【トピックス】遺伝子パネル検査が初の承認。がんゲノム医療、保険診療へ

公開日:2019年01月31日
遺伝子パネル検査が初の承認。

目次

厚生労働省は2018年12月にがんゲノム医療の遺伝子検査システムの製造販売を初めて承認しました。2019年春にも「がん遺伝子パネル検査」が公的医療保険の適用になる見通しです。承認された2種類のがん遺伝子パネル検査について詳しくご紹介します。

一度に多数のがん遺伝子変異を解析。がん遺伝子パネル検査とは?

これまでの遺伝子検査は、EGFR遺伝子検査やBRAF遺伝子検査など、癌に関わる1つの遺伝子の変異を調べる方法で行われてきました。しかし、それぞれの癌は遺伝子の変異が多様で、それを1つひとつ調べていくには時間がかかり、解析対象の癌も限られていました。

そこで、一度に 多数の癌に関わる遺伝子の変異を調べることができる「がん遺伝子パネル検査」が開発されました。従来の方法に比べて、一度の検査で網羅的に遺伝子情報を解析することができ、数十~数百種類もの癌に関わる遺伝子をまとめて調べることができます。単一の遺伝子検査を重ねるよりも 検査時間が短く、再生検など、患者さんの負担を軽減できるメリットがあります。

承認された2種類のがん遺伝子パネル検査

今回製造販売が承認されたのは、「NCCオンコパネルシステム」(国立がん研究センターなどが開発、承認取得)と「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」(米国で開発、中外製薬が承認取得)の2種類の遺伝子パネル検査です。

NCCオンコパネルシステム

「NCCオンコパネルシステム」は、NRG1遺伝子やRHOA遺伝子など日本人の癌で変異が見られる遺伝子も含めた114個の遺伝子変異について、1回の検査で調べることができます。がん患者さんが生まれながらに持つ遺伝子変異の検出も可能なため、 遺伝的に発生した癌の診療にも有効といいます。

■NCCオンコパネルシステムによる遺伝子検査と治療方針の決定

NCCオンコパネルシステムによる遺伝子検査と治療方針の決定

※国立研究開発法人国立がん研究センター プレスリリースより
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/1226_03/20181226_pressrelease.pdf

FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル

「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」は、患者さんの腫瘍組織を使って 固形ガンに関する324の関連遺伝子の変異状況を、1回の検査で調べることができます。さらに、非小細胞肺ガンや乳ガン、大腸ガンなど(図表1) について、国内で承認されている 分子標的薬(表)のコンパニオン診断(治療薬の有効性や安全性を事前に予測する診断法)として使用することも可能です。

■図表1:コンパニオン診断適応一覧

遺伝子変異等 がん種 関連する医薬品
EGFRエクソン19欠失変異及び、エクソン21L858R変異 非小細胞肺がん アファチニブマレイン酸塩、エルロチニブ塩酸塩、ゲフィチニブ、オシメルチニブメシル酸塩
EGFRエクソン20T790M変異 オシメルチニブメシル酸塩
ALK 融合遺伝子 アレクチニブ塩酸塩、クリゾチニブ、セリチニブ
BRAFV600E及びV600K変異 悪性黒色腫 ダブラフェニブメシル酸塩、トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物、ベムラフェニブ
ERBB2 コピー数異常
(HER2 遺伝子増幅陽性)
乳がん トラスツズマブ(遺伝子組換え)
KRAS/NRAS野生型 直腸・結腸がん セツキシマブ(遺伝子組換え)、パニツムマブ(遺伝子組換え)

※中外製薬ニュースリリースより
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/cont_file_dl.php?f=181227jFoundationOne+CDx_Approval.pdf&src=[%0],[%1]&rep=2,802

自由診療から保険診療へ。厚労省指定の146医療機関で開始

がん遺伝子パネル検査は現在、一部の病院で自費診療(保険適用外診療)によって行われていますが、今後、「NCCオンコパネルシステム」と「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」は 保険診療として厚生労働省が指定した全国146の病院※で受けられるようになる見通しです。

これまで、癌の治療は臓器や癌の進行状況に応じて一律に薬が投与されてきたため、効果の割に副作用が大きいというデメリットがありました。しかし、がんゲノム検査の結果を踏まえて薬を選択できれば効率的な治療が可能で、 患者さんのQOL(生活の質)向上が期待できます。

ただし、その効果には限界もあり、がん遺伝子パネル検査で遺伝子変異が見つかっても、治療薬がなければ新たな治療には結びつきません。また、 癌(臓器)の種類によっては治療薬が見つかる頻度にばらつきがある点や、検査自体も適応条件があるため事前に確認しておく必要があります。

遺伝子

※厚生労働省指定の146の病院について
国は、国民が全国どこにいてもがんゲノム医療を受けられる体制を構築するため、がんゲノム医療を牽引する高度な機能を有する医療機関として「がんゲノム医療中核拠点病院」を指定しています。また、がんゲノム医療中核拠点病院と連携・協力する「がんゲノム医療連携病院」ががんゲノム医療を行います。
がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療連携病院で遺伝子パネル検査を受けた患者さんの遺伝子変異や診療情報は、2018年 6月1 日に国立がん研究センターにがんゲノム医療の新たな拠点として設置された「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」 に集約され、患者さんの同意の下、日本のがんゲノム医療の品質管理、新しい診療法の開発に役立てられます。各地のがんゲノム医療連携病院では「がん遺伝子外来」などが開設されています。
「がんゲノム医療中核拠点病院」、「がんゲノム医療連携病院」についてはhttps://www.mhlw.go.jp/content/000464706.pdfをご参照ください。

がんゲノム医療とは?

がんゲノム医療はプレシジョンメディシン(個別化医療)とも呼ばれ、遺伝子の変異を調べ、 一人ひとりの病状等に合わせて治療などを行うことを目的とした医療です。

癌はさまざまな遺伝子の異常が積み重なることで発症します。近年の研究から、遺伝子の異常は患者さんごとに異なることがわかってきました。がんゲノム医療は、患者さん 一人ひとりの癌の原因(個性)を突き止めて、より適した治療薬の情報を提供する新しいがん治療といえます。

患者さんが遺伝子レベルで自身の癌を知ることによって、より適した治療薬を選択することができ、 病状の緩和、副作用の軽減などに役立ちます。

 

※掲載している情報は、記事公開時点(2019年1月31日)のものです。

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