【特集記事】 先生のご家族や知り合いの方が がんになったらどうしますか?X

公開日:2014年03月31日

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妻が、がんにかかったら、私は夫の立場で妻を支えます。

 「私の家族ががんになったらどうしますか?」ということですが、家族の立場と、医師の立場を同時にこなすのは難しいと考えています。家族として主観的な立場にいるなかで、医師として客観的な判断を下すのはとても難しいとことだと思います。

 例えば、自分の妻が、がんにかかって「なんとかして」と言われても二人きりだったら、精神的なことやスピリチュアルなことなどで煮詰まってしまう可能性があります。家族という立場の人間の客観的な判断が、時に家族との対立を生んでしまったり、冷たいとして見られてしまうこともあるでしょう。第三者としての客観的な立場の方がいることで、受け入れられることもあるでしょう。

 自分の妻ががんにかかったら、医師ではなく夫の立場として、信頼できる先生に治療を託すと思います。妻を精神的に支えて、医師との信頼関係のその中で「自分も医者をやっていたが、妻にはこうしてあげたいのです」と相談する立場になりたいと思います。

 また、病院の選択に関しては、がんの進行具合や治療選択にもよりますが、治療の初期段階から緩和ケアを導入している病院、たとえばいま勤務している井田病院などを第一候補として考えるでしょう。

緩和ケアを正しく理解してほしい。

 一般的にがん治療をしている方の苦痛は4つあるといわれています。身体的苦痛、社会的苦痛、精神的苦痛、スピリチュアルな苦痛です。これらを総合して全人的苦痛(トータルペイン)といったりします。身体的に苦痛を感じるから、精神的にも負担になって生きている意味がないと思ったりする場合もあります。

 また、精神的苦痛とスピリチュアルな苦痛をぱっと分けられるものでもありません。緩和ケアでは、それぞれの痛みを多面的にみながら、治療をしていきます。

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 緩和ケアをよく知らない方たちは「治療選択がなくなったから緩和ケアにいく」といったイメージを口にされます。しかし、こういった考え方は実態とは異なっています。緩和ケアは治療が無くなったからするのではなく、治療初期から導入を考えるべき選択肢の一つです。ここの井田病院でも、ケースによっては内科や泌尿器科、乳腺科などと一緒になって緩和ケア医が診療を担当しています。

 治療選択をめぐって、主治医と患者さんのコミュニケーションがうまくいかない時などは、緩和ケア医が間に入って隙間を埋める役割をしています。患者さんはがんになってとても不安です。治療のプロである医師が正しいことを言っていたとしても、それを理解して受け止めるまでには時間がかかる場合も多くあります。

 緩和ケアの効果は、実際のデータでも示されています。アメリカの医学誌に掲載された※論文によると、肺がんの患者さんに対して行った研究で、治療の初期から緩和ケアを実施すると、患者さんのQOL(生活の質)が向上して延命効果もあったという結果が示されています。

※ニューイングランドジャーナル紙
Early Palliative Care for Patients with Metastatic Non–Small-Cell Lung Cancer 【N Engl J Med 2010; 363:733-742】(PDF:396KB)

 全国的には緩和ケア医が不足していて、患者さんのメンタル的なケアをできていないという指摘があります。しかし緩和ケアは、緩和ケア医だけが担う特殊なものではなく、全ての医師が身につけるべき基本的技能です。

 その中でも、家庭医といわれる先生たちに、緩和ケアの考え方と役割を担ってもらいたいと期待しています。子供の頃から見てもらっていた、プライベートも含めた自分のことをよく知る先生に、人生における大切な治療選択を一緒に考えてもらうことで、不安も解消するケースがあるのです。

 私は、患者さんの精神的苦痛を含めたケアを行う緩和ケアという考え方を、もっと多くの医療者、患者さんに伝えられるように啓発活動をしていきたいと思っています。

 私は、いままでのがん治療に対する考え方として、少し改めなければいけない点があると思っています。風邪に対しては風邪薬を出すように、「そこにがんがあるからとにかく治療する」といった考え方では目標設定の仕方に問題があると思います。

 がんは全てが根治するとは限りません。転移・再発をした多くの固形がんでは、抗がん剤のみでは残念ながら「治る」ことは難しいと言わざるを得ません。治らない、ということは延命が主たる治療の目標となるのですが、延長された時間で何をしたいか、なんのために治療をするのか、治ることは難しい、ということを前提としながら、どう生きたいかということを考える必要があると思っています。

延命治療の意味を説明して、生きる意味は一緒に考えます。

 一昔前は「抗がん剤で治しましょう」や「抗がん剤で良くなったら手術をしましょう」、と誤解を生むような説明をしてしまう医師がいたようです。実際には根治という意味で治る可能性は低いのだけど、少ない根治の確率からそういった言葉がでてきてしまったのでしょう。

 しかし、医学的な内容を知らない患者さんはその時点で、根治を目的とした治療が生きる希望になってしまう場合があるのです。そうすると、残されている時間の使い方もがんを治すことが最優先になってしまい、自分の生きる意味を考えずに時間が過ぎてしまいます。場合によっては、抗がん剤治療によって延命はしたが根治せずに、「使える抗がん剤は全種類使ってしまいました。

 この病院には緩和ケア病棟がないので、地元に戻ってゆっくりしてください。」また、「他院の予約待ちをして下さい。」などと言われてしまうのです。これでは患者さんは話が違うし、主治医から見捨てられたと感じるでしょう。いわゆるがん難民と呼ばれる状態になってしまいます。

 私の所には主治医から「緩和ケアしかないよ。」といわれて来る患者さんが多いです。しかし、緩和ケアに来てしまったという悲観的な気持ちよりも、どこにも行き場所が無くなるといった不安が解消され、安堵の表情で訪れる方が多いのも事実です。当院では、初回の抗がん剤をはじめるときなどは1時間~1時間半くらいの時間をとって説明・相談をしています。抗がん剤の説明に半分、生き方、職業、家族のことについてお伺いするのが半分くらいです。

 私は抗がん剤治療をする際に、患者さんに、「この治療は延命治療が目的です」と伝えることが大切だと考えています。そして、「生命の時間が延びるということにどういう意味を持ちますか?」と尋ねます。

 例えば、年齢が80歳の方で「もう十分に生きました。これ以上、辛い抗がん剤治療をしたくありません。」といって抗がん剤治療を望まない方もいらっしゃいます。しかし、一方では「1年後に息子の結婚式があるのでそれまでは生きていたい」、「子どもが大学を卒業し社会に出るまでは生きていたい」などの、それぞれの生きている意味をはっきりと伝えて下さる方もいらっしゃいます。

 残された時間を意識しながら、自身の生きる意味を考えていくことが大切だと感じています。人によって幸福が何かは違います。緩和ケア医の役割は患者さんと一緒になって治療をしながら、生きる意味を探ってていくことです。

 私は他の先生が主治医で、自分が緩和ケアだけを担当している場合も抗がん剤治療の意味を説明するようにしています。また何よりも重要なのは、緩和ケアが治療の最初、診断や告知の時点から行われることだと考えています。

地域の患者さん同士で支え合う場所を作る。

 私はいま地域でがん患者さんを支える活動を広げようしています。もともと、順天堂大学の樋野興夫先生が始められた「がん哲学外来」に出会ったことをきっかけに、地元の元住吉のカフェを借りて「モトスミがん哲学カフェ」を定期的に開かせて頂いています。

 1日2~3組、各組1時間程度、がんの専門医師とがん看護専門看護師が、がんに関する相談を受け付けています。参加頂ける方はがん患者さんか、がん患者さんを支えるご家族の方です。こういった取り組みをすることで、治療に対する不安や、生きる意味をもっと考えられる機会になったらよいと思っています。

 主治医の先生にはなかなか聞きづらいこと、不安で夜も眠れないことを吐露したり、経済的な面の話など、カフェのくつろいだ雰囲気の中でざっくばらんに話をします。こういった、がん患者さんの心理的な負担などを地域の中で支える仕組みがもっと必要だと思います。

緩和ケアも効果ある治療方法の一つ

 がん難民になってしまうと、様々な病院やクリニックを転々とします。良い治療を見つけられずに時間が過ぎて、ボロボロになって、ようやく緩和ケアにたどりつく人がかなりの数いらっしゃいます。ボロボロになる前に緩和ケア医と出会えば、代替医療をやってみるとしても、医療的なリスクについても相談できるし、バックアップ体制が断然違ってきます。中には「がんと戦うことが人生の目標なのです」という人もいますが、そういった場合でも、その人の気持ちに寄り添って話を聞きながら付き合っていきます。

 医療のプロとして効果などに関するコメントはしますが、代替医療を認めないというスタイルはとりません。また、本人は治療に熱心になっているが、家族が疲弊してしまっているケースもあります。奥さんの方から経済的な心配を相談してくるケースです。

 しかし、奥さんからがん患者の旦那さんにそれを伝えるわけにはいきません。家族同士の対立を生んでしまいます。そういった事例でも、家族をまるごとみていくということが緩和ケア医としての自分の仕事だと思っています。是非、緩和ケアの効果を知ってもらって、早期からの緩和ケアの事例が増えて患者さんの負担が減ることを望んでいます。

取材にご協力いただいたドクター

西 智弘先生

川崎市立井田病院
かわさき総合ケアセンター
副医長

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