【トピックス】がんゲノム医療の最新動向
「厚生労働省 がんゲノム医療拠点病院を新たに34施設追加へ」

公開日:2019年10月31日

がん細胞内の遺伝子変異を調べ、解析結果に基づいて治療を検討する「がんゲノム医療」。2019年9月、このがんゲノム医療を受けられるがんゲノム医療の拠点病院が、厚生労働省によって新たに34施設追加されました。がんゲノム医療の最新動向をご紹介します。

目次

がんゲノム医療とは?-遺伝子レベルでがんの性格を見極め、最適な治療を選択

私たちの体を構成する細胞内にある染色体は、膨大な遺伝子や遺伝情報を含んでいます。それらをゲノムといい、遺伝子の配列の違いから一人ひとりの個性が生まれると考えられています。

がんは、この遺伝子に変異が生じ細胞が正常に機能しなくなった結果、発症する病気です。近年、研究によって、遺伝子の異常は患者さんごとに異なることがわかってきました。
患者さんの遺伝子の変異を調べ、遺伝子情報に基づいて治療を行う医療を「がんゲノム医療」といいます。

一人ひとりの体質や病状に合わせて治療を検討できることから、プレシジョンメディシン(精密医療)ともいわれます。病状の緩和や副作用の軽減といった、QOL(生活の質)の向上や、より適した治療を選択することによる治療の効率化も期待されています。

がん治療では、手術(外科療法)、放射線治療、化学療法(薬物療法)が三大標準治療とされていますが、このうち、全身に対する治療である薬物療法では、従来の抗がん剤に加え、新たな治療薬も開発されています。

例えば、遺伝子変異によって異常をきたしたがん細胞を標的にして作用する分子標的薬や、免疫細胞の働きにブレーキをかけるがん細胞を攻撃し、免疫細胞を活性化させる免疫チェックポイント阻害剤(薬)などです。

こうした薬剤の進歩に伴い、現在では臓器ごとではなく、遺伝子レベルでがんの性格を見極め、がんの遺伝子に合わせて治療するという考え方が、重要視されるようになっています。

2019年6月には、2種類のがん遺伝子パネル検査が保険適用

がんゲノム医療を行うには、まず、がん細胞の中に、薬剤が作用し得る遺伝子変異の有無を調べる必要があります。

そこで登場したのが、「がん遺伝子パネル検査」です。2019年6月、「NCCオンコパネルシステム」「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」という2種類のがん遺伝子パネル検査が保険適用となりました。これらの検査では、がんと関連した100種類以上の遺伝子変異を一度に調べることができます。

従来の方法に比べ、一度の検査で網羅的に遺伝子情報を解析できるようになったため、検査期間の短縮だけでなく、針を刺して細胞を取る生検を何度も行わずにすむなど、患者さんの負担を軽減できるメリットもあります。

ただし、がん遺伝子パネル検査は誰でも受けられるわけではありません。一般的には、保険診療内の標準治療がない方か、すべての標準治療が終了して新たな薬物療法を希望している場合などに検討されます。

また、がん遺伝子パネル検査を受けても、すべてのがんに対する治療法が見つかるわけではありません。がんの診断や治療に有用な情報が何も得られない可能性もあるなど、デメリットもあります。

※がん遺伝子パネル検査については、下記にて詳しくまとめています。
>>【トピックス】遺伝子パネル検査が初の承認。がんゲノム医療、保険診療へ

2019年9月、がんゲノム医療の拠点病院を新たに34施設追加し、体制強化

厚生労働省は、国民が居住地に関わりなくがんゲノム医療を受けられるよう、がんゲノム医療の提供体制の整った医療機関を全国で指定しています。

これまでにゲノム医療を牽引する「がんゲノム医療中核拠点病院」が11施設と、中核拠点病院と協力・連携する「がんゲノム医療連携病院」として156施設を指定し、がんゲノム医療を受けられる体制構築に力を入れています。

この体制をさらに拡充するため、厚生労働省は2019年9月、新たに「がんゲノム医療拠点病院」として34施設を指定しました。がんゲノム医療拠点病院は、中核拠点病院と連携病院の間に位置し、これで厚労省が指定した医療機関は、全国で180施設となります。

■2019年9月より新たにがんゲノム医療拠点病院に指定された34施設一覧

都道府県 病院名
北海道 北海道がんセンター
青森 弘前大学医学部附属病院
山形 山形大学医学部附属病院
茨城 筑波大学附属病院
埼玉 埼玉県立がんセンター
埼玉 埼玉医科大学国際医療センター
千葉 千葉県がんセンター
東京 がん研究会有明病院
東京 東京都立駒込病院
東京 東京医科歯科大学医学部附属病院
東京 国立成育医療研究センター
神奈川 神奈川県立がんセンター
神奈川 東海大学医学部付属病院
神奈川 聖マリアンナ医科大学病院
新潟 新潟大学医歯学総合病院
長野 信州大学医学部附属病院
富山 富山大学附属病院
石川 金沢大学附属病院
静岡 静岡県立静岡がんセンター
愛知 愛知県がんセンター
三重 三重大学医学部附属病院
大阪 大阪国際がんセンター
大阪 近畿大学病院
大阪 大阪市立総合医療センター
兵庫 兵庫県立がんセンター
兵庫 神戸大学医学部附属病院
兵庫 兵庫医科大学病院
広島 広島大学病院
香川 香川大学医学部附属病院
愛媛 四国がんセンター
福岡 久留米大学病院
福岡 九州がんセンター
長崎 長崎大学病院
鹿児島 鹿児島大学病院

また、これらの医療機関で、がん遺伝子パネル検査を受けた患者さんの遺伝子変異や診療についての情報は、がんゲノム医療の拠点として2018年に国立がん研究センターに設置された「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」に集約され患者さんの同意のもと、日本のがんゲノム医療の質の管理や、新たな診療法の開発に役立てられます。

現在、がん遺伝子パネル検査は、標準治療を行うことができない一部のがんや、治療法が確立していない希少がんの患者さんなどが対象となっており、受けられる方が限られているのが現状ですが、今後、さらに多くの患者さんが検査を受けられる体制づくりが期待されています。

ポイントまとめ

  • がんゲノム医療とは、患者さんの遺伝子変異を調べ、一人ひとりの体質や病状に合わせた治療を行うこと
  • 2019年6月には、2種類のがん遺伝子パネル検査が保険適用となり、がんと関連した100種類以上の遺伝子変異を一度に調べることができる
  • 2019年9月に、厚生労働省が新たに34施設のがんゲノム医療の拠点病院を指定し、全国で180施設へ拡大

コラム:がん遺伝子パネル検査とは?―従来の遺伝子検査との違い

従来の遺伝子検査は、がんに関わる一つの遺伝子の変異を調べる「コンパニオン診断」が行われてきました。しかし、多様な遺伝子変異に対応し、迅速に治療を開始するためには時間がかかり、解析対象となるがんも限られていました。

そこで開発されたのが、がん遺伝子パネル検査です。一度に網羅的に遺伝子変異を調べられるため、検査期間の短縮だけでなく、再生検など患者さんの負担も軽減できます。また、標準治療の選択が目的のコンパニオン診断に対し、がん遺伝子パネル検査は、標準治療が効かないがんや、治療法が確立していない希少がんなどが対象となります。そのため、こうしたがん患者さんが国内の臨床試験へ参加したり、国内未承認の薬を使ったりできるかどうかを検討できるようになりました。

がん遺伝子パネル検査については、下記にて詳しくまとめています。
>>【トピックス】遺伝子パネル検査が初の承認。がんゲノム医療、保険診療へ

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