【特集記事】乳がん治療の研究によって、がん治療が進む

公開日:2012年06月01日

目次

新しい治療法への期待

これまでに数多くの新しい治療法が研究されてきました。現在でも、外科手術がその中心で、治療効果はここ20年ほど大きな進展はありません。そして先ほどもお話したような診断の向上と、早期のがんの人が増えてきたことにより治療成績は向上しています。体にやさしい低侵襲手術の発達により、リスクの高い人も安全に手術が受けられるようになりました。我々大病院のようなところでは逆に、進行した難しいケースを扱うことが多く、低侵襲手術はここでも患者さんの負担を軽くして大変有効な治療となります。抗がん剤を手術と組み合わせることもよくあります。従来は補助化学療法といって、手術でがんを切除した後に抗がん剤を補助的に効かせていました。新しい別の方法で、ネオアジュバントあるいは導入化学療法というものもあります。まず抗がん剤を使ってがんを小さくしておき、その後手術でがんを取り除きます。この方法は治療も難しく、リスクが高いので、我々は低侵襲手術と組み合わせる研究も始めています。手術のレベルが上がってくるにつれて、標準的な一つの治療法になるのではないのかと考えています。

最近免疫療法についてよく耳にするようになりました。免疫に対する考え方は昔からあるわけですし、患者さんが自分の身体を健康にしようという働きの一つが免疫でがん治療の基本も免疫です。免疫を考える上では、T細胞とB細胞というリンパ球による免疫がよく研究されています。最近ではToll-like receptorと呼ばれる自然免疫が話題になっています。がんに対する免疫治療としては、NK細胞が一つの主役で、最近ノーベル賞で注目された樹状細胞による治療、または、NKT細胞も有力と言われています。「治療法」というためには、ある程度の論理が解明されていることと、その効果が再現できるということが重要です。がん治療の効果を従来の治療法に加えて、患者さん自身の免疫力+付加した免疫治療という兼ね合いで考えるということは、これから必要なことではないかと考えています。

取材にご協力いただいたドクター

東京慈恵会医科大学外科学講座教授(呼吸器,乳腺・内分泌外科学担当), 同附属病院呼吸器外科診療部長 森川 利昭 教授

1977年3月 長崎大学医学部卒業
1977年6月 国立長崎中央病院(現国立病院機構長崎医療センター)研修医
1979年6月 国立がんセンター病院(現国立がんセンター中央病院)外科レジデント
1982年6月 榊原記念病院心臓外科
1983年4月 国立療養所松戸病院外科(現国立がんセンター東病院)医員
1985年2月 北里研究所病院外科医長
1989年7月 北海道恵愛会南一条病院呼吸器外科主任医長
1997年4月 北海道大学医学部第二外科講師
2004年5月 北海道大学大学院腫瘍外科助教授
2005年7月 東京慈恵会医科大学教授

学位  :医学博士(北海道大学)

日本外科学会    評議員
日本呼吸器外科学会 評議員
日本胸部外科学会  評議員
日本内視鏡外科学会 評議員
日本内視鏡外科学会 理事
日本肺癌学会 評議員
日本気胸嚢胞性肺疾患学会 評議員

呼吸器胸腔鏡手術研究会 会長
日本肺癌学会関東部会 世話人
肺外科研究会 世話人
慈大呼吸器疾患研究会 世話人

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