【QOL(生活の質)】がん治療中の口腔ケア

公開日:2016年10月31日

目次

 口腔内を清潔で健康な状態に維持することは、がん治療のあらゆる段階で重要です。がん治療と口腔ケアの重要性については、「2015年4月号【特集記事】がん治療とQOLを向上させる口腔ケア」をご参照ください。ここでは治療中の口腔ケアの実用情報をまとめてお届けします。

がん治療に口腔ケアが必要な理由

 口腔ケアとは、口の中を清潔に保つお手入れのことです。抗がん剤や放射線治療中は、副作用の口内炎や吐き気などにより歯磨きを敬遠しがちになります。また、食べたり飲んだりしていないから歯磨きをしなくてもいいと誤解している方も少なくありません。しかし、口の中を清潔に保てないと、虫歯や歯周病になってしまいます。

歯周病は感染症です。体力や免疫力が低下していると口内炎になったところから口腔内の細菌が侵入し、敗血症などさまざまな感染症になる恐れもあります。また、歯周病から糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞などの病気になりやすいこともわかってきました。がん治療中にこのような合併症が起こると、治療の中断や治療効果の低下につながってしまいます。

がん治療中に口内炎などの副作用、あるいは虫歯や歯周病などのトラブルが生じた場合は、がんの主治医と相談し、歯科を受診しましょう。

口腔ケアの基本は正しい歯磨き

 歯磨きは1日3回、朝食後、昼食後、そして就寝前に磨くのが基本です。がん患者さんは、歯ブラシの選び方に注意が必要です。口腔内の粘膜になるべく触れずに歯を磨けるように、ヘッドが小さく、柄がストレートで、毛先が柔らかい歯ブラシがおすすめです。また、普通の歯ブラシが届きにくい奥の歯や歯の裏側などの磨き残しを防ぐには、シングルタフトブラシ(1本磨き用歯ブラシ)も併用しましょう。

静岡県立静岡がんセンターと静岡県歯科医師会、そしてデンタルケア用品のメーカーとして知られるサンスターの3者が共同で開発した、がん患者さん用の低刺激な口腔ケア用品も販売されています。治療を受けている病院や薬局、ドラッグストアなどに問い合わせてみてください。

歯を磨くときは、ペンを持つように歯ブラシを持ちます。この持ち方だと余計な力を入れずにていねいに磨くことができるからです。

磨く際には、歯だけではなく、歯茎を含めて磨いてください。歯ブラシは、口腔内を傷つけないように、力を入れずにヘッドを細かく動かすのがコツです。歯茎に歯ブラシが当たると痛い場合は、歯ブラシを歯自体に直角に当てるようにすれば歯茎に触れないで歯を磨くことができます。口内炎がある場合は、その部分を避けて、歯と周囲の歯茎の部分をていねいに磨きましょう。口内炎が治ったら通常の歯磨きを再開しましょう。

口内炎の時はうがいで清潔ケア

 口の中の清潔ケアは、たとえ飲食をしていなくても必要です。歯磨きができない場合は、食事をした後に生理食塩水でうがいをしましょう。うがいは口腔内の保湿にも繋がり、口内炎などの口腔粘膜炎症状が軽減する可能性があります。口腔内の乾燥状態によりますが、1日3〜8回を目安にうがいをすると、保湿と清潔に役立ちます。

生理食塩水の作り方は、洗浄した1ℓのペットボトルに水1ℓと9gの食塩を入れ、蓋をして食塩が溶けるまでよく振ります。500mlのペットボトルを利用する場合には、食塩を半量にしてください。なお、市販の洗口液や液体歯磨き剤のうち、アルコールを含んでいるものは粘膜を刺激するため、使用を控えましょう。

また、口角にびらんなど炎症がある場合は、大きく口をあけると患部が裂けて出血することがあります。そういう状態の場合には、口の中の清潔ケアの一環として、口をあける前に口角にワセリンなどを塗るといった配慮と注意が必要です。

義歯(入れ歯)を使用している場合

 義歯のお手入れも口の中の清潔保持には欠かせません。義歯のばねに歯垢がたまりやすいので、毎食後に義歯をはずし、義歯用ブラシでこすり洗いをしましょう。夜間は義歯をはずし、歯ブラシや義歯用のブラシで洗浄してから保管します。

口内炎が生じたら、義歯の使用を控えましょう。義歯がないと食べ物をかむことができない場合は、食事を軟らかいものや小さく刻んだものに変えて食べやすくする工夫が必要です。

歯がなく、うがいもできない場合

 歯がない方も口の中の清潔は欠かせません。患者さん自身でセルフケアができない場合は、周囲で治療をサポートする人が、ぬるま湯に浸したガーゼで口内炎の患部を保護しながら歯を磨く、あるいはスポンジブラシに保湿剤を塗って口腔内をやさしくぬぐうことで清潔を保つ方法もあります。その時の口の状態に応じ、より刺激の少ない手段で口腔内を清潔に保ちましょう。

がん治療中に歯科受診・治療が必要になったら

 虫歯や歯周病などで、がん治療中に歯科受診・治療が必要になった場合は、がん治療の主治医に相談し、がん患者さんの歯科治療に対応できる歯科医師を紹介してもらいましょう。がん治療の主治医と歯科医師の連携は欠かせません。歯科のかかりつけ医がいる場合には、対応の可否を確認したうえで受診し、歯科治療に際しては受けているがん治療についての情報を伝えるとともに主治医との連携も依頼しましょう。

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