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【特集記事】肝臓がん領域における再発の治療
目次
肝臓がんにおける再発・転移になった場合、治療法にはどのようなものがありますか。
肝臓がんの再発の場合、基本的には抗がん剤治療、あるいは免疫療法が主たる選択肢になってきます。ある種の再発の場合には、手術で切除することによって良い形の延命(QOLを保った状態で生存期間が延びるという意味です。)につながる場合もあります。再発したらすぐに抗がん剤治療や免疫療法と判断をする前に、手術の可能性は十分に追及して欲しいと思っています。
再発といっても様々な種類があります。中には治療によって非常に高い効果をあげるものも存在しています。がん種に精通した専門医などによく相談することが大切でしょう。特に肝臓がん、あるいは大腸がんの肝臓転移の場合には、手術が貢献できる場合が症例としてはかなり存在しているでしょう。あきらめないで治療をしていくことが大切です。
患者さんにとっては、最初の診断をするドクターというのは非常に大切になってきますね。たとえば野球で例えますと、先発ピッチャーが多く失点をしてしまっては、試合の前半で勝負あったということになるでしょう。後のピッチャーががんばっても、とられてしまった点数を減らすことができません。先発の治療をどういった戦略で決定するのか。かかりつけの医師や最初の医者の役割って非常に大きいと思います。
患者さんがどうやって良い医師を見つけたらよいかということですが、たとえば週刊誌・メディアの情報がすごく正しいかといえば、やっぱりそこは必ずしも100%信用できないでしょう。週刊誌などで、「なんとかの名医!」というような特集があるかと思いますが、僕も掲載された経験があるのですけれど、僕の専門領域ではない所に名前が掲載されました。そのように間違った情報もけっこうあると思います。週刊誌とかメディアの情報というのは、盲目的に信じたら落とし穴があるっていうことです。私は、病院のホームページとか見るのは非常に有効だと思っています。ホームページにしっかりと治療成績を掲載している病院は、それなりの信頼感が担保されていると思います。ただ良さそうな言葉だけを並べるだけでは、作文と変わりませんから、実質的な情報提供(治療成績など)がなされている病院が良いでしょう。患者さんも情報のリテラシーを上げていくことが大切ですね。
肝臓がんの領域で新しく使われている治療法にはどのようなものがありますか。
肝臓がんの領域では、やはり分子標的薬という従来の抗がん剤とは違う新しい考え方の治療薬です。肝臓がんの領域ではソラフェニブというお薬に効果が認められています。従来8ヶ月の生存期間が11ヶ月まで延びたという、そういうレベルでの効果が認められています。また、副作用もそれなりにありますから夢のようなお薬ではないのですが、それでも余命わずかな人にとってみれば、3ヶ月延びるというのは非常に価値のあることです。
また、分子標的治療薬と他の薬を組み合わせることによって、新たに治療効果が認められる可能性もでてきました。治療法の選択肢が一種類加わることによって、従来型の治療と組み合わせで、非常にバリエーションが増えてきます。具体的には他の抗がん剤と一緒に併用したり、肝動脈塞栓療法と一緒にしたり、場合によっては切除と一緒する場合もあるでしょう。この組み合わせの効果の検証については、一生懸命調査を行っているところです。学会などたくさん発表されてきています。分子標的薬の領域というのは間違いなく進歩するでしょう。最近では、膵臓がんの領域でもエルロチニブという分子標的治療薬が保険の適用となりました。こちらは二週間の延命効果が認められています。
患者さんからの期待と誤解が混ざって、「保険がきかなくても良いので、最高の薬を使ってください」というようなことを言われる場合が多くあります。日本の医療システムでは、基本的には保険診療で使用できる薬は非常によい効果が保証されています。保険に通っていない薬というのは、エビデンス(治療効果の検証)のない薬です。たとえば民間療法は保険収載されません。
先鋭的な薬で欧米などでは使用でいるけれども、日本では今後保険収載されるものというドラッグラグの問題もあるので、良い治療になる可能性を持ったものから、とんでもないまやかしのものまで非常に雑多に存在しています。本当に藁をもすがる気持ちで仰っているのはよく理解できますが、エビデンスがない薬というのは、効くという保証がない場合がほとんどです。患者さんの気持ちを変な形で利用しているという場合もあるわけで、キチンと理解するように注意しないといけません。
免疫療法への要望が増えています。
患者さんからの要望で、免疫療法が日増しに増えています。効果のある治療法が残っている時には、患者さん肉体的にも、精神的にもがんばって治療をします。けれども選択肢が無くなってくると、その時のひとつの支えに免疫療法があると思います。免疫療法に対する期待というのは患者さんもそうですが、医学会からも高い期待を持たれています。免疫に関する領域が学問や治療技術としても十分に発達していないので、日々進歩を続けている状態です。しかし、絶対に伸びていく分野だと思います。
患者さんの気持ちとしては、効果のある治療の選択肢が無くなってしまった後は、エビデンスがでていないかもしれないけど、やりたいっていう気持ちがあると思います。医者側としては免疫療法という治療方法がどのようなもので、今どういう効果のレベルまできているかっていうところをちゃんと丁寧に説明する必要があるでしょう。その上で納得されて治療を選択することが大切だと思います。
インフォームドコンセントと医師と患者のコミュニケーション
たとえば誰かと夕食を食べに行くとします。その時は、日本料理にしようか、フランス料理にしようか、中華にしようかと選ぶわけです。それは、どのような料理かをしっているわけなので、選択するのは難しいことではありません。ところが、こんな専門的なことで、どういう治療をしますかと患者さんに聞いたところで、適切な判断ができるわけではありません。
医者が十分に説明をして、患者さんからの問いもあって、話し合いをキチンと済ませた後に治療方針を決定することが大切です。ただ昔みたいに「先生が一番良いと思ったものをやってください。全部お任せします」というのも問題だとは思いますが、信頼できる医師ならば、まだそれの方がいいでしょう。インフォームドコンセントという言葉が使われて何年もたちますが、医師はできる限り正確な情報を患者さんに伝えて、患者さんもできるだけ正確な情報をしっかり理解して、医師と患者で話し合いながら、いい着地点を見つけるというのが、医者と患者で話し合った正しい治療方針の決定・インフォームドコンセントです。そして医師はもう一歩踏み込んで、「私はこれを推奨します」とそこまで伝えることも大切だと思います。選択肢だけを与えてあとはあなたが決めて下さいというのも、難しいでしょう。
たとえばこの治療法だったら確率は成功の80%ありますよ、この治療法だったら50%ですよ。といったら80%を選ぶと思うんだけど、でもその裏にはこちら側は副作用があるかもしれないし、逆に平均は80%かもしれませんが、他のリスクもあるといった場合には、非常に複雑な要素を全部引っくるめて総合判断することが必要になってきます。生存期間が短いとされているけれども、その間できるだけ良いQOLをとりたいという方もいるでしょう。多少苦しくても、治療を長く続けてがんばりたいという方もいるでしょう。患者さんの生き方や考え方が非常に大切な意思決定の要素になってくるわけです。
医師の側の話になりますが、個別化医療や治療ガイドラインといったものが、医療界では言われています。患者さんも治療のガイドラインなどの言葉は聞いたことがあると思います。個別化医療というのはオーダーメイド医療という意味で、ガイドラインは標準治療という意味です。ある意味矛盾している所があります。
あるべき姿というのは、ガイドラインの標準治療をしっかり理解した上で、目の前の患者さんを個別的に診ていくことが重要だと思っています。100人の患者さんがいたら、100通りの治療法があるのです。私の経験でも本当に一人一人全然違った治療になっていきます。私は血液データと画像だけで判断するといったことはしません。医者が忙しいという理由で、患者さんを診に行かないというのは良くないでしょう。昨日までベッドで横になっている時間が多かった方が、今日行ったらメガネをかけて新聞を読んでいたなんてことがあります。血液などのデータというのはタイムラグがありますが、患者さんがメガネをかけたというのはリアルタイム。
そのあとでデータが追いついてくることはよくあることです。そのときの患者さんの雰囲気や、新聞を集中して読むなどの客観的な事実が出てきたら良い方向へ向かっていることが分かります。臨床という言葉はベッドサイドという意味です。要するに、患者を実際にしっかりと診るということが大切です。患者さんからの言葉も聞くことができます。コミュニケーションも生まれるでしょう。
患者さんが戦う限り、医者の姿勢としも諦めません。
患者さんに戦う意思がある限りは、医者としても全力でサポートすることが務めだと思っています。患者さんが本当に納得して、身体に負担のかかる治療をやめて、緩和ケアをメインの選択肢として選んだとしたら、医師としても一気に方針を変えて、楽にしてもらうことが大切だと思います。そこのぎりぎりのところまでは諦めません。
最後まで諦めるなっていうのもだめで、可能性のあるぎりぎりのところで、ここで諦めたらすぱっと治療方針を変えてとにかく苦しみを与えないという緩和のほうに切り替えるべきでしょう。ところがしばしばあるのは、早め早めに緩和にもっていこうとする傾向がなきにしもあらずと、これは医者によるけどね。患者さんには一人一人違うから難しいですね。
病気と闘っている患者さんに気安く諦めないでとかなかなか言えません。やはり、家族の方達などの、周りのサポートが非常に大切だと感じています。患者さんの気持ちの源、生きる力が湧いて出るのは家族というか一番大切の肉体的・精神的含めてトータルなサポートでしょう。
取材にご協力いただいたドクター

東京医科歯科大学医学部附属病院 有井 滋樹教授 日本外科学会代議員、日本肝臓学会理事、日本消化器外科学会評議員、日本癌学会評議員、日本消化器病学会財団評議員、日本肝胆膵外科学会評議員、日本臨床外科学会評議員、日本再生医療学会評議員、日本肝癌研究会幹事、サイトプロテクション研究会幹事、外科遺伝子治療研究会世話人、肝類洞壁研究会世話人、日本急性肝不全研究会幹事、東京消化器手術懇話会世話人、肝血流動態イメージ研究会世話人、日本癌病態治療研究会世話人、日本消化器病学会関東支部会評議委員、日本消化器画像診断研究会世話人など International college of Surgeons; Japanese Section 理事
1973年京都大学医学部卒業 同第1外科入局(本庄一夫教授)
1975年村上記念病院外科
1979年京都大学大学院博士課程 入学
1982年8月京都大学医学部第1外科 助手
1984年8月米国ニューヨーク州立ローゼルパークメモリアル研究所留学
(Dept of Diagnostic immunology and Biochemistry)
1985年12月帰国 京都大学医学部第1外科 助手に復職
1993年5月同講師
1998年7月同助教授
2000年4月東京医科歯科大学大学院 分子外科治療学分野 肝胆膵外科 教授
2004年4月独立法人化に伴い分野の名称が分子外科治療学分野から肝胆膵・総合外科に変更,輸血部長併任(~2011年8月31日)現在に至る
2000年1月東京医科歯科大学医学部附属病院 病院長補佐 兼任
2010年4月同 副病院長 兼任(~2011年12月31日)
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