【最新医療】がん転移を抑える働き、相次いで発見(九州大学、名古屋市立大学)

公開日:2015年03月02日

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 がんの転移・再発の解明に向けてさまざまな研究が行われています。近年、がんの転移に関与する遺伝子やたんぱく質の発見が相次いで報告されています。今年に入って、九州大学と名古屋市立大学から興味深い研究成果が発表されました。

既存薬ががん転移を抑制

 がん細胞を取り囲んでがん細胞の増殖や転移に積極的に手を貸す細胞群――「がんニッチ」は、血液由来の線維芽細胞や単球細胞から構成されています。がん治療では、がん細胞だけでなく、同時にがんニッチも叩く必要がありますが、がんニッチがどのようなしくみで形成されるかはこれまで十分にわかっていませんでした。

また、抗がん剤の多くは、がん細胞に働きかけて細胞の増殖を抑制しますが、がんニッチに対して作用する抗がん剤はほとんど開発されていないのが現状です。

九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授らの研究グループは、マウスを使ってがんニッチを制御するタンパク質を突き止め、その研究結果を報告しました。同グループは、細胞の増殖を抑制する働きがあることが知られているたんぱく質、Fbxw7に着目して、がんニッチとFbxw7の関係を検討しました。

まず、乳がん患者の血液細胞を採取して分析した結果、個々の患者の体質によってFbxw7の発現量に差がみられ、発現量が少ない患者はがんが再発しやすいことがわかりました。この結果は、血液細胞中のFbxw7の発現量を測定することでがん患者の予後を予測することが可能であることを示唆しています。

次に、Fbxw7を人工的に欠損させたマウスにがん細胞を移植したところ、がん転移が起こりやすいことがわかりました。がんが転移した細胞を調べると、がんニッチがその周囲を取り囲んでいる様子が観察されました。がんニッチには骨髄細胞、特に単球細胞が多く集まって、がん細胞の増殖に加勢していることがわかりました。

さらに、Fbxw7欠損マウスでは、単球細胞を呼び集めるたんぱく質、CCL2の発現量が増加していることを突き止めました。同グループは、CCL2を封じ込めればがんニッチの働きを抑えることができると考えました。

そこで、CCL2がB型肝炎ウイルスによって炎症が起こるメカニズムにも関係していることに着目し、CCL2阻害薬のプロパゲルマニウムをFbxw7欠損マウスに投与して転移先のがん細胞の変化を観察しました。その結果、単球細胞の集積はみられなくなり、がん細胞の増殖が抑えられました。プロパゲルマニウムは、現在B型慢性肝炎の治療に使われており、同グループは「今後は、がんの転移抑制効果について既存薬で臨床試験を進めたい」としています。

プロパゲルマニウムにはウイルス感染防御作用、免疫賦活作用などの働きがあります。その作用機序は、IL-1、IL-2、IFN-γの産生増強などにより細胞障害性T細胞、NK細胞を賦活化し、ウイルス感染細胞を破壊します。また、抗体産生能増強によりウイルス関連抗原の排除を促し、さらにIFN-α、IFN-β産生の増強により、ウイルスの増殖を抑制します。

今回の研究成果は、1月2日付の米科学誌「Journal of Clinical Investigation」に掲載されました。

がん細胞の浸潤・転移を抑える遺伝子

 名古屋市立大学大学院薬学研究科の今川正良教授(分子生物薬学)らの研究グループは、以前から脂肪細胞の研究を行っており、その過程でいくつかの新たな遺伝子を発見してきました。そのうち、細胞の分化に関わる遺伝子の1つであるfad104が脂肪細胞や骨の分化、肺の形成などに関係する多様な機能をもっていることを明らかにしています。

同グループは、fad104が細胞の移動・接着に重要な役割を果たすことに注目し、がん細胞の浸潤や転移にもfad104が関わっているのではないかと考えました。そこで、ヒトメラノーマ(悪性黒色腫)細胞を用いて、fad104ががん細胞に及ぼす影響について検討しました。
<br/ > まず、転移性の弱いがん細胞と強いがん細胞で浸潤の程度を比較しました。その結果、転移性の弱いがん細胞はfad104の働きを抑えると浸潤しやすくなりましたが、転移性の強いがん細胞はfad104の働きを強めると浸潤しにくくなりました。

次に、転移性の強いがん細胞をマウスの静脈に注射したところ、15日後、肺に多数のがん細胞の転移が認められました。しかし、fad104の働きを強めてからこのがん細胞をマウスに注入すると、がん細胞の転移は激減しました。これらの結果から、fad104はがん細胞の浸潤、転移を抑制することが明らかになりました。

同グループは「今回の成果により、がん細胞の浸潤、転移の分子機構の理解がさらに進むとともに、新たながん治療薬の創薬につながることが期待される」としています。研究論文は、2月11日付の米国学術誌「PLOS ONE」(電子版)に掲載されました。

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