【最新医療】がん幹細胞の研究が進む

公開日:2013年11月05日

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がん細胞にも親玉の幹細胞が存在している?

 人間の各臓器には、それぞれの臓器を形作る元となる細胞が存在しています。その元となる細胞は自分自身を分裂させ複製を作ることができます。これを自己複製能といい、分裂を繰り返すことによって臓器がつくられていくのです。この自己複製能をもった細胞は幹細胞と呼ばれています。

 幹細胞は自分自身の複製だけでなく、いろいろな細胞に分化できる多分化能という性質も持っていて、組織の修復をしたり、組織を成長させたりもしています。この幹細胞ががん細胞にも存在しているのではないかという問いは昔から立てられていたのですが、最近になって幹細胞の存在が明らかになってきたのです。がん幹細胞の存在が明らかになれば、通常のがん細胞を攻撃するよりも、がん幹細胞を攻撃することで根源的な治療が可能なのではないかと期待が寄せられています。

今回はメディアでも取り上げられることが多くなってきたがん幹細胞の最新研究についてみてみましょう。

大腸がんと肝臓がんに関する大阪大学の研究

 NHKの報道によると大阪大学の森正樹教授(消化器外科)が、患者さん約1000人(大腸がんと肝臓がんの手術経験者)から細胞の提供を受けて、がん幹細胞に関して詳しく調べた結果を報告しています。森教授らのマウスの実験によると、がん細胞だけを植え付けても細胞が増殖しなかったのにもかかわらず、がん幹細胞を植え付けたマウスにはがんを見つけることができたそうです。これはがん幹細胞が増殖をする原因である可能性を示すものと考えられるでしょう。

 また、大阪大学が公知している情報によると、がん幹細胞の存在を明らかにしたこと、大腸がん幹細胞に特徴的に発現する遺伝子を見つけることができたこと、これらのがん幹細胞に関する特徴の分析と治療標的と知る方法を研究していると報告されています。

1) ヒト大腸がん、肝臓がんに自己複製能と多分化能を有するがん幹細胞が存在すること を初めて示しました。大腸がんではCD133(+)CD44(+)、肝臓がんではCD13(+)で現され る細胞が腫瘍形成能、多分化能、抗がん剤耐性能を示し、がん幹細胞であることを明 らかにしました(Stem Cells, 2006; J Clin Invest, 2010; PNAS, 2010; J Clin Oncol, 2011)。

2) 大腸がん幹細胞に特徴的に発現する遺伝子を同定しました。そのうちの一つは PLS3で、これは細胞の上皮・間葉移行を誘発し、転移・浸潤能を増すことから、 がん幹細胞の転移機構に重要です (特許取得WO2010123124-A1,Cancer Res, in press)。 もう一つは新規分子PICT1であり、これはp53を制御すること、固形がんのがん幹細胞 で発現亢進し、予後へ強い影響を与えることを明らかにしました(Nat Med, 2011)。

3) 以上のがん幹細胞の同定と性状解析に加え、がん幹細胞を治療標的とする方法を探 索しています。現在までにがん幹細胞を標的とした場合、格段に治療成績が上がる ことを示しました。すなわち、マウスに移植したヒト肝癌は抗がん剤単独より、抗 がん剤にCD13阻害剤を併用することで格段に高い治療効果を示しました。これによ りCD13(+)がん幹細胞を標的とした新たな治療法確立への道筋が示せました(J Clin Invest, 2010)。

※森教授の研究内容( http://www.ptcrf.or.jp/academic/H24profile_Mori.pdf

文部科学省が乗り出すがん幹細胞の研究

がん研究促進プロジェクト201311

 文部科学省も研究促進に積極的に乗り出しています。平成22年6月に「がん研究の今後のありかたについての報告書」をとりまとめ、この報告書の中では「がん研究の喫緊の課題として、次世代のがん医療を担う日本の優れた基礎研究のシーズを、製薬・医療機器企業等に受け渡すことのできるレベルまでに、効率的、かつ速やかに育て上げる」ことを目標としています。さらにこの中でがん幹細胞に特化した研究が指定されています。

 主な研究項目として「がん幹細胞を標的とした根治療法の開発」、「グリオーマ及びスキルス胃がん幹細胞の制御による治療法の開発」、「酸化ストレス回避機構を標的としたがん幹細胞治療戦略の考案」、「グリオーマ幹細胞特異的因子群を標的とした新規治療法の開発」などが挙げられています。

【次世代がん研究戦略推進プロジェクト】
http://www.mext.go.jp/b_menu/gyouji/detail/attach/__icsFiles/afieldfile/2011/09/13/1310185_02.pdf

今後の研究に期待が寄せられる

 がん幹細胞に関しては1997年に白血病において初めて存在が報告されてから、固形のがんでも存在が報告されるようになり、治療への発展に向けて研究が進められるようになりました。このような研究が可能になったのは、近年の細胞検査技術に発達によって細胞を一つひとつ分離して観察することが可能になったことも研究が促進している理由のひとつでしょう。
今後も科学技術の発展によってますます研究が進み、臨床に応用されていくことが期待されます。

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