選択肢が豊富な大腸がん治療 全人的な視点で判断を

公開日:2011年09月01日

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大腸がんの動向

最新の我が国のがん種別死亡者数統計において大腸がんは第3位に位置しています。その数は近年増加の一歩を辿っており、近い将来第2位の胃がん、第1位の肺がんを上回ると予想されています。原因は現代人の高脂肪食の増加、食物繊維摂取の不足にあると言われていますが、日本全体の生活習慣の変化に伴うものであり、この傾向は今後も続くだろうと思われます。

さらに大腸内視鏡検査は苦痛を伴うイメージがあるとともに下剤内服など検査準備に時間がかかることなどから、多くの方が気軽に受けられるというまでには普及していません。

また腫瘍が大きく育つまで症状として表れにくいことから、早期発見に至るケースはまだまだ少ないのが現状です。

手術の適応範囲が広い大腸がん

大腸がんの治療は切除が第一です。従来通りの開腹手術が現在でも基本ですが、早期がんに対する内視鏡的切除、また腹腔鏡手術も目覚ましく進歩しています。

大腸がんが他の消化器がんと大きく異なる点は、たとえ遠隔転移があったとしても手術の適応となるということです。転移巣が切除可能であれば切除することにより治癒の可能性があるためです。たとえば、肝転移や肺転移が認められたとしても数が少なく切除が可能であると判断されれば、積極的に手術を行う施設は多くあります。さらには局所進行もしくは遠隔転移のため切除不可能と考えられる症例でも、術前放射線療法や術前化学療法を行うことで切除可能となるケースがあります。

しかしながら、すべての施設でこういう教科書通りの治療が行われてはいないのが現状です。呼吸器外科がいない、肝臓切除のリスクに対し躊躇してしまう等の理由で回避されるケースもあります。また、外科医は、バックアップ体制の整わない状況でリスクの高い治療法を選択することは避けたいという心理がありますし、患者さんに対する侵襲の大きさを考慮し躊躇するというケースもあると思います。そういうケースでは他施設へ紹介やセカンドオピニオン受診等で治療法の検討を求めることも必要です。主治医とよく相談していただくことをお勧めします。

局所進行症例・遠隔転移症例に対する術前化学療法・放射線療法に関しては現在のところいまだ確立されたと言える状況ではありませんが、有効であった症例が学会発表や論文で多く報告されています。実際私も肝転移が縮小して切除の適応になった方を経験しました。また大腸がんの膀胱浸潤に対し膀胱全摘尿路変更術を予定されていた方が術前化学療法後に膀胱の部分切除のみで切除が可能となり、また病理組織検査では膀胱浸潤部のがん細胞はすでに壊死していたという経験があります。

術前放射線治療に関しては、特に直腸がんに対する局所進行例において積極的に行っている施設があります。人工肛門を回避できる可能性や術後の再発率低下、排便排尿障害などの術後障害の低減などを目標に行われています。

選択肢が豊富な大腸がんの化学療法

大腸がんは他の消化器がんと比較して化学療法の選択肢が多いということも特徴の一つです。治療効果も最近十年ほどで大きく飛躍しました。分子標的治療薬の開発もこの飛躍に大きく寄与しています。現在では外来通院で行えるような方法も増えてきており、各施設も外来化学療法の充実を図っています。

多くの臨床試験が行われ、薬を様々に組み合わせることでより効果の高い方法、より簡便な方法やそれらを同時に満たす方法など選択肢はさらに増えつつあります。

まだ始まったばかりですが、遺伝子検査により抗がん剤の効果予測や副作用予測なども一部行えるようになってきました。今後この分野の発展により、患者さん一人一人個別により効果的な方法が選択できるようになることが期待されます。

しかしながら現時点で化学療法による副作用は避けがたいものです。なぜならがん細胞も人間の一部であり生きた細胞であるため、がん細胞を攻撃する薬は生体の正常な細胞にも攻撃力を有するためです。多くの抗がん剤はがん細胞と正常の細胞の違いに目を向け、そこに効果を発揮し、なるべく正常の細胞が傷つけられないようにデザインされています。しかし、それぞれに程度の差はあるものの正常の細胞もある程度障害を受け、副作用が起こります。

私も外科医として手術のみならず、多くの化学療法を行ってきました。長期間に渡り化学療法を続けた方々も多くいますし、副作用のため標準的な治療法が続けられない方や辛い副作用はほとんどないにもかかわらず劇的な効果があった方など多くの経験をさせていただきました。その経験から私が感じることは、がん治療とはもちろん効果を追い求める治療ですが、やはり患者さん一人一人の副作用や苦痛とのバランスを考えるべきだということです。幸い選択肢は増えてきています。化学療法を受けられる方々が、よりご自身に合う治療法を受けられるようになることを願います。

全人的に視点を据えて考えるがん治療

がん治療を受ける多くの患者さんは、治療効果という利益を得るために、治療に伴う苦痛や副作用以外にも、社会生活の制限、経済的負担などという不利益を同時に引き受けざるを得ません。また長い治療期間の中では、精神的肉体的葛藤や患者さん自身の優先順位の変化、環境の変化なども起こり得ます。そのためがん治療においては患者・医療従事者ともに、しっかりとした信頼関係を築いた上で、病気に対する治療効果だけに目を向けるのではなく、生活の質を含め全人的に視点を置くべきと考えます。

また医療従事者が根拠に基づく正しい知識と技術を提供していくことは当然の前提です。しかし偏狭になりすぎず、広い視野で様々な選択肢を探る姿勢もまた大事だと考えます。患者さんも多くの情報の中、自分に合った治療法を自ら選択していくことも考えていただきたいと思います。

取材にご協力いただいたドクター

医療法人社団 ミッドタウンクリニック ミッドタウンクリニック 消化器科 医師  山本 哲朗 先生

1996年 筑波大学医学専門学群卒業。順天堂大学外科、大腸肛門外科、東京臨海病院外科、三郷中央総合病院外科を経て、2011年4月東京ミッドタウンクリニック常勤医師として勤務。
日本がん治療認定医機構認定医、日本外科学会認定医・専門医
日本消化器内視鏡学会指導医

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