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【特集記事】 先生のご家族や知り合いの方が がんになったらどうしますか?XII
目次
大学病院でありながら、地域の病院としての役割も持つ大森病院
私の勤務している東邦大学医療センター大森病院の特徴は、大学病院でありながら地域の病院としても機能しているところです。急性期から慢性期、時に終末期まで幅広く診療しています。大きい病院にありがちな「治療する病院だから、治療が終わったら転院してください」といった対応が少なく、患者さんを最初から最後まで責任を持って見ていると感じます。私は大森病院のそういうところが好きですね。
患者さんにとっては、概ね付き合いやすい良い病院だと思います。緩和ケアセンターが設立したのは2009年4月で、今年で発足6年目を迎えました。
厚生労働省の資料によると、東京都のがん診療連携拠点病院24病院中で当院の緩和ケアチーム診療数は4位となっています。全国の緩和ケアチームの入院患者平均依頼件数は112.2件なのですが、当院では月平均にすると依頼件数はおおよそ23名程度で、平成22年が293件、去年が275件です。
去年から数字が落ち着き始めたのは、特に若手の先生が基本的な緩和ケアを行ってくれていることもあるでしょう。一般的な緩和ケアを多くの臨床医が行ってくれていることで、チームへの紹介が高難易度の事例に絞られてきたと解釈しています。
また、他職種との連携にも力を入れており、専門看護師、認定看護師、臨床心理士、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカー、麻酔科医や精神科医、リハビリテーション医などと協力し、週に1回はカンファレンスを持ち、患者さんを多面的に診ていくようにしています。
さらに、どのような医療に調整すれば患者さんにとって生活しやすくなるのか、家に帰りやすくなるのか等についても、スタッフと十分話し合って患者さんの希望になるべく沿えるようにしています。病院の医師が在宅医療・ケアの実際をあまり知らないと、家に帰してしまうと具合が悪くなるのではないかと心配してしまう場合があるのですが、それは事実ではなく、在宅医療でできることはたくさんあります。
また、むしろ必要最小限の治療に調整することで苦痛が緩和されたり、予想よりも長く生きられるケースも少なくありません。例えば点滴が多すぎてむくみがひどくなっている場合などは、24時間の点滴を止めて、必要な時に在宅の先生が行うようにしたら、本人は点滴から解放されてすごく楽になるだけでなく、むくみも改善することがあるのです。
医療行為が多いから、あるいは病院だから、一番苦痛が少なく長生きできる、というわけではないのです。本人の希望を大切にしながら、最良のQOL(生活の質)が保てるように調整・支援をしています。
大津先生が所属する緩和ケアチーム 写真の中央が大津先生、多職種が連携して多面的なケアを目指す。
痛みだけでなく、精神的・社会的な問題へのニーズにも応えていく
当院で行っている緩和ケアは、基本的には痛みの緩和と、痛み以外の身体症状(だるさ、食欲不振、吐き気、息苦しさ、腹水など)の緩和が多くを占めます。痛みや身体症状はそれらを緩和する標準的な薬剤を用いて治療しています。
基本的な身体症状緩和が充実している病院では相対的に、精神的苦痛に関するチーム依頼の比重が大きくなります。当院では、治療自体に対する不安や、療養をどこで行うかといった場所の疑問など、患者さんの精神的・社会的な問題に関する様々なニーズに応えられるようになっています。
在宅への移行に関しては、地域連携センターがその役割を担っていますが、緩和ケアセンターも地域連携センターと週1回カンファレンスを行っています。痛みなどの症状が和らいで、不安が解消されれば、家に帰りたい、希望のホスピスに移りたいと願う患者さんは多くいらっしゃいます。
認知度が上がってきた緩和ケアという考え方
当院では「臨床」と「教育」といった観点から正しい緩和ケアの認知度向上に取り組んでいます。臨床に関しては、緩和ケアチームの早期介入にいかにつなげるかという観点で活動しています。各病棟との定期的なカンファレンスやがん相談チームとの連携などを行っています。
緩和ケアチームの利点は、主治医や病棟のスタッフとはまた異なった視点から、患者さんの問題を捉え、解決策を提案するところにあります。全体を俯瞰し、また経過の時間的な変化を念頭に入れながら、最良の方策を提案することもそうです。
緩和ケアチームは時に、まだ表現されていなかった患者さんのニーズをくみ上げて、病棟スタッフや主治医に解決策の提案をしていきます。高度進行がんの治療においては、患者さん、ご家族、医療者それぞれに思いがずれることはよく経験されます。
また医療者も医師ごとに、あるいは医師と看護師が、あるいは看護師同士でも、「何が患者さんにとって最良なのか」という意見が食い違うことはよくあります。それぞれの視点で最良を考えるため、むしろ違いが生じるのが当たり前なのです。
この必ず起こり得る意見の異なりを、医療職全体がチームとして上手に調整し、「患者さんにとって何が最良なのか」という問いを繰り返し行い、相談して結論に至ることが重要です。緩和ケアチームはその調整役とも言えるでしょう。
また、教育という観点では、地域向けに多職種緩和ケア講習会を開催したり、院内独自でがん看護研修を実施しています。多職種緩和ケア講習会は2年で1000名以上の参加者があり、現在も連続開催しています。
緩和ケアの概論から始まり、疼痛や呼吸器症状、消化器症状、精神症状などについて数回に分けて講義をしています。ここには、医師、看護師、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカー、医学生など様々な方たちが参加してくれています。患者さん自身が参加されたこともあってその方は「こんなに色々手段があるなんて知らなかった。安心できるね」とおっしゃっていました。
看護師向けの研修はがんに関する認定看護師、専門看護師といった有資格者が企画し、運営しています。緩和ケアはその名の通り「ケア」であり、適切に薬剤を使用すればそれで良いというものではありません。
まず患者さんのお話を時間としてもっとも長く聴く立場の一つが、看護師でしょう。看護師が患者さんの問題を傾聴を通してどう引き出し、どう医師に伝えるか、それで患者さんの緩和ケアの質は大きく変わります。
また医師にはなかなか本音を言えない患者さんもいます。看護師には本当のつらさを吐露するのです。ゆえに看護師が、どのようなことが苦痛緩和で可能なのか、薬剤としてはどうか、ケアとしてはどうか、そのような知識があれば、的確な初期対応や医師を通した適切な対応が迅速になされるところにつながってきます。
また看護師や医師が緩和ケアの必要性を上手に説明できることは、緩和ケアチームがスムースに関与するうえでも重要です。実際に緩和ケアチームが患者さんに会いに行くと、着任当初は「私はそんな段階じゃない」といったリアクションも多かったのですが、いまでは事前の説明のおかげで「担当の先生、看護師さんから聞いています。宜しくお願いします」といった反応に変わってきています。
私が着任してから5年目になりますが、医療者だけでなく、患者さんの意識も変わったと感じています。この前も患者さん側から緩和ケアを希望する事例がありました。がんを患った50代の女性が、治療が終わったあとに再発などの不安が消えないので話を聞いてもらいたいと相談にきました。その女性は主治医や旦那さんにも相談したようなのですが、治療は終わっているので、緩和の段階じゃないよと言われてしまったそうです。しかし、本人が緩和ケアは病気の段階によらず苦痛がある人を和らげるものだからと説き伏せて相談をしにきたという流れでした。
本人がそれだけの熱意を持ってつながった事例になりました。「意識が高い患者さんやご家族は、緩和ケアを使いこなす」、そういう時代になってきたなという印象です。知って行動している人が確実に得をしているとも言えるでしょう。
大津先生は、日本バプテスト病院ホスピス科にお勤めでしたが、どのような特徴がありましたか。
私が勤めていたところは、日本バプテスト病院というキリスト教の中でもプロテスタントのバプテスト派という宗派の設立した病院でした。バプテスト病院には牧師室が設けられており、そこに病院に常駐しているチャプレンと呼ばれる牧師や音楽療法士がいました。
牧師室の役割は、主には礼拝や病棟の訪問です。訪問の対象となる患者さんは特にクリスチャンである必要はなく、いままで宗教とは関わりを持たなかった方も、牧師の話を聞くことはできます。牧師は医師とは違った観点で話をしますので、心に響くところがあるようです。このような医療と宗教の連携は、キリスト教だけでなく、仏教の僧侶も行っている方がいらっしゃいます。
東北大学などでは臨床宗教師の育成を始めています。臨床の現場に適切な研修や教育を受けた宗教家が来て話をする、あるいはケアをする、これは良いことだと思います。終末期になると人は「なぜ生きるのか」「生きる意味はあるのか」「死んだらどうなるのか」など医療者ではしばしば答え難い問いをなされることもあります。宗教家の方々にもぜひ不治の病や終末期で悩める方々の傍にあってほしいと願います。
先生のご家族や知り合いの方ががんになったら、どのような病院を紹介しますか。
私には、非常に信頼している在宅医療のスペシャリストの先生がいます。緩和ケアと、在宅というそれぞれの専門分野で連携しながら2年間一緒に仕事をしていました。その時に非常に多くのことを学ばせてもらいました。そして先生も緩和ケアのことを非常によく理解されており、2年後には「在宅+緩和」という最強の組み合わせのスキルを持つ先生になっておられました。
家族や友人ががんになった場合には、必要な際はぜひとも先生のような優れた在宅医の関与をお願いしたい(あるいは家族や友人に勧めたい)と思います。もし私自身ががんになった場合でも、診てもらおうと思っています(笑)。最後は在宅で看取られたいと思いますが、在宅で大切なのは介護力です。その時に家族に力があれば在宅を希望しますし、難しいようであれば、早めにホスピスに連絡を取るかもしれません。
在宅の先生は外来を行っていることもあります。お近くの、そのような先生を探してみると良いでしょう。病院は患者さんがその機関に合わせることになる場合も多いですが、在宅の場合は医療が患者さんに上手に合わせます。在宅を一生懸命やっていらっしゃる先生は、とりわけQOL(生活の質)に配慮した医療を行っている方が多いです。患者さんにとって非常に利点になることでしょう。
実際に緩和ケアを利用された患者さんの声を例にとると、「医師に話し合う時間を取ってもらい、自由に話すことで、不安が解消され楽になった」と言われることが多いです。私たち緩和ケアチームも話をしに行くだけで喜んでもらえることもあります。
患者さんは、医療的なことだけではなく、生活上のことを気にされていると感じます。食生活のこと、仕事のこと、同じ症状の人はどういうことを考えて生活しているのかなど。聞きたくても聞けないことを多く持っていらっしゃいます。外来で忙しそうな主治医の先生を前にして、他の患者さんも待っているし、時間をとって話すのは悪いなとも感じています。再発がん、進行がんの方は不安に思っていることがあるならば、ぜひ緩和ケアも利用することを検討してみたら良いと思います。
取材にご協力いただいたドクター
大津 秀一 先生
東邦大学医療センター大森病院
緩和ケアセンター
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