前立腺がんガイドライン解説

公開日:2011年10月14日

目次

前立腺がんの病期分類と転移の傾向

前立腺がんの病期分類は、ほかのがんにも共通する「TNM分類」(T:癌の大きさ、N:リンパ節転移の状況、遠隔臓器の有無)に加え、「グリソンスコア」(G)という数値も勘案されます。グリソンスコアとは、腫瘍の悪性度を図る病理学上の分類です。前立腺に針を刺して採取した組織を病理医が顕微鏡で見て判断する検査で、2〜10の9段階からなります。6以下は低悪性度、7は中悪性度、8〜10は高悪性度であることを示します。以上を整理したものが、下記の病期分類です。

前立腺がんは、骨への転移が多い特徴があります。初期段階では前立腺内に留まっているがん細胞が、増殖が進むにつれて皮膜をやぶって外へ出て転移するのです。骨転移の有無は、「骨シンチグラフィ」という検査で調べられます。骨シンチグラフィとは、放射性医薬品を注射し、専用の機器で画像を映し出す検査です。転移がある部分には、放射性医薬品が集まりやすいため黒く写し出されます。 骨以外で転移が多い部位は、遠隔リンパ節、肝臓、肺、脳、皮膚等が挙げられます。 また、「PSA」の血中濃度でも、転移の有無が分かる場合があります。PSAは前立腺特異抗原といって、もともと前立腺にある抗原です。これが、がんなどの病気になると数値が上がり、治療前のPSAが100ng/ml以上の場合は、それだけでほぼ100%の確率で転移病巣があると判断されます。ただし、稀にPSAが低値でいながら骨転移のある場合もあります。また、前立腺肥大症や炎症でも高くなる可能性があるため、絶対的な判断基準ではありません。

前立腺がんのゴールドスタンダードとは

現在、前立腺癌に対して広く施行されている治療法は、①外科治療、②放射線療法、③化学療法(内分泌療法)があります。歴史的には、1941年にHugginsらが進行性前立腺癌患者に対し精巣摘出手術をして改善を認めたのが最初で、以来、精巣摘出手術は前立腺癌に対するゴールドスタンダードとして広く施行されてきました。前立腺がんは、男性ホルモン(アンドロゲン)の刺激によって成長するため、男性ホルモンを分泌する精巣をとってしまう方法です。 ただ、術後、長期間経過すると、小さくなったがんが再び大きくなる(再燃)という欠陥がありました。そこで、根治を目的として導入されたのが根治的前立腺全摘除術です。前立腺全摘除術は、前立腺と精嚢を摘出し、膀胱と尿道とを縫い合わせる標準術式です。リンパ節転移のある場合は、郭清術を同時に施行するのが一般的です。施設によっては、腹腔鏡による前立腺全摘除術も行われています。

また、放射線療法も著しく進歩し、前立腺全摘除術と並んで標準的治療法とされています。放射線療法は照射方法により「外照射」と「内照射」に大きく分けられます。 外照射は、外から放射線を前立腺に向けて照射する方法です。従来は、放射線が直腸や尿道などにも当たる難点がありましたが、現在は前立腺だけに放射線を集中させる技術が開発され、「原体照射」や「IMRT(強度変調放 射線治療)」が行われています。 一方、内照射は前立腺の中から放射線を当てる方法です。放射線を発する小線源を前立腺内に埋め込む「密封小線源療法」は、外照射以上に多くの放射線を前立腺に集中させることができます。

現在は、欠陥のあった精巣摘出手術ではなく、ホルモン剤を注射して男性ホルモンのはたらきをブロックする内分泌療法が台頭してきました。前立腺癌における化学療法では、内分泌療法にまさる治療法はないと言われています。 最も一般的な内分泌治療は、LH-RH(性線刺激ホルモン放出ホルモン)アゴニスト、および抗アンドロゲン剤の併用あるいは単独療法です。LH-RHアゴニストとしては、「ゴセレリン」あるいは「リュープロレリン」の1カ月および3カ月製剤が使用されます。抗アンドロゲン剤としてはステロイド性と非ステロイド性が日本で承認されています。

それぞれの治療法の適応基準

治療法の選択は、上記のTNM分類とグリソンスコアの組み合わせによって決められます。

T1a、N0、M0の場合

【グリソンスコア6以下】

T1a のがんは、多くが高分化型(PSA値が低く、増殖スピードも遅いがん)で前立腺に留まり、定期的にPSAを測定する(PSA 監視療法)以外の治療を必要としません。ただ、患者の年齢が若い場合(50~60 歳)は、期待される生存期間が長くなるため、前立腺全摘除術や放射線治療等の根治療法を検討することもあります。

【グリソンスコア7以上】

グリソンスコアが高くなると、PSA 監視療法のほか、患者の年齢が期待余命で15 年以上ある場合には根治療法を考慮してもよいとされています。

T1b-c、T2、N0M0の場合

【グリソンスコア6以下、PSAが20ng ml以下】

前立腺がんにおける根治療法には、前立腺全摘除術と放射線療法があります。この段階の症例では、根治療法に加え、PSA 監視法が選択肢になります。治療開始時で期待余命が10~15 年以上の場合には前立腺全摘除術か放射線療法。10 年以下の場合には内分泌療法か放射線療法が選ばれます。

【グリソンスコア7以上、PSAが20ng ml以下】

グリソンスコアが高くなると、PSA 監視療法は不適になります。期待余命が10~15 年以上望める場合には根治療法(前立腺全摘除術,放射線療法)を考慮することが推奨されています。ただし、低分化型(悪性度が中程度)の局所前立腺癌は、根治療法で生存率が良好になるとは言えません。

【PSAが20ng ml以上】

治療方針をPSA 値のみで決めることはできませんが、20ng mlを超えるとほとんどの場合、PSA 監視療法は対象外。手術の適応も慎重に考慮することになっています。特にPSA が100ng ml を超える場合は、ほとんどの症例で遠隔転移があると言われているため、仮に根治療法を行なったとしても、その後内分泌療法も必要となります。

T3、N0、M0

T3 と診断される場合、前立腺全摘除術の適応は一般的には難しいとされますが、期待余命が10 年以上の時には、例外的に手術を選択肢の一つするケースがあります。また、近年は、内分泌療法を併用した放射線治療の良好な成績が報告されているため、今後の選択肢拡大が期待されています。

T4、N0、M0もしくはN1、M1

これらの進行性前立腺癌は、局所療法では制御不能であるため期待余命に関わらず内分泌療法の適応となります。

再発時の補助療法、救済治療をどう選択するか

前立腺がんにおける再発には、治療により低下していたPSAが再上昇する「PSA再発」、リンパ節や他臓器への転移がみられた「臨床的再発」があります。このうちPSA再発は、前立腺がん再発の最初のイベントと解釈されます。外科治療実施後、PSA再発が見つかった際の対応は、アジュバント療法(補助療法)もしくは、救済治療として、放射線療法、内分泌療法などを行います。 ※アジュバント療法とは手術の術後に補助療法として行われる化学療法、放射線療法、ホルモン療法などのことです。これらを手術前に行う場合はネオアジュバント療法と呼んだりします。 PSA再発を認めた場合、転移性であれば内分泌療法が第1選択肢となります。一方、局所にとどまっていることが明らかな場合は、局所療法である放射線治療により、予後が改善するはずです。しかし腫瘍の局在がはっきりする前にPSA再発がわかることが一般的で、状況に合わせて適切な選択をすることが大切です。ローリスク群では経過観察もあり得ますが、PSAが増えて倍になるまでの時間(PSADT)が早かった場合は放射線治療が推奨されることもあります。

具体的には、悪性度が高いと考えられるグリソンスコア7以上かつPSADT12カ月未満の場合。さらにPSADTが術後3カ月未満の場合は、PSA再発を認めた段階で救済治療としての内分泌療法を開始することが望ましいとしています。病態によっては、救済放射線治療も効果が期待できます。グリソンスコア8以上の症例ではPSA再発後、PSA値が低いうちに高線量(64.8グレイ)の照射を行えば良好な結果が得られるとしています。ただし、どのような症例に対してどのような救済療法を選択することが最善かは、いまだ論争があるのが現状です。

「再燃」における化学療法(内分分泌療法)

一度なくなったがんが再びできる再発とは別に、小さくなっていたがんが大きくなる「再燃」という概念があります。前立腺がんが再燃した場合の化学療法(内分泌療法)には、いくつかの方法があります。まず、抗アンドロゲン剤のみを中止することで一過性に病勢の低下を認めることがあります。あるいは「ヒドロコルチゾン」というホルモン剤との組み合わせにより、14-60%にPSAの低下および 0-25%に臨床的効果が得られます。ただ、PSA低下効果は通常2〜4カ月であると報告されています。

前立腺がんは、ホルモン剤のほかに、抗がん剤による全身化学療法も生存率を改善することが期待されていますが、その効果はあまり大きくないというのが現状です。 前立腺がんの再燃に対しては、抗がん剤単剤あるいは多剤併用療法による化学療法が試みられています。単独療法に用いられる薬剤としては、「estramustine phosphate」「CPA」「fluorouracil(FU)」「ETP」などがあります。現在は「docetaxel(DXL)」とステロイド。あるいはestramustine phosphateとの併用療法が「mitoxantrone」とステロイドの併用に比べて有意に生存率が改善したと報告されています。しかし、生存期間の中央値で比較すると、予後の改善は2〜3カ月であり、今後さらに有効な治療法を研究する必要があります。

骨転移の疼痛緩和に放射線療法が有効

転移性前立腺がんにおいて、内分泌療法が有効である限りは骨転移の疼痛はあまり問題となりません。しかし、内分泌療法に身体が慣れて効きにくくなった場合には、痛みのコントロールは非常に切実な問題です。鎮痛薬、放射線、ステロイド、骨親和性放射性核種、硝酸ガリウムおよびビスフォスフォネートといった緩和医療のための多くの治療手段が実施されていますが、骨転移巣がそれほど多発でなく、痛む部位が比較的限局している時には外照射療法が極めて有用です。 外照射を受けた患者の80〜90%は疼痛緩和を得ることができ、50〜60%では完全に痛みが消失します。ただし照射方法に関しては議論があります。8グレイ(※グレイという単位は、放射線の性質を表すもので、物体が放射線を吸収する量を表します。 )ほどの単回照射と、30グレイほどの複数照射のどちらが良いかはまだ結論がついておらず、単回照射では後に再照射を必要とする頻度が高いとする報告もあります。日本では、30グレイほどの複数回照射を施行する施設が多いようです。がんの骨転移には、造骨代謝が活発になるタイプと、溶骨代謝が活発になって骨が減っていくタイプとがあります。造骨代謝が活発になるタイプを造骨性転移と呼びます。以前から、骨転移巣が多発で痛みを訴える場合、全身あるいは半身照射が用いられていますが、前立腺がんのように造骨性転移をきたすがんには、ストロンチウム89など放射性同位元素が有効とする報告もあります。入院する必要もなく、外来で治療を行うことができます。ストロンチウムとは多発性の骨転移の疼痛緩和に効果があるとされて、放射性医薬品として2008年秋に発売されています。海外では20年以上前から使用されていたのですが、日本では安全管理や設備投資に対する医療機関への診療報酬がないためと言われています。今後の制度が調整されることが望まれます。

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