【最新医療 I 】ゲノム解析によるがん治療の最前線

公開日:2014年01月31日

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ゲノム解析が指し示す「新たながん治療の道標」

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 近年、ゲノム解析による、がんの原因解明や予防につながる研究の成果が続々と報告されています。「gene(遺伝子)」と集合体を表す「-ome」を組み合わせた言葉である「ゲノム(genome)」は、生物が持っているすべての遺伝子(遺伝情報)を意味します。

 1990年、アメリカを中心にイギリス、日本、フランス、ドイツなどの協力・連携のもとに取り組みがスタートした「ヒトゲノムプロジェクト」により、解析装置や手法の改良は急速に進歩しました。

開始当初は解析に際し、膨大な時間と費用がかかっていましたが、2003年、ヒトゲノムの全解読が完了し、同プロジェクトが一旦終了した後も個別の研究・開発は継続され、現在では、卓上型の装置を用いて、ごく短時間での解析が可能になっています。解析の費用も当初の1/100000程度まで下がっているそうです。

 こうした背景から、多くのゲノムデータが集積され、ゲノム解析によるがん治療の研究も急展開を遂げているというわけです。

国際共同プロジェクトで新たな発がん要因を発見!

 昨年の8月、独立行政法人国立がん研究センターが、がんゲノム研究の国際的な共同プロジェクトにて、新たな遺伝子変異のパターンを明らかにし、さらに、発がんの要因となる新たな遺伝子異常の発見にも成功したそうです。

 そもそも、がんとは遺伝子の病気であり、正常な遺伝子(DNA)に損傷(突然変異)が蓄積することで発症するというメカニズムは、これまでの研究で明らかにされてきました。一部のがんでは、発がん物質の暴露(喫煙によって発生する肺がん、紫外線の影響によって生じる皮膚がん)、もしくはDNAの修復系統の異常(ある種の大腸がん)がDNA変異の主な原因であることが明らかになっています。

 また、最新の高速シークエンサー(DNAの塩基配列を決定する装置)技術により、がんゲノムを1日ですべて解読したり、そこで起きている体細胞のすべての突然変異を同定することも可能になってきているといいます。

 こうした技術を背景に、今回の世界7ヵ国共同による国際研究では30種類のがんから収集した約7000例にもおよぶがんゲノムデータを網羅的に解析することで、20種類以上のがんの原因となる体細胞変異のパターンが発見されています。

 多くのがんの種類で、2つ以上のパターンの混在が見られ、最大で、肝臓がん、胃がん、子宮がんで6種類のパターンの混在が見られたそうです。さらに、既知のものではない新たな発がん要因として、APOBEC遺伝子群の異常によるものがあることをつきとめています。

 この研究結果により、発がん要因の異なるさまざまながんの体細胞突然変異のパターン分類が可能になったことで、各がんに対する発がん要因の推定が可能になっていくと考えられています。

国内初の大規模研究もすでに始まっている

 先述した、わが国の国立がん研究センターや、米国のMDアンダーソンがんセンターほか、がん治療におけるゲノム分野の世界的な権威による共同研究が進められる一方、日本の東北では「ゲノム情報に基づいた未来型医療の基盤づくり」が着々と進められています。

 それが、2012年2月、東北大学が発足した「メディカル・メガバンク機構」です。宮城県を主な事業拠点とし、未来型医療の構築を通して震災復興を目指す同機構。そのミッションは大きく「被災地の医療支援」「バイオバンク関係事業」「人材育成事業」の3つに分かれています。

 この中の「バイオバンク関係事業」では三世代、およそ15万人対するコホート調査において、同意を得た上で遺伝子解析が行われ、得られた医療情報ならびにゲノム情報をもとにバイオバンク(生体情報のデータベース)の設立が予定されています。

 予防医学の研究において欠かすことのできないバイオバンク。未来型医療に注目する各国が整備を進めている現在、充実したバイオバンクの構築は、遺伝子や環境が疾患に関係する仕組みの新たな研究を可能にすることで、これまで開発不可能とされていたがんなどの疾患に対する新たな治療法や予防法の発見にも大いに有効とされています。

 同事業では、バイオバンクとして集積された情報をデータベース化し、適切に管理・運営するとともに、新たな医療に結びつけるため、多くの研究者が活用できるよう公開していく予定になっています(昨年の時点で1000人分の全ゲノム解読を完了したとの報告があります)。

臨床現場にも遺伝子解析を用いた治療が登場

 このほか、すでに臨床の現場でがん治療に遺伝子解析が活用されている例に、厚生労働省が先進医療として指定している「抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査」があります。 この検査は、手術中に得られた組織などを遺伝子解析して抗がん剤耐性遺伝子を測定することで、腫瘍に対する抗がん剤の感受性を知ることができるというもの。この結果に基づいた抗がん剤の使用により、より高い効果が得られるとともに、不必要な副作用を避けることが可能となります。

 現在、受診が可能な医療機関は「名古屋大学医学部附属病院」「大分大学医学部附属病院」「千葉県がんセンター」など8ヵ所が厚生労働省のホームページで紹介されています。先進医療に関わる費用負担は4~5万円程度で、他の保険診療との併用(混合診療)も基本的に可能となっているようです。

 これまでの歴史から見た、ゲノム解析技術の急激な進化のスピードを考えたとき、がん治療が新たなステージを迎えるのは、そう遠くない未来なのかもしれません。

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