【医療情勢】国内初の「支持療法センター」設置 静岡がんセンター

公開日:2016年10月31日

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 手術、放射線、抗がん剤など、がんの治療法が進歩し、がん患者さんの生存期間が延びています。しかしその半面、治療に伴う副作用、合併症、後遺症に苦しんでいる患者さんも多くいます。

がんに伴う症状、抗がん剤などの治療によって起こる副作用や後遺症を軽減したり、予防したりする治療を「支持療法」といいます。具体的には、感染症に対する抗菌薬の投与、貧血や血小板減少など抗がん剤の副作用に対する輸血療法、吐き気や嘔吐に対する制吐剤の使用などです。

8月29日、静岡県立静岡がんセンター は国内で初めて「支持療法センター」を開設しました。支持療法センターの目的は、「患者さんの体の苦痛」に焦点を当てて、がんと共生する暮らしを医療面からサポートすることです。

日本のがん支持療法はまだまだ発展途上

 静岡がんセンターの研究班が2013年に実施したがん患者の実態調査の結果、がんによる症状や治療に伴う副作用・後遺症に関する悩みのうち、しびれ(末梢神経障害)や外見の変化(爪・皮膚障害、脱毛)をはじめとした薬物療法にかかわる悩みの割合が増加している(2003年19.2%→2013)年42.7%)ことがわかりました。

また、がん種別に見ると、胃がん患者では胃切除術後の食事や体重減少、子宮がん患者ではリンパ浮腫による症状に苦悩している人が多く、手術に関連した合併症や後遺症も大きな問題となっています。

一方、治療に伴う副作用、合併症、後遺症に対する予防とケア(支持療法)については、海外では多職種による幅広い分野で研究が行われ、ガイドラインの整備も進んでいますが、日本では研究が少なく、実態も十分に把握できておらず、支持療法の開発と普及が課題となっています。

患者のプライバシーに配慮した支持療法

 静岡がんセンターでは、2002年の開院当初から、病気による症状や治療に伴う副作用の治療、予防、ケアを行う支持療法を、抗がん剤治療、緩和ケアに並ぶ3大治療方針の1つに掲げて実践してきました。

具体的には、リハビリテーション科や、歯科口腔外科などの治療や予防、ケアの実施や指導、治療にあたって患者さんが知っておくべき情報をまとめた冊子やビデオの制作、それらの情報を手に取りやすい場所でコンパクトに情報提供するなどの取り組みを行っています。

この10年間の蓄積を活かそうと、支持療法をより適切に患者さんに提供するために、従来の「処置センター」を「支持療法センター」にリニューアルしました。静岡がんセンターのさまざまな部門で実施される支持療法を統括する役割を担っています。

支持療法センターは、個室治療14床、相談室2床で、治療中のプライバシーに配慮した設計になっています。専任の看護師と認定看護師が配置されています。抗がん剤治療による副作用に対し、医師、がん専門看護師、栄養管理士、薬剤師、リハビリテーションチーム、口腔ケアチームなどで患者さんを支援する体制になっています。

また、医療用具の管理方法や衣食住に関する相談・管理方法は、患者さんや家族だけでなく、連携する訪問看護師にも実技指導を行っています。

支持療法センターの開設にあたって、副院長兼患者家族支援センターの鶴田清子センター長は、「『患者家族支援センター』と『よろず相談』、『支持療法センター』の3部門が相互に連携することで、患者さんが安心して診断、治療、在宅療養生活を過ごせる質の高い支援が提供できます」と話しています。

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国を挙げての支持療法の取り組みがスタート

 厚生労働省は現在、がんに伴う症状、抗がん剤などの治療による副作用や後遺症などについて、症状の軽減や予防を目指す治療「支持療法」の診療ガイドラインづくりを進めています。研究期間は2018年度までの3年間を予定しています。

また、国立がん研究センターでは、2015年1月1日に支持療法開発センターが発足しており、支持療法の開発および検証を行っています。支持療法開発センターを事務局にして、J-SUPPORT(日本がん支持療法研究グループ)が2016年2月19日に設立され、支持療法の開発と検証のための基盤整備が進んでいます。

国内では「支持療法」という名称を掲げて対応している施設は少なく、多くは緩和ケアの一環として支持療法が行われているのが実態です。治療による副作用や後遺症などで悩んでいる場合は、腫瘍内科、緩和支持治療科、緩和ケア科などのある医療機関に相談してみてください。

 

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[プレスリリース]
http://www.scchr.jp/press_releases/20160908/20160908.pdf

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。