【医療情勢】がん対策 都道府県で広がる格差~地域行政で個別化が進んでいる~

公開日:2012年06月29日

日本人の死因のトップであるがん。 日本人の2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなると言われる時代です。各都道府県では、がん検診への受診率やがんや罹患したときの死亡率などに違いがあり、「がん対策推進計画」完成度でも格差があると言われています。地域ごとにどのような格差があるのか、データを元に紹介します。

目次

死亡率も検診受診率も約2倍の格差がある

がん治療の質を左右する要因には、がんに関する知識の差、治療にかけられる経済力の差のほか、地域による差も挙げられます。国は、2007年のがん対策基本法の施行を機に、治療の質の均てん化を押し進めてきましたが、今もって地域差が存在しているのが現実です。

国立がん研究センターがん対策情報センターの調べによると、2010年における人口10万人あたりのがん死亡率(75歳未満年齢調整死亡率/男女計)は、全国平均で84.3%。もっとも高い青森県は101.1%で、もっとも低い長野県の67.3%と比べると約1.5倍もの差がありました。

がんの部位別死亡率の統計や、がん検診の受診率、医療提供体制の統計などからも、地域間格差が大きいことが浮かび上がります。主なデータに順位を付けると、下記のようになります。いずれも、県によって大きな差があり、住んでいる地域によってがん治療の質が変わってくる問題を表しています。

●がんの部位別死亡率

最高値 最低値
大腸がん 青森県(12.8%) 佐賀県(8.2%)
膵臓がん 青森県(9.2%) 沖縄県(5.1%)
肺がん 鳥取県(18.5%) 長野県(10.3%)
胃がん 秋田県(16.2%) 沖縄県(5.6%)
肝がん 鳥取県(11.6%) 山形県(4.5%)

*国立がん研究センターがん対策情報センター資料/人口10万人対/75歳未満年齢調整死亡率/男女計/2010年

●40歳以上のがん検診受診率

肺がん 最低値
胃がん 山形県(47.0%) 大阪府(21.5%)
大腸がん 山形県(36.3%) 徳島県(18.4%)
肺がん 山形県(35.5%) 大阪府(14.9%)

*国立がん研究センターがん対策情報センター資料/男女系/2010年

●がん治療認定医数

最高値 最低値
鳥取県(155.0人) 福島県(40.4人)

*日本医療政策機構 がん政策情報センターまとめ人口100万人対/2011年4月1日現在

●がん薬物療法専門医数

最高値 最低値
岡山県(12人) 滋賀県(0人)

*日本医療政策機構 がん政策情報センターまとめ/人口100万人対/2011年6月21日現在

●放射線治療認定医数

最高値 最低値
群馬県(13.2人) 茨城県(2.4人)

*日本医療政策機構 がん政策情報センターまとめ/人口100万人対/2011年7月4日現在

●ホスピス病床数

最高値 最低値
高知県(114床) 埼玉県(11人)

*日本医療政策機構 がん政策情報センターまとめ/人口100万人対/2011年2月1日現在

都道府県ごとの「がん対策推進計画」にも格差が

各都道府県は、患者やその家族、遺族の視点を踏まえたうえで、実効性のある「がん対策推進計画」を策定することが義務づけられています。同計画は07年に閣議決定した国の「がん対策推進基本計画」に基づいて内容が決められることになっており、各都道府県でさまざまな計画が作られてきました。ただ、県の間で計画の完成度には大きな格差があると言われ、一部、独自性のある計画を策定した県に注目が集められています。

例えば、島根県は県をあげてがん対策に積極的に取り組んでいます。「がん対策推進計画」の策定も全国初で、国の「がん対策推進基本計画」が示した以上の目標数値を設定しました。がん死亡率は10年間で男性26%、女性20%の引き上げを目指し、専門医の増員にも力を入れています。07年当時は0人だったがん薬物療法専門医を5年間で12人に増やし、4人だった放射線治療認定医数は8人に増やすことにしたのです。

また、06年に全国で初めての「がん対策推進条例」を制定し、がん対策を重視した予算配分を推進してきました。09年からは、患者や家族ががんの理解を深めるための「がん患者塾」の開催や、がん相談員の育成強化にも予算がつけられています。

島根県でがん対策の気運の高まった背景には、島根難病研究所が中心となって行った「がん対策募金」があります。バナナ1袋の購入につき6円が募金されるなどユニークな方法で、07年度からの3カ年で計6億7000万円が寄せられたとされています。

患者の知識向上のための支援を強化する自治体もある

他にも、神奈川県のがん対策推進計画では、がん臨床研究・情報発信の仕組みづくりのため、産学公が共同でトランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)に取り組むことが盛り込まれています。県立がんセンター臨床研究所を中心として、県内の大学病院、(独)理化学研究所、県内医薬品関連会社等が設置した「神奈川がん臨床研究・情報機構」でがん組織を収集・管理し、共同研究を進めています。また、緩和ケア病棟をもつ医療機関がボランティアを対象に実施するターミナルケア研修への助成も行い、患者や家族のケアを支援しています。

富山県では、がん検診受診率の向上や専門医の増員のほか、県民の意識向上のための施策を充実させました。がん診療連携拠点病院の専門医による種類別医学講座を開催し、ケーブルテレビ(カバー率100%)で放映したり、DVDを作成して関係機関に配布しています。がん治療で身体の一部を切除した場合などに求められるコスメティクスのバックアップ体制も強化し、乳がんによる乳房切除後の専用インナーやパッド、頭髪喪失時に求められるウイッグの情報提供等を積極的に進めています。

尚、国の「がん対策推進基本計画」は2012年に見直しが行われ、各地のがん診療連携拠点病院のあり方や、専門医の育成推進、仕事と治療の両立支援、喫煙率の数値目標、小児がん拠点病院の整備などが求められるようになりました。今後、この基本計画の方針に則って、都道府県の推進計画も順次見直されていく見通しです。

ポイントまとめ

  • がん治療の質を左右する要因の一つに地域差がある。それはがんの部位別死亡率の統計や、がん検診の受診率、医療提供体制の統計データからも地域格差がわかる。
  • 各都道府県は「がん対策推進計画」の策定が義務づけられている。
  • 島根県は国の「がん対策推進基本計画」が示した以上の目標数値を設定し、がん対策に積極的に取り組んでいる。
  • 神奈川県では、産学公が共同でトランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)や、患者や家族のケアの支援に取り組んでいる。
  • 富山県では、がん検診受診率の向上や専門医の増員のほか、県民の意識向上のための施策を充実させている。
  • 国の「がん対策推進基本計画」は2012年に見直しが行われ、この基本計画の方針に則って、都道府県の推進計画も順次見直されていく。

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