【QOL(生活の質)】がんと鍼治療 ~西洋医学の限界を鍼で補う~

公開日:2013年10月01日

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故スティーブ・ジョブズ氏も鍼を愛用

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 アップル社の最高経営責任者(CEO)だった故スティーブ・ジョブズ氏は、生前、鍼治療を取り入れて膵臓がんと闘っていました。ベストセラーとなった自伝『Steve Jobs』(邦題『スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ』)によると、ジョブズ氏は手術を受けながらも、鍼治療や食事療法といった代替医療を続けたとされています。

代替医療に頼るあまりに手術が遅れた、という見方もありますが、ジョブズ氏の書籍によって、アメリカにおける鍼治療の知名度は急上昇したとも言われています。

 鍼治療は、それ以前にも世界各国で親しまれていました。フランスでは、画家のピカソが晩年、持病の坐骨神経痛を鍼治療によってケアしていたことが有名です。
また、ドイツでは医師または「自然療法士(Heilpraktiker)」という専門資格を持つ者に限り、鍼治療が認められています。
ヨーロッパのなかでも特に鍼治療に対する意識が高いと言われています。欧米では鍼治療を「アキュパンクチャー(Acupuncture)」と呼び、すでに110カ国以上で実践され、それぞれの国で資格制度が整備されつつあります。

 

痛みや吐き気の軽減。術後合併症の予防にも

 鍼治療が世界的に人気を集める理由は、その効果の高さです。鍼治療だけで、がんを縮小させたり消失させたりすることはありませんが、鎮痛剤では取り切れない痛みやだるさなどを軽減させます。現代西洋医療を補完する一手として期待されているのです。
厚生労働省の研究班が作った「がんの補完代替医療ガイドブック」によると、鍼治療はがん患者さんの以下の症状を治療対象としています。

●痛みや息切れなどの身体症状の軽減。
●心理的・精神的苦痛の軽減。
●生活の質(QOL)全般の改善。
●抗がん剤の副作用である吐気や嘔吐の軽減。
●手術後の腸閉塞の予防。
●乳がん治療の副作用である顔面紅潮・のぼせの治療。

 体に鍼を刺したり、お灸を据えたりすることで、痛みなどを鎮める効果がある。考えてみれば不思議なことです。ここで鍼治療の基本について改めて解説しておきましょう。 鍼治療とは、2000年以上の歴史がある医療行為です。医療用の鍼を体に刺したり、接触させたりすることで自律神経を刺激し、体の不快な症状を和らげます。艾(もぐさ)を体の上で燃焼させる「灸」をセットで行うこともあります。どちらも、経穴(けいけつ)、いわゆるツボを刺激することが共通しています。

 ツボは、体中に張り巡らされた経絡(けいらく)という回路でつながっており、筋肉の間、関節や骨の陥凹部、動脈の拍動部や分岐部、神経線維や血管が密集しているところなどに存在しています。世界保健機関(WHO)は鍼治療の健康効果を公式に認め、361のツボを認定しています。2006年にはツボの場所の世界基準を統一しました。

 

有効性を検証する研究が、世界中で進められている

 鍼治療の適応や効果・治効のメカニズムは、未だに不明な点が残されていますが、現在、アメリカ国立衛生研究所ほか、中国、韓国を含む各国の研究機関で客観的な研究が進められています。中には、痛みや吐き気などを軽減する効果を示す研究もあると言われます。

 2010年には、世界的に権威のある科学雑誌『ネイチャー・ニューロサイエンス』に鍼治療の有効性を示した論文が掲載されました。アメリカ人の医師が行ったマウスによる実験で、「足三里」というツボの刺激が、鎮痛作用をもたらすメカニズムを突き止めたというのです。

また、日本の統合腫瘍学会は、2009年に発表した「がんの統合医療ガイドライン」で、以下2つのケースについて「推奨度:強く薦められる(質の中等度の科学的根拠あり)」としました。

*放射線治療に伴う口内乾燥症に対する鍼治療。
*閉経後の女性における血管運動性の症状=顔面紅潮に対して、薬物治療で効果が認められない重篤な症状を抱えている患者が、鍼治療の臨床試験へ参加すること。

がん患者が鍼治療を受けられる医療機関

 実際に、がんの患者さんに対して、鍼治療を行っている医療機関は多数存在します。大阪大学病院麻酔科では、ペインクリニックの外来が開設された1966年から、鍼治療師がスタッフに加わっています。神経ブロックと鍼治療を同施設内で受診できる珍しい大学病院として知られます。

 ほかにも、各地域の大学病院や、がん専門病院で鍼治療を取り入れているところは少なくありません。在宅医療チームに鍼治療師が参加し、がん患者さんのケアに当たっている事例もあります。

 なお、がんの患者さんが鍼治療を受ける際には注意点があります。 医療用の鍼は基本的に安全なものですが、まれに出血あるいは内出血を起こすことがあります。健康な人であれば、ほとんど問題にならない程度ですが、抗がん剤治療によって出血を止める細胞の血小板が少なくなっていたり、がんが進行して出血しやすい状態になっていたりする場合には十分な注意が必要です。
鍼治療師の国家資格を持った施術者に鍼治療をしてもらうことはもちろん、あらかじめ主治医に相談したほうがよいでしょう。

 

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