遺伝カウンセラーと医師の役割の違い

公開日:2012年04月01日

目次

監修:東京ミッドタウンクリニックグループ 先端医療研究所
認定遺伝カウンセラー 堀尾 留里子

どこに行ったら遺伝カウンセリングを受けられる?

前回は、遺伝子検査のメリットとデメリットを説明しました。遺伝子検査によって、遺伝性のがんか否かが分かる反面、生涯にわたり変化しない遺伝情報と、それに伴うがんの発症リスクをどのように 親族に知らせるか悩む状況に直面するかもしれません。遺伝子検査は、そうした影響も踏まえて慎重に検討するものであるため、事前に十分な知識を持った専門家による遺伝カウンセリングが必要となります。
今回は、遺伝カウンセリングがどのように行われているかについて解説します。

遺伝カウンセリングの窓口は、病院によってさまざまです。「がん遺伝外来」「遺伝カウンセリング外来」「家族性腫瘍相談外来」「遺伝診療部」など、専門のセクションを設けている病院もあれば、外科や婦人科など一般の診療科のなかに遺伝カウンセリングの専門家がいる病院もあります。
多くの場合、主治医に申し出れば、担当のセクションにつないでもらえます。もし、院内で遺伝カウンセリングを受けられなければ、しかるべき医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。

臨床遺伝専門医とは?

遺伝カウンセリングでは、「臨床遺伝専門医」や「認定遺伝カウンセラー」等の専門家が患者さんの話をていねいに聞きます。医療機関によっては、各科の担当医も参加します。 臨床遺伝専門医とは、日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同認定した専門資格で、保有する医師は700人以上を数えます(2012年1月時点)。遺伝性疾患の臨床を3年以上経験し、専門の研修を受けて試験に合格した医師だけに認められる資格です。最新の遺伝医学、遺伝性疾患による親族への影響、遺伝情報の倫理的課題などを熟知しており、医学的な観点に基づいてカウンセリングを行います。どんな診療科の患者さんにも対応し、適切な遺伝医療を行う専門家なのです。

なんでも相談できる認定遺伝カウンセラー

認定遺伝カウンセラーも、日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同認定する資格の保有者です。現行では、遺伝カウンセラー養成専門過程を設置した大学院を修了することが資格取得のために必要とされています。この職種は、医師ではなく、看護師や保健師、助産師などのメディカルスタッフや、臨床心理士、社会福祉士、 臨床検査技師などのコメディカル・スタッフが担うケースが多く見られます。ほかにも、生物学や生化学などの遺伝医学研究者や、人文・社会福祉系などの専門職が認定を受けている例もあり、全国に120人ほどいます。いずれも、専門の研修を経て、試験に合格した専門家です。

臨床遺伝専門医が主に医学的観点からカウンセリングするのに対し、認定遺伝カウンセラーは、より幅広い視点に立って患者さんを支えます。医学的な情報提供だけでなく、患者の立場から、心理的・社会的な影響、倫理的な課題などについても説明します。 また、医師の専門的な説明を分かりやすく補ったり、患者さんが言い出しにくい気持ちを医師に伝えたりと、医師−患者間の”架け橋”としての役割も担います。遺伝カウンセリングに関する疑問や不安などを、なんでも相談できる存在です。

遺伝カウンセリングの流れ

遺伝子検査は非常にデリケートなテーマで、患者さんや家族に与える影響も大きいものです。そのため、遺伝カウンセリングは時間をかけ、患者が理解できるようていねいに行われます。以下は、遺伝カウンセリングの流れの一例です。

予約
多くの医療機関で完全予約制になっている。

初回面談(30分〜1時間)
臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと話し、相談したい内容を明確にする。家族構成や、疾患歴、妊娠分娩歴などを含め、じっくり話すため、家系図などを用意するとよい。相談内容に関する情報提供と、遺伝子検査などの選択肢の提示が行われる。遺伝子検査の受検は来談者の意思で決めることなので、医療者から検査を受けるよう強制されることはない。

再カウンセリング
初回面談で話した内容を理解しているかどうかの確認。疑問や不安があれば、さらにじっくり話す(遺伝子検査の受検まで複数回の事前カウンセリングを行う場合もある)。遺伝子検査を行う場合は同意の取得が行われる。遺伝子検査を行わない場合は必要な情報を提供し、来談者の希望と必要に応じて今後のカウンセリングを考慮する。

遺伝子検査結果の説明
遺伝子検査を行った場合は、親族への影響を十分配慮しながら、検査結果について説明される。結果に応じた精密検査・治療法の選択肢や、生活上のアドバイス、社会的な支援システムなどに関する情報提供が行われる。

フォローアップカウンセリング
医療機関によっては、複数回にわたってカウンセリングが行われることがある。

遺伝医療のこれから

遺伝カウンセリングは原則として自費診療で行われます。費用は1回のカウンセリングにつき数千円〜数万円で、相談時間の長さにより異なる場合もあります。加えて、検査費用として数万円~二十数万円 も別途必要です。
ただ、検査によっては、例外的に健康保険が認められています。今後も、保険が認められる検査は増える可能性があるため、事前に確認しておきましょう。

欧米では、臨床遺伝専門医も認定遺伝カウンセラーも広く普及した職業で、遺伝カウンセリングも割と一般的に行われています。日本では数年前から認知されるようになったばかりですが、専門家の人数も専門セクションを設ける医療機関も増えてきています。今後、遺伝子に関する研究が進み、遺伝子検査によってがんのリスクや、薬の効きやすさなどが分かるようになれば、さらに遺伝カウンセリングは大切なものになると予想されています。

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