【最新医療】医師が治療法を選択する基準~EBMってなんだろう?~

公開日:2012年08月01日

目次

標準治療とEBMの関係

がんの治療をするにあたり、「標準治療」という言葉を聞いたことがあると思います。手術も抗がん剤治療も放射線治療も、医師は診療ガイドラインに記載された標準治療を基本としています。医師によっては、標準治療以外の治療を避けたがることもあり、ときに「こんな最新治療を受けたいのに主治医が賛成しない」というケースが生じています。
しかし、ガイドラインはあくまで「指針」であり、「ルール」ではありません。実際の医療現場では、標準治療以外の最新治療も、まま選択されています。では、医師はどんなとき標準治療以外を選択するのでしょうか? それを知る上で、まず理解しておくべきことは「EBM」という考え方です。

EBMは「evidence-based medicine」の略で、日本語では「科学的根拠に基づく医療」と解釈されています。大規模臨床試験を行い、治療法に効果があるか否かを科学的に検証・報告した論文(エビデンス)に基づいて各学会が主導で標準治療を決め、ガイドラインを作成しています。1999年に厚生労働省(当時の厚生省)が、EBMに基づくガイドライン推進政策を打ち出したことによって、ガイドライン作成は一気に進みました。それ以前にもガイドラインはあったものの、作成者に都合のよい論文だけが参照されていた傾向があり、EBMを重視するように変わってから改善したといわれています。様々な視点から見た論文が参照されるようになり、ガイドラインの完成度が高まったのです。

最近では、インターネット上にガイドラインを公開している学会も少なくありませんし、書店で購入できるものもあります。医師向けのガイドラインだけでなく、患者向けに平易な表現を用いたガイドラインを用意している学会も増えてきました。それだけ、医師はEBMを重視し、医療界全体でEBMを守ろうという流れにあるのです。

希望する治療法をガイドラインに照らし合わせてみよう

ガイドラインは、推奨される治療法だけが載っているわけではありません。有効性に応じて、以下のようにランク付けがなされています。学会によっては、さらに「A-1」「A-2」などと細分化していることもあり、多くの場合、AまたはBに該当する治療法が標準治療と定められています。
•A 強く勧められる
•B 勧められる
•C 勧められるだけの根拠が明確でない
•D 行わないよう勧められる

治療方針に関して、医師と相談する場合は、ガイドラインを念頭において話をきくといいでしょう。医師が提示する治療法が、どのランクの治療法なのか。ほかに治療法はないのかといったことが、だいたいでも頭に入っていると、理解度がまるで違ってきます。もしかしたら、自分が希望している最新治療はガイドライン上で「C」や「D」に分類されているかもしれません。医師がEBMを重視していることをよく理解したうえで、患者さん側も自分の意見をEBMに照らし合わせてみることは非常に大切です。

医師に最新治療を相談する際のポイント

とはいえ、ガイドランは絶対的なものではありません。エビデンスに基づいているといっても、症例数の少ないがんや、緩和ケアなどの分野は十分にガイドラインが確立されていませんし、何よりも治療法は患者さんの容態に応じて決めることが大前提です。ガイドラインで「A」とされる治療法でも、患者さんによってはほかの選択肢が合っていることもゼロではありません。そのため、ガイドライン以外の治療法について、医師に相談してみる価値は十分にあります。
現在の医療界では、EBMと並んで「インフォーム・ドコンセント(説明と同意)」も重視されています。医師は治療法に関して十分な説明をし、患者さんが納得することが大切だという考え方です。患者さんが疑問に思うことや、納得しきれないことを医師に伝える重要性は、医師自らが理解しているといっていいでしょう。最新治療にチャレンジしたいという願いは、臆せず伝えていいのです。 ただし、その際には患者さん側にも気をつけたいポイントがあります。

●一般向けの記事は、専門誌より信憑性が劣りやすいと理解する
●希望する治療法の情報を、できるだけ科学的データをそえて医師に相談する
●感情を全面に出さず、具体的かつ冷静な話を意識する

EBMを重視する医師にとって、「○○ががんに効く!」「○○の効果が科学的に実証された」などとセンセーショナルに書かれた一般向けの雑誌やテレビ番組は抵抗を感じるものです。学会が決めたガイドラインや、医師の世界で読まれる専門誌や論文に比べて、信憑性が低く、実際以上に効果を煽る表現が使われがちだからです。
そのため、患者さんから「新しい治療法がテレビで紹介されていた」「新聞や雑誌にこんな記事が出ていた」と言われると、構えてしまう医師が多いのが現実です。なかには、患者さんが感情論で信憑性の低い治療法を求めていると感じる医師もいます。しかし、冷静な姿勢でアプローチすることで、ちゃんと気持ちを受け止めてもらうことができます。

患者側も科学的妥当性を意識したアプローチを

少し難しいかもしれませんが、一般向けの記事で気になる治療法を見つけたら、ガイドラインや専門誌でどう評価されているかを確認してみてください。専門誌は自分で購入することもできますし、大きな図書館に行けば閲覧できるものもあります。また、患者会などに参加すれば、先輩患者さんの意見を聞きながら専門的な資料を読むことができます。
もしくは、主治医に「このような治療法があるようですが、医学界での評価はいかがでしょうか」と率直に尋ねてみることです。医師によっては、その場で調べてくれたり、後日、調べた結果を教えてくれます。ここで、医師が「EBMの観点から妥当だ」と判断すれば、ガイドラインに載っていない治療法であってもチャレンジできる可能性があります。医療の世界は日進月歩です。最初は「そんな治療法はエビデンスがない」と思っていた医師でも、患者さんに頼まれて調べたことで「自分の専門分野外ではすでに認められた治療法だった」「去年までは科学的に実証されていなかったが、つい最近、重要な論文が出ていた」などと気付くパターンもあります。
がん治療は、主治医の協力が得られないと諦める必要はありません。信頼できる情報をもって、粘り強く医師と対話することから、明るい道が開けます。
次回では、患者さんと医師のコミュニケーションについて、さらに実践的な情報をお届けします。

関連記事

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。