【トピックス】がんゲノム医療の最新情報
個別化医療(プレシジョンメディシン)が本格始動

公開日:2018年06月29日

がんゲノム情報管理センターが開設され、ついに日本でもがんの個別化医療が本格始動し始めました。がんゲノム医療とは、がんの原因となる遺伝子情報を元に効果的な治療薬を選択する次世代のがん治療で、2019年度を目途に保険診療も開始される予定です。

目次

「がんゲノム情報管理センター」開設――国立がん研究センター

日本でもがんの個別化医療(プレシジョンメディシン)がいよいよ本格的に動き始めました。

国立がん研究センターは、がんゲノム医療の新たな拠点として「がんゲノム情報管理センター」を6月1日に開設したと発表しました。

がんゲノム医療とは、患者さん一人ひとりのがんの原因を明らかにし、より適した治療薬を選択する次世代のがん治療です。

近年、遺伝子解析技術が進歩し、がんの原因となるさまざまな遺伝子変異が次々に発見されるようになりました。また、乳がんのHER-2遺伝子増幅(※1)、非小細胞肺がんのEGFR 変異(※2)など、遺伝子変異を持つ一部のがんに対して、分子標的薬(※3)の治療効果が高いこともわかってきました。

さらに、多数の遺伝子変異を短時間で網羅的に検出することができるようになりました。異なるがん種でも同じ遺伝子に変異がある場合や、同じ分子標的薬が有効な場合があることもわかってきました。こうしたことから、標準治療の効果がなくなったような患者さんのがんの遺伝子を調べ、患者さん一人ひとりのがん組織の遺伝子変異に合った薬剤を選択する治療が望まれていました。

※1 乳がん細胞の表面のヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)というたんぱく質の遺伝子が多くなっていることです。

※2 非小細胞肺がんの細胞表面の上皮成長因子受容体(EGFR)というたんぱく質の遺伝子が変異していることです。

※3 がん細胞で傷ついた遺伝子からつくられる、がん細胞の増殖する異常な性質の原因となっているタンパク質を攻撃する物質や抗体を、体の外から薬(分子標的薬)として投与することによって、正常細胞を傷つけないようにがんを治療する方法です。

保険診療としてのがんゲノム医療、来年度スタートへ

がんゲノム情報管理センターは、全国のがんゲノム医療中核拠点病院11施設(国立がんセンター中央病院、同東病院、北海道大学病院、東北大学病院、慶應義塾大学病院、東京大学医学部附属病院、名古屋大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院、岡山大学病院、九州大学病院)と、それぞれと連携する100病院から患者さんの遺伝子変異のデータなどを集めて解析し、患者さんごとに効きやすい最適な抗がん剤を見つけるなど、がんゲノム医療を推進していきます。

3月9日に閣議決定した、第3期がん対策推進基本計画の分野別施策で「がん医療の充実」すべきこととして、「がんの手術療法・放射線療法・薬物療法・免疫療法」、「チーム医療」、「がんのリハビリテーション」、「支持療法」、「希少がん・難治性がん」など10項目が示されました。その筆頭に挙げられているのが「がんゲノム医療」です。国は2019年度をめどに各中核病院などで保険診療としてがんのゲノム医療を開始する考えを示しています。

がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療連携病院の一覧表はこちら

がんゲノム情報管理センターの役割
(国立研究開発法人国立がん研究センターより)

CKDB:cancer knowledge database;がんゲノム医療に必要な知識データベース
エキスパートパネル:ゲノム解析の元データから医療に役立つ情報を引き出すためにさまざまな専門家が協議するしくみで、がんゲノム医療中核病院に設置される

がん関連遺伝子を網羅的に調べる遺伝子検査――国立がん研究センター中央病院

がん関連遺伝子パネル検査システムを用いた検査が、先進医療として4月1日に承認されました。

がん関連遺伝子パネル検査は、患者さん一人ひとりの微小ながん組織または血液から遺伝子情報を解析して、患者に最適な治療法を診断する遺伝子検査技術です。がん遺伝子パネルとは、がんの診療で重要な複数の遺伝子の変異などを同時に解析できる診断薬で、日本人に特徴的な遺伝子変異を適切に診断できるように設計されています。

国立がん研究センター中央病院では、先進医療研究の一環として「がん関連遺伝子パネル検査システム」を用いた網羅的遺伝子検査を4月9日から先進医療B(※4)として実施しています。

この検査で異常がわかる遺伝子は114個で、1回の検査でがんに関連する多くの遺伝子変異を調べることができます。同病院によると、遺伝子検査の結果、遺伝子に異常が見つからない場合や、異常が見つかっても治療に使用できる薬剤がない場合もあるといいます。

検査の対象になるのは、

  • 1. 16歳以上
  • 2. 全身状態が良好
  • 3. 病理学的診断によって悪性固形腫瘍と診断されている上
  • 4. 治癒切除不能または再発の病変を有する「標準治療がない、標準治療が終了している、もしくは終了が見込まれる固形がん」または「原発不明がん」

検査費用の患者さん負担額は約50万円です。

検査受付期間は2019年3月31日までの予定です。主治医と相談のうえ、問い合わせは、国立がん研究センター中央病院・相談支援センター(電話03-3547-5293:平日10時~16時)へ。

※4 先進医療B:先進医療制度における先進医療とは、効果・安全性などの評価が定まっていない新しい試験的な医療技術のうち、保険適用の対象にするかどうかの判断を下すための有効性・安全性の評価を行う医療技術として厚生労働省が指定したものです。効果・安全性が不明なことから、一部の医療機関でのみ実施が認められています。「先進医療B」では、公的医療保険が適用される医療と、保険適用の対象外の治療を共に実施すること(混合診療)が例外的に認められます。

ポイントまとめ

  • 国立がん研究センターが「がんゲノム情報管理センター」を2018年6月1日に開設。
    患者さん一人ひとりのがんの原因を明らかにし、より適した治療薬を選択するためのゲノム医療を新たな拠点で行っていく。
  • 国は2019年度を目途に各中核病院などで保険診療としてがんのゲノム医療を開始する考えを示している。がんゲノム情報管理センター、全国のがんゲノム医療中核拠点病院11施設、連携する100病院から患者さんの遺伝子変異のデータなどを集め解析、患者さんごとに効きやすい最適な抗がん剤を見つけるなど、がんゲノム医療を推進していく。
  • がん関連遺伝子パネル検査システムを用いた検査は、先進医療として2018年 4月1日に承認。パネル検査システムを用いた検査で異常がわかる遺伝子は114個、1回の検査でがんに関連する多くの遺伝子変異を調べることができる。

コラム:がんゲノム医療・プレシジョンメディシンとは?

がんゲノム医療・プレシジョンメディシンとは、遺伝子レベルでがんを解析し、そのがんにマッチした治療を行うという先端的ながん治療の考え方です。
抗がん剤には多くの種類がありますが、どの抗がん剤を使用するかは、がんの種類ごとに、これまでの平均的なデータを基に優先順位が決められるのが一般的です。しかし遺伝子レベルで見ると、がんの発症部位によって複雑な特徴があるため、他の治療薬で効果が見受けられる場合もあります。
がんゲノム医療・プレシジョンメディシンでは、がん検査や手術時に取り出したがんの組織を用いて(施設によっては血液検査でも可能)、一人ずつ異なるがんの原因遺伝子を見つけ、原因遺伝子を元にそれぞれの患者さんのがんにとって最適な治療薬を選択します。
現在は厚生労働省より指定されたがんゲノム医療中核拠点病院で条件を満たす対象者にはゲノム医療の保険診療が開始される予定で準備が進められています。

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