する効果があり、安全性が高いことを確認しました。同グループはサバイビン依存性m-CRAは全身に転移したがんに対しても使用可能としています。また、抗がん剤が効きにくいがん幹細胞に対しても強い効果が期待できるといいます。
同グループでは、骨肉腫などの患者さんを対象にサバイビン依存性m-CRAの安全性と効果を確かめる目的で医師主導治験を今年度内に開始し、がん治療薬の実用化への足掛かりにしたいとしています。
食道がんに対するアデノウイルス療法 岡山大学
がん細胞にはテロメラーゼという酵素が大量に存在しています。テロメラーゼにはがん細胞を生き長らえさせる作用があり、多くのがんではテロメラーゼの活性が高まっていることが知られています。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野(藤原俊義教授)の研究グループは、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスを使ってがん細胞で特異的に増殖し、がん細胞を破壊することができるウイルス製剤のテロメライシンを開発しました。テロメライシンは正常な細胞の中では増殖能力が極めて低く、臨床的な安全性を保つことが期待されています。
同グループはさらに、テロメライシンには放射線が効きやすくなる効果があることも明らかにしています。すでに食道がんに対してテロメライシンの内視鏡的腫瘍内投与と放射線治療を併用する臨床研究を行い、有効性と安全性について報告しています。今後、医師主導治験を経て、順調に進めば、テロメライシンは手術や標準的な抗がん剤治療が困難な高齢の食道がん患者さんなどに対して低侵襲で安全な治療になると、同グループは期待しています。
テロメライシンの作用機序(岡山大学プレスリリースより)
肺がん、膵臓がんに対するワクシニアウイルス療法 鳥取大学
ウイルス療法の多くでヘルペスウイルスやアデノウイルスが使用される一方、鳥取大学大学院医学系研究科生体高次機能学部門の中村貴史准教授らのグループは、ワクシニアウイルスを使って肺がんや膵臓がんを治療する技術を開発しました。ワクシニアウイルスは、天然痘を予防するための痘瘡ワクチン用に作製されたもので、約10万人の日本人に投与されており、安全性の高い弱毒ワクチン株として知られています。同グループはワクシニアウイルスががん細胞に感染したときにだけ増殖し、正常な細胞では増殖できないように遺伝子を組み替えました。
がんは増殖する際に栄養を取り込むため、周囲に新たな血管を作ります。その特性を利用して、ワクシニアウイルスを血管に注射して全身のがん細胞に感染させます。ウイルス感染をきっかけに、免疫ががん細胞を攻撃する効果も期待できるといいます。
ワクシニアウイルスの大きな特徴は「すばやさ」です。通常、異物が生体に入ると免疫が働き、それを排除しようとしますが、ワクシニアウイルスは免疫機構を逃れて血中を移動でき、かつ感染した細胞内でのウイルスの増殖速度が速いといわれています。同グループが開発した腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、免疫機構で排除されるよりも先に転移したがんに到達し、がん細胞を破壊することが可能です。
同グループは今後、動物実験で抗癌効果や安全性を確認して臨床研究につなげていく考えです。
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タグ2015年12月
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