大腸がんガイドライン解説

公開日:2011年11月01日

目次

大腸がんの病期分類と治療法選択

大腸がん(盲腸、結腸、直腸)の病期分類は、ほかの癌種でも使われているTMN分類だけでなく、国際的に広く使われる「デュークス分類」が使われます。両者はわずかな違いがあるだけで、下記のように相当します。

デュークス分類 TMS分類 状態
デュークスA ステージ0〜Ⅰ がんが腸壁に留まる。
デュークスB ステージⅡ 腸壁を貫くが、リンパ節転移がない。
デュークスC ステージⅢ リンパ節転移がある。
デュークスD ステージⅣ 遠隔転移がある。

ステージ0または1でも病巣が2センチ以下で軽度浸潤であれば、内視鏡や腹腔鏡手術による治療も選択肢に入ります。しかし、ステージ2以上は原則として開腹手術を行います。手術でどこまで切除するかは、がんの進達度やリンパ節転移の段階によって決められますが、リンパ節転移のある場合は「D3郭(かく)清(せい)」といって、栄養血管の根元にあるリンパ節(主リンパ節)まで切除します。大腸がんのリンパ節郭清のうち、もっとも広範囲に切除する方法です。









http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0042/3/0042_G0000215_0014.html

ステージⅡまたはⅢで腹腔鏡手術を行うこともないわけではありませんが、難度が高く、外科医の習熟度を十分に考慮して適応が決定されます。横行(おうこう)結腸(けっちょう)(大腸のうち真横に伸びている部位)や高度肥満、高度癒着の場合も高難度です。

遠隔転移は、切除可能性が治療法を大きく左右する

遠隔転移が認められるステージⅣは、遠隔転移した病巣や原発巣が切除可能か否か、あるいは、原発巣によって大出血や高度貧血、穿通(せんつう)(突き刺さって貫通すること)・穿孔(せんこう)(穴が空くこと)、狭窄などの症状の有無によって治療法が決められます。 遠隔転移巣も原発巣も切除可能な場合は、原発巣の根治切除と遠隔転移巣の切除を考慮します。遠隔転移巣が切除可能でも、原発巣の切除ができなければ、原則として切除手術は対象外です。原発巣緩和手術や、化学療法、放射線療法などほか治療法を行うことになります。

一方、遠隔転移巣の切除は不可能でも、原発巣切除が可能な場合は、原発巣のみ切除し、転移巣はほかの治療法を検討します。ただ、この手術の是非については今も議論も多くあります。閉塞や出血の緩和、あるいは人工肛門造設などによる腸管空置(ちょうかんくうち)術については、それほど異論はありませんが、無症状だったり、軽微な症状の場合の原発巣時切除がQOL改善にどれだけ寄与するか疑問視する声もあります。手術の合併症や手術死亡のリスクが高いとも言われています。










http://www.jsccr.jp/guideline01.html

なお、ステージⅣ大腸がんの遠隔転移は、肝転移と肺転移が代表的で、ほかにも腹膜播腫(ふくまくましゅ)、(腹膜にガンが転移している状態)脳転移、遠隔リンパ節転移、その他転移(骨、副腎、脾臓など)があります。それぞれの治療方針は下記のように決定されます。

◆肝転移……原発巣が切除できれば、そのうえで肝転移巣の切除を考慮する。原発巣・肝転移巣切除は同時に行うこともあれば、肝切除の難度や患者さんの全身状態によって別々に手術することもある。

◆肺転移……原発巣が切除可能なら肺転移巣の切除を検討する。肝転移と違う点は、同時に手術することは少なく、原発巣を切除したあとに肺転移切除を行うケースが一般的。

◆腹膜播腫(ふくまくはしゅ)……限局性播種(P1、P2)は切除することが望ましいが、広範な播種(P3)は切除効果が確立されていない。

◆遠隔リンパ節……遠隔リンパ節転移巣の切除は検討可能だが、明確な治療効果は示されていない。

◆その他(脳、骨、副腎、脾臓など)……切除の報告はあるが、生命予後への明確な効果はわかっていない。

このうち腹膜播腫(ふくまくはしゅ)に関しては、海外からはP3で全腹膜切除が有効であるとする報告が出されています。しかし、日本ではほとんど治療成績のない療法で、一般の医療機関では実施できません。臨床試験を行い、安全性を確認する必要があります。

再発大腸癌も切除可能なら手術を行う

再発大腸がんの治療法には、手術療法、全身化学療法、動注(どうちゅう)化学(かがく)療法(りょうほう)、熱凝固療法、放射線療法などがあります。いずれも、治療目的は完治というより予後向上とQOLの改善です。

再発臓器が1つの場合、切除が可能であれば積極的に外科的切除を選択します。2つ以上の臓器に再発が及んでいる場合も、切除を考慮することはありますが、現在のところ治療効果について統一的な見解は得られていません。切除が不可能な場合は、全身状態を考慮しながら、化学療法や対症療法を選ぶことになります。









http://www.jsccr.jp/guideline2010/guideline01.html

肛門に近い直腸がんの局所再発も、切除可能であれば切除を考慮し、切除不能であれば放射線療法と全身化学療法を行います。切除の可否は、再発巣を画像診断し、再発形式や症状、身体所見から判断します。直腸がんの局所再発のうち、吻合部(ふんごうぶ)再発と前方再発では完全切除が期待できることが多いと言われています。一方で、後方再発は、完全切除のために仙骨合併切除が必要になり、手術の侵襲性が高くなります。患者さんの耐術能を十分に考慮したうえで手術を行うかどうかが決められます。
なお、延命や症状緩和を目的とした姑息的手術の有効性は、今もって議論が多く、医師により判断が分かれます。

肝・肺・脳への転移の治療方針

肝臓や肺、脳への転移も、切除できるか否かが最初の判断基準となります。いずれも、切除が可能なら外科的切除。不可能なら、身体所見に応じて全身化学療法や局所療法、対症療法を選択します。

肝転移

肝切除、全身化学療法、局所療法(肝動注療法、熱凝固療法)が選択肢にあり、根治切除可能な場合は肝切除が推奨されます。日本で行われた多施設集計によると、肝切除585例の3年生存率は52.8%、5年生存率は39.2%です。
切除の適用基準には次の5つが挙げられます。
(1)手術に耐える体力がある。
(2)原発巣が制御されているか、制御可能。
(3)肝転移巣を残さず切除が可能。
(4)肝臓以外の転移がないか、あっても制御可能。
(5)十分な肝機能を残すことができる。
切除不可能な肝転移は、抗がん剤の全身化学療法と動注療法の単独または併用を検討します。また、熱凝固療法を行うこともあり、これにはマイクロ波凝固療法と、ラジオ波焼却療法があります。熱凝固療法は低侵襲であることがメリットで、局所制御効果や長期生存例が報告されています。ただし、十分な症例集積による報告はないため、有効性の評価は定まっていません。切除より再発率が高く、長期生存も不能という報告もあります。

肺転移

肺転移の治療は、肺切除もしくは化学療法のどちらかです。耐術能(手術に耐えられる体力があるかどうか)やほかに転移がないかなどの観点から肺切除が可能か判断(適用基準は肝転移同様)し、可能であれば外科的治療を選択します。肺切除の3年生存率は53.8%、5年生存率は38.8%です(国内の多施設集計569例中)。
一方、切除不可能な場合は、全身化学療法を考慮します(全身状態が一定以上に保たれている場合)。非切除の3年生存率は8.8%、5年生存率は2.4%となっています(416例中)。ただ、切除不可能な場合でも、原発巣と肺外転移が制御できていて肺転移個数が3〜4個以内の場合は、定位放射線治療も視野に入れて検討します。また、制御可能な肺外転移例(主に肝転移)でも、肺切除の有効性を示す報告書があります。

脳転移も、治療効果が期待される場合は、切除手術を行います。脳切除の適応基準は、次の3つです。
(1)数カ月以上の生命予後。
(2)切除により重大な神経症状を来さない。
(3)他臓器への転移がないか、あっても制御可能。
しかし、脳転移切除を行っても他臓器に転移を伴うことが多く、予後は不良とされています。孤立性転移症例に対する切除術で、長期の生存例が報告されてはいますが、十分な症例集積に基づく有効性は定まっていないのです。

切除が不可能な場合は、放射線療法を行います。目的は、脳神経症状や頭蓋内圧の行進を和らげ、局所制御による延命です。症状改善率は60〜80%で、定位放射線照射の80〜90%に局所制御が得られています。 現時点では、転移の個数に関係なく全脳照射を行うことが多く、数年の予後が期待できる場合には定位放射線照射を行うことがあります。

化学療法の基準と注意点

大腸がんの化学療法には、切除術後の再発を防ぐための術後補助化学療法と、切除不能な場合を対象とした全身化学療法があります。現在、保険診療が認められている主な抗がん剤は以下の通りです。

経口薬:5−FU,tegafur,tegafur/uracil(UFT),doxifluridine(5′−DFUR),carmofur(HCFU),S−1,UFT+LV 錠,capecitabine など
注射薬:5−FU,mitomycin C,irinotecan(CPT−11),5−FU+l −leucovorin(LV),oxaliplatin(L−OHP),bevacizumab,cetuximab など

補助化学療法

補助化学療法は、原則として下記の条件に合うケースで適応となります。
(1)病理学的に完全に腫瘍を切除できたステージⅢの大腸がん(結腸・直腸)。
(2)主要臓器機能が保たれている。
(3)performance status(PS)が 0〜1 である。
(4)術後合併症から回復している。
(5)適切なインフォームド・コンセントに基づき患者が文書による同意をしている。
(6)重篤な合併症(特に腸閉塞、下痢、発熱)がない。
推奨される療法は「5−FU/LV 療法」「UFT/LV 療法」「capecitabine 療法」「OLFOX4 療法」または「mFOLFOX6 療法」(日本における保険適応収載順)で、投与基幹は6ヵ月が原則とされています。望ましい投与開始は術後4〜8週間以内です。なお、経口抗がん剤(UFT/LV、capecitabine)と静注(5-Fu+LV)は同等であると言う報告が欧米から出されています。また、分子標的薬の有効性は今もって示されていません。

切除不能進行再発大腸がんに対する化学療法

切除不能な進行再発大腸がんへの化学療法の目標は、腫瘍の増大を遅延させて延命と症状コントロールを行うことです。仮に化学療法を実施しない場合は、生存期間中央値(MST:median survival time)は約 8 カ月ですが、最近の化学療法の進歩によって MST は約 2 年まで延長してきました。化学療法が奏効して切除可能となることもあります。下記のように、1次〜3次まで段階を踏んで使用する抗がん剤の選択や、使い方が変わります。










全身化学療法は、肝、肺、リンパ節、腹膜、局所などが適応となります。骨転移や脳転移に関しては、緩和的放射線療法を考慮するのが基本です。後補助化学療法の治療期間については、まだ確定的な結論は得られていませんが、5−FU ベースの補助化学療法は6 カ月投与が標準となっています。

注意点としては、一次治療におけるcetuximabまたはpanitumumabの国内での使用経験は少なく、安全性への配慮が必要であることが挙げられます。また、bevacizumab、cetuximab、panitumumabの有効性や安全性を直接比較した結果も報告されておらず、使い分けのコンセンサスがないことも覚えておきたいところです。 また、分子標的治療薬(bevacizumabとcetuximab、またはpanitumumab)の同時併用は、一次治療例を対症とした2つの試験から、毒性増強と効果減弱が示されているため、避けるべきです。

大腸がん放射線療法の基礎知識

放射線療法には、直腸がんの術後の再発抑制や、術前の腫瘍量減量、肛門温存を目的とした補助放射線療法と、切除不能進行再発大腸がんの緩和的放射線療法があります。

補助放射線療法

照射する時期によって「術前照射」「術中照射」「術後照射」に分けられます。 術前照射の利点は、手術時の播腫の予防や、腫瘍細胞に放射線感受性細胞が多いことなどが挙げられます。そのため、局所制御や生存率の改善だけでなく、肛門(こうもん)括約筋(かつやくきん)温存率(おんぞんりつ)と切除率の向上も目的となります。術中照射は、側方リンパ節などに対して周囲正常組織を避けて重点的に照射できる点がメリットです。術後照射は、局所再発の高リスク群を選択して照射できる点などが優れています。

それぞれの対象基準は、術前照射「深達度 cSS/cA 以深または cN 陽性」、術後照射「深達度 pSS/pA 以深または pN 陽性」、術中照射「外科剥離面陽性(RM+)」または「剥離面近傍への癌浸潤(RM±)」です。 また、照射方法によって外部照射と術中照射に分けられます。外部照射は、骨盤内に放射線治療歴がないことが適応原則です。一方、術中照射は外科的剥離断端が陽性または断端接近の場合の局所制御向上を目的としています。

緩和的放射線治療

切除不能進行再発大腸がんの痛みや出血、便通障害などの症状緩和を目的とします。照射する線量と分割法は、骨盤内病変か骨盤外病変(骨や脳)によって異なります。

a.骨盤内病変

・1 回 1.8〜2.0 Gy、総線量 45〜50 Gy 照射する。
・全身状態,症状の程度によっては 1 回線量を多くして短期間で照射を終了することもある。

b.骨盤外病変

骨転移への局所照射では 30 Gy/10 回、20 Gy/5 回などの分割照射が広く行われている。脳転移の全脳照射では、30 Gy/10 回が標準的であり、長期予後が期待される場合には 37.5 Gy/15 回ないし 40 Gy/20 回などを検討する。定位手術的照射では辺縁線量 16〜25 Gy を 1 回で照射する。

骨盤内病変で45Gy以上の照射を受けた郡での症状緩和率は疼痛89〜93%、出血79〜100%、神経性症状52%、腫瘍の圧排による症状71〜88%、滲出液50%、泌尿器科的症状22%、その他の症状42%です。これらの症状緩和は、3〜10ヵ月間継続するとされています。
骨盤外病変では、骨転移の局所照射による疼痛緩和率は70〜90%です。疼痛緩和の効果と線量の関係は示されていません。なお、緩和的放射線治療は、その他の部位として頸部リンパ節、傍大動脈などのリンパ節転移に対しても考慮されることがあります。

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