【医療情勢 】がん治療に関する誇大広告の現状と医師との協働の重要性

公開日:2014年03月31日

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健康食品事件の裏に潜む典型的な騙しのテクニック

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 今年の2月、自社製品を「がんに効く」「がん細胞が死滅する」として販売していた健康食品会社社長が薬事法違反の容疑で逮捕される事件が起きました。同商品は雑誌やインターネットなどでも宣伝され、のべ7万人に販売されて、約29億円を売り上げていたとされます。こうした、がんへの効果をうたった健康食品販売による被害事件には、いくつかの典型的な騙しのパターンがあります。

■権威の利用
 上記の事件では、パンフレットや医療機関などに置かれる媒体での商品紹介に際し、医学博士による効能紹介の文章を掲載するなど「権威の利用」が行われています。一般に、人は権威の前では思考停止し、提示された内容を鵜呑みにする傾向があります。雑誌やインターネットで医学博士が「○○(商品名)を推薦します」とあれば、読者の見る目も変わるでしょう。
ただし、医学博士であっても臨床経験がないケースも珍しくありません。また、「学会で発表された注目の成分」などの表記を見ることもありますが、一般に、学会への入会や研究発表については厳密な審査などはなく、単に学会で発表するだけなら、誰でも、また仮説レベルや動物実験など基礎研究段階のものでも問題がないことから、学会発表自体をイコール科学的根拠と捉えるのは大きな誤解といえます。

■バイブル本商法
 がん関連の健康食品で特に多いのが「バイブル本商法」です。そもそも健康食品は薬事法により効能効果を宣伝できません。そこで、「がんに効く」といった内容の書籍を発行し、その中で健康食品の効能などを解説し、最終的に商品販売に結び付けます。この際、がんなどの病気に効果のある対象として、特定の商品名ではなく、アガリクスなど一般名が使われるのがポイント。
要するに、著者は「あるサプリメントがガンなどに効果がある」という個人的な考えを紹介しているに過ぎず、間接的そして合法的に効能・効果が宣伝できるのが特徴です。またこうした本には、ほぼ100%、サプリメント利用者による「症状が改善した」「病気が治った」などの体験談が掲載されています。
単にある個人に効果があっただけで、万人に効果がある確証は一切ありません。しかしマスコミなどを通じて目にすることで、漠然とした信頼感を抱かせる効果が高いといえます。

 かつて、このバイブル本商法は、やりたい放題ともいえる状況にありましたが、2005年10月、こうした書籍を広告と捉えた薬事法違反容疑による初の逮捕者が出ました。「アガリクスで末期がんが治る」などという内容の書籍を刊行していた出版社の役員らと、それに関連して自社商品を販売していた健康食品会社社長らが逮捕された事件です。書籍内で取り上げられていた体験談はすべて執筆者による捏造でした。その後、2011年10月にも、書籍で「がんに効く」と宣伝し、健康食品を無許可で販売したとして、健康食品販売会と出版社の社長らが薬事法違反容疑で逮捕されています。

巧妙化する販売手法に消費者庁が違反の具体例を提示

 健康食品販売に関する取り締まりの強化が進められる一方、インターネットの利用増などから虚偽誇大広告の件数増に歯止めがかからない昨今、昨年11月、消費者庁は「いわゆる健康食品」に関連したガイドラインを公表しています。「いわゆる健康食品」とは、国の審査を受けて表示を許可・認定された「特定保健用食品(トクホ)」などを除いた、健康の保持・増進に関係する効果、機能等を表示して販売・利用される栄養補助食品や健康補助食品、サプリメントなどで、これまで法律に明確な定義がなく、表示方法によって誤解を生じる可能性が少なくなかったことから、景品表示法や健康増進法に準拠した上での表示違反の具体例などが取りまとめられました。

 例えば、疾病の治療または予防を目的とする効果の表示例として、「医者に行かなくともがんが治る」「糖尿病、高血圧が気になる方にもオススメ」といったものは、医師による診断・治療等がなくても当該疾患が治癒できるかのような表示は著しく人を誤認させるとして、法的に問題となると指摘しています。

 また、医学博士の談などで「△△△が高血圧に効くことは、世界中で知られているところですが、△△△に含まれる有効成分が、血液中の□□□と結びつき、血液をサラサラにするものと考えられています。・・・」というような学説等を伝聞調に表示する形式も、当該疾病が治癒可能と誤認を与えるとして、法律上問題としています。

 また、「自然治癒力を高める」「免疫力アップ」「解毒機能を高める」などの表示や名称、キャッチフレーズについては、効果の裏付けとなる合理的根拠がない場合、景品法上の不当表示となります。このほか、利用者の体験談や著名人の推薦等のみで効果を標榜するケースについても、「体験談や推薦者等が存在しない」、いわゆる捏造等の場合はもちろん、体験談や推薦者自体が存在する場合でも、それら自体が合理的根拠とはならず、ほかにも学術的な根拠等のない場合は景品表示法上の不当表示とみなされる旨が明記されています。

いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について(PDF:660KB)
※15ページ目以降が通知となる

医療のプロである主治医との協働を治療の第一選択に

 がんにまつわる健康食品関連の事件や、それに伴う広告規制の現状などについて記してきましたが、最終的に、がん患者さんにとって、健康食品とのよりよい付き合い方とはどのようなものなのでしょう。

 そもそも、健康食品などの代替療法に目を向けている時点で、いわゆるがん治療と決別してしまっている状態にある方も少なくないと思われます。使用できる薬がないと言われ、がん難民となって様々な病院やクリニックを転々とする中、焦る気持ちから健康食品の甘い宣伝文句に惹かれ、時間ばかりが過ぎ、結果的にボロボロの状態に……そうならないためにも、がん治療においては、どのような治療の選択肢を選ぶ場合であっても、医療のプロとしてがん治療に携わる主治医との協働が重要になるといえます。

 例えば、代替医療をやってみるとしても、医療的なリスクについての相談などバックアップ体制が断然違ってきます。また、本人は治療に熱心になっているものの、 家族が疲弊してしまっているケースもあります。奥さんが経済的な心配事を抱えているケースですが、通常、がん患者の旦那さんにそれを伝えるのは非常に困難です。こうした家族間の対立を生じがちな事例でも、家族を丸ごとみていく医師が間に入ることで、状況は緩和されるでしょう。

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