【医療情勢】がん患者は考え方の異なる医療とどう向き合うか?

公開日:2013年10月01日

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何が本当の医療か分からない時代

 昨今、書店の新刊コーナーには、「医療否定本」とも言うべきジャンルが展開されています。「病院に行くと、余計に病気が悪くなる」「抗がん剤は効かない」「医者を信用しては寿命が縮まる」――。そんな主旨の本を手にとって、一体何が本当なのかと、思い悩む方は多いのではないでしょうか。まして、がんの闘病中の患者さんは、治療に対する気持ちがゆらぎ、精神的に少し不安定になる方もいるかもしれません。

 しかし、個人の医療観は複雑多様で、医療を「否定」「肯定」の2軸で割り切ることはできません。育ってきた背景、年齢、家族構成、経済状況、あるいは病気になってからの期間によって、医療に対する考え方は大きく変わります。いわゆる医療否定本を読んで、先々の療養に迷いが生じたときには、「自分の医療観」を振り返ってみると、気持ちが整理できるかもしれません。

自分の「医療観」を分析する営みも

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 仮に、個人の医療観を、大きく次の3パターンに分類するとしましょう。

A:標準治療に加え、先進医療も受けたい。
B:標準治療のみで納得できる。
C:なるべく治療を受けたくない。

 このうちAは、新しい治療法にも理解を示す層です。完治の難しいとされる病気がよくなるのであれば、先進医療を受けたり臨床試験に参加したりすることに関心がある人たちです。

 次のBは、保険適用になっている治療を受け、それ以上は望まない人たちです。最新治療に関する情報が不足していて知り得ない場合や、経済的な面が大きく関与している場合もあると思われます。

 そして最後のCは医療否定本の論旨と近い価値観と言えます。そのように思うきっかけはさまざまですが、宗教的な理由、特定の食事療養や自然療法による影響、過去に医療事故に遭遇した経験といったケースがあると思われます。

 これらの医療観は、どれが正しいというものではありませんが、多くの方はAとBの中間くらいを行き来しているのではないでしょうか。標準治療で治るのであれば、それに超したことはありません。それでも治らないなら先進医療も視野に入れ、体力や費用面を鑑みながら可能な範囲で医療を受ける。その後、経過を見つつ、もっとアグレッシブに先進医療を受けるか、ほどよいところで落ち着くかを検討するパターンは少なくないはずです。

 AまたはBの人が、Cのように医療を否定する内容の本を読むと、自分が「当たり前」と思っていたことと正反対の主張に驚くこともあるでしょう。しかし、冷静に考えると価値観の違いから生じているといえるでしょう。

 

医学論文の信頼性

 医療否定本には、論文が引用されて論拠になっている場合もあるでしょう。データを提示されて否定されてしまうと非常に不安になってしまうかもしれません。
ところが、よくよく論文の年度を見てみたり、規模などを確認してみると、実は少し古いものだったり、統計の取り方にバイアスがかかっていたりするものもあります。

 先進医療は日進月歩で新しい研究成果が報告されていますから、1年前の論文がすでに古い情報になっている場合も多いのです。逆に、必要以上に先進医療をあおるタイプの本も、データの出し方が恣意的な場合もあります。

 医学を専門としていない患者さんにとっては、何を信じたら良いのかと不安になってしまうと思いますが、自身の生き方をしっかりと見つめなおして、後悔しない選択が大切です。信頼できる医師であれば、自分の立場も明確にして患者さんへの説明をしっかりとおこなってくれるはずです。

 医師の言説を受け入れるか否かは、患者さん個人の価値観に委ねられています。治療方針の決定は、自分の一生を左右するものです。自分の医療観と照らし合わせて、じっくり検討するようにしましょう。

患者会やセカンドオピニオンの活用を

 刻一刻と変化する医療事情の現代は、患者さんの情報リテラシーが問われます。 現在、標準治療になっている治療法は、ある程度の数人に効果があると証明されたものに限られています。逆に言うと、患者さんによっては効果がありながら、症例数が足りないために保険適用されていないものもあります。

 今の標準治療が効かなくても、諦める必要はないかもしれないのです。事実、最近注目されている「分子標的治療薬」の中にも、当初は一つのがん種しか保険適用されていなかったものもありました。それが、先進医療制度を利用した患者さんの症例が蓄積され、保険適用に結びついたのです。

 こうした複雑な情報を取捨選択し、「この治療は受ける価値がある」か否かを判断する作業は、決してラクではありません。もしかしたら一人の力では心細いかもしれません。そんな時には、患者会やセカンドオピニオンを頼ることを躊躇わないようにしましょう。利害関係のない他者の意見を取り入れることで、少なからず客観的な情報分析に近づくはずです。

 よく言われることですが、「やらなかった後悔」よりは「やった後悔」の方が納得感を得やすいかもしれません。受けたい治療があるなら、諦めない。治療を控えたいなら周囲の意見を聞き、自分の医療観と照らし合わせる。この営みが、後悔のない療養につながると言えるでしょう。

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Q,免疫療法に否定的な出版物もあるようですが、世界的には効果がないといった評価なのでしょうか?

A,確かにがん免疫療法は簡単ではなく、過去の成績は必ずしも満足できるものではありません。しかしながら治療法も日々進歩して改良を続けているところです。世界的に将来的な治療法として「がん免疫療法」に注目が集まっていることは、米国NIHの臨床試験検索サイト(http://clinicaltrials.gov/)で、
「がん+免疫+治療(cancer, immune, therapya)」で検索すると7696件、「がん+樹状細胞+治療(cancer, dendritic cell, therapya)」で検索すると、364件ヒットすることからも十分にお分かりになると思います。

 我々のサイトは、あきらめないがん治療として可能性を追求しており、出版物の先生とは立場が異なると思います。最新の治療の見方に関して患者様に情報を提供する事がこのサイトの目的です。


あきらめないがん治療ネットワーク代表理事 田口 淳一

 

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