肺がんの左鎖骨転移疑い「抗がん剤治療をうけるべき?」

公開日:2011年09月14日
プロフィール
日本人女性46歳 肺がん 左鎖骨への転移疑い
相談内容
肺がんに関しては腫瘍マーカーもあがらずPET検査でも異常所見は鎖骨のみ。 肺からのものだと放射線と抗がん剤治療と言われているが、今現在、マーカーもあがっておらず、画像上は他の臓器にもがんは出ていない状況で、抗がん剤治療をうけるべきかどうか。また、受ける場合、マーカーについても画像上も薬が効いたかどうかの指標がないので、これをどう考えたらいいか。

医師からの回答

放射線治療医
放射線腫瘍医としての意見を書かせて頂きます。
PETを実施されたのは今回が初めてでしょうか、もし以前されたことがあり、その時に集積がなかったのに今回鎖骨へ集積を認めたとすればやはり転移は考えなければならないと思います。現在使われている腫瘍マーカーはある程度病気が進行しないと上昇しませんし、進行しても常にマーカーに異常がみられるものでもありません。
肺癌の転移が鎖骨に初発することは稀ですがもし転移と確定すれば症状がなくても他病変がないのなら放射線治療をされることをお勧めします。

柏原先生から追加のコメント
前回骨シンチで集積があり、PETで集積を認めなくても骨転移を否定することはできません。前者は骨新生の過程で集積するものであり、後者は腫瘍そのものに集積します。
小さな骨転移病巣なら前者のみに集積があってもよいと思います。術前や経過観察での胸部CTで鎖骨部位を比較してもよりはっきりするとは思いますが、転移と考えるならまず同部位への放射線治療を勧めます。
骨に転移する場合、PETで見つからなくてもミクロな転移巣が存在することが多いですから予防的に化学療法を勧められているものと考えられますがこれについては組織型や遺伝子情報により左右されますので専門の先生にお願いします。(柏原先生)
外科医
外科医の立場から意見を述べます。
今回、初指摘PET陽性の骨病変が出現したようですから、肺がんの骨転移と考えるのが一番自然だと思います。よって、柏原先生の意見を全面的に支持します。しかし、詳細な手術結果(組織型など)の情報が欲しいところです。Stage 1aで UFTを使用されていますので、腺癌であったと推測されますが、そうだとすれば少し珍しい臨床経過です。やはり主治医と良く相談されて今後の検査・治療を受ける事をお勧めします。(草野先生)
腫瘍内科医
腫瘍内科医としてご意見申し上げます。
情報を拝見しまして、主治医の先生の精査の方針に対して、私も同意を致します。最も大事なことは、画像で転移の有無を判断することではなく(もっとも画像診断に関しても、レントゲン、MRI、PET検査を施行なさっていることから現在の医療水準を十分クリアしていると判断できます)、病理学的に鎖骨の組織と右下葉切除肺の組織を比較することであると考えられます。検査の結果をぜひお待ちください。 また、もしこれが病理学的に転移であるとした場合、そしてそれが鎖骨のみ(非常に稀な転移部位ですが)への単発転移であるとした場合、主治医の先生の治療方針に対してどう考えるかですが、標準的な治療方針は主治医がご提案なさっている放射線治療およびその後の抗癌剤治療というのが一般的であることに間違いはありません。
一方、「今現在、マーカーもあがっておらず、画像上は他の臓器にもがんは出ていない状況で、抗がん剤治療をうけるべきかどうか」というご質問はごもっともであり、議論の余地のあるところです。これに関する明確な回答と根拠は存在しません。なぜなら、転移部位が本当に1カ所だけかどうかは誰にもわからないからです。真実が転移1カ所ならば当然抗癌剤治療は必要ありません。また放射線治療でなく、手術摘出を完治のためには施行することが望ましいと考えられます。しかし、多くの場合は1カ所に転移がある場合は後に他にも転移が出てくることが多いので、一般論として放射線治療の後の抗癌剤治療が選択される状況にあります。
ただし、私ならばそのようなご質問をお持ちの患者様に対しては、まずは放射線治療のみを受け、その後1-数ヶ月毎(徐々に期間を延ばしていく)に全身精査を繰り返し、他部位の転移が出てくるまでは抗癌剤なしで経過をみるという方法も主治医の先生の提示方針に加えて選択肢の1つとして提案をすると思います。
また、「抗癌剤治療を受ける場合、マーカーについても画像上も薬が効いたかどうかの指標がないので、これをどう考えるかを教えていただきたいです。」というご質問に対しては、一般的にはシスプラチンまたはカルボプラチンを含む二剤併用化学療法というものを(悪く言えば盲目的に)4コース(約3ヶ月間)施行し、その後は無治療で経過をみるというのが経験的に施行される場合がありますが、根拠は一切ありません。もっと言うのならば、肺癌の手術後に再発した場合に、すぐに抗癌剤治療を開始するのがよいのか、それともしばらくして症状が出始めてから施行しても遅くないのかを比較した根拠はなく、真実はどうかはさておき、答えは存在しません。
そういう意味でも、私の場合には「まずは放射線治療のみを受け、その後1-数ヶ月毎(徐々に期間を延ばしていく)に全身精査を繰り返し、他部位の転移が出てくるまでは抗癌剤なしで経過をみるという方法」を第一選択に提示すると思います。なお、肺癌の病理検体の検査で上皮成長因子受容体の遺伝子変異がある場合には、イレッサ(通常は効果がなくなるまで年余にわたり内服する)という薬剤が上記の二剤併用化学療法よりも優先的に使用されることが多いですが、今回のように指標がない場合にはいつまで投与をしたらよいかが不明のため選択はしにくいと思います。
もっとも鎖骨病変が放射線に不応の場合には、そこを指標としてイレッサを投与することは可能です(場合分けをするときりがありませんが、放射線治療に不応で鎖骨のみしか転移部が当面出現なくば、イレッサよりも手術摘出という方法論も浮上します)。 (関先生)
代表理事(総合内科専門医)
総合内科専門医として、先生方のコメントをまとめて、やはり柏原先生、関先生のおっしゃるように「まずは放射線治療のみを受け、その後1-数ヶ月毎(徐々に期間を延ばしていく)に全身精査を繰り返し、他部位の転移が出てくるまでは抗癌剤なしで経過をみるという方法」が良いと思います。(田口先生)